バカ売れ任天堂Switch 反撃狙うソニーPS4後継機は不安要素も

2020年7月25日

NEWSポストセブン

 コロナによる長い自粛生活から大ヒットとなったゲーム「あつまれ どうぶつの森」と家庭用ゲーム機の「ニンテンドースイッチ」。一方、巻き返しを図りたいライバルのソニー「プレイステーション4」は後継機を今年中に発売予定だが、エース経済研究所シニアアナリストの安田秀樹氏は“3つの不安要素”を指摘する。

「ニンテンドースイッチ(Nintendo Switch)」は2月から店頭で見かけることがなくなり、5か月が経った7月半ばでも、入手困難な状況にある。発売から4年目に入ったゲーム機が品切れを起こす現象は、ゲーム業界を20年ほど見てきた筆者にも記憶にない異常な現象である。

 また、ソニーの「プレイステーション4(PS4)」も需要の増加によって品薄である。ただ、同じ品薄でも、国内の販売はスイッチの週5万台~10万台なのに対して、PS4は多くて1万台後半と台数の差は圧倒的である。新型コロナウイルスは図らずも、国内市場でPSの地位低下を露呈してしまったと言えるだろう。

 スイッチの販売好調は、3月20日に発売した「あつまれ どうぶつの森(あつ森)」とSwitch Liteによるものである。コロナにより旅行や外出が難しくなり、家庭内の娯楽として、無人島のスローライフが楽しめる「あつ森」に需要が集中したためと考えている。

売れるゲーム機はデザインとスタイルで決まる

 もうひとつ、一般には気付かれていないが、携帯ゲーム機であるSwitch Liteの効果も見逃せない。統計データがある過去25年の歴史を見ても、販売のトレンドが上方に変化したケースは、「ニンテンドーDS Lite」、「PSP-2000」、そして「Switch Lite」のたった3回しかない。

 共通しているのは、デザイン的な変化である。DS Liteはスタイリッシュなデザインで一気に販売を伸ばしたし、PSP-2000も薄型軽量化で人気となった。そして今回のSwitch Liteは前2ゲーム機とは違い、ニンテンドースイッチの良さを引き出した面があると考えている。

 世間一般では、ゲーム機は「ソフト」で売れるものと認識されているが、エース経済研究所では「デザイン」と「スタイル(遊び方)」で決まると考えている。

 Switch Liteは携帯ゲーム機でテレビには繋がらず、スタイルが限定されている。それがニンテンドースイッチの「いつでも どこでも 誰とでも」の良さを引き出した。そこにコロナによる需要増と「あつ森」効果が加わったことで発売から4年目の異例ヒットに繋がったと考えるのが妥当だろう。

PSブランドはなぜ凋落したか

 そして、同時にPSブランドの凋落も示している。かつてPS2は国内で2000万台を大きく上回る販売を実現し、キャッチコピーも「すべてのゲームが集まる」だった。しかし、今やPSブランドは特定のマニアのものに過ぎなくなってしまっている。

 ソニーは「スマートフォンゲームの普及でゲーム機が廃れたから仕方ない」と思っている節があるが、ニンテンドースイッチの大成功は、その考えが極めて甘いものだったことを証明している。

 米国に本社機能の大半を移した結果、市場サイズが米国の半分以下の国内市場が小さく見えるようになってしまい、日本市場を見捨てるような行動に繋がった。結果、国内のゲーマーの心が徐々にだが、確実に離れてしまっているように見える。これが国内におけるPSの没落をもたらした要因と考えている。

 日本はPS4では10%満たない市場で見捨てるべき存在かもしれないが、ニンテンドースイッチでは4分の1を占める大きな市場である。この認識のズレは、ソニーの戦略ミスに思えてならない。

3つの不安抱える「PS5」

 そんな中、ソニーは今年の年末商戦期に次世代ゲーム機「プレイステーション5」を発売する予定だ。ハードディスクではなくフラッシュメモリーを使った高速SSDと高性能半導体が生み出す圧倒的な“イマーシブ(没入感)”が売りだとしている。

 没入感とはあまり聞き慣れない言葉だが、「ゲームソフトに熱中する様」ということのようである。だが、この没入感という言葉は、実はゲーム機では極めて験(ゲン)が悪い。

 なぜかというと、すでに任天堂の故・岩田社長が一時期好んで使った表現だからである。そして、このコンセプトで世に問うたゲーム機が「ニンテンドー3DS」と「バーチャルボーイ」の2機種である。しかし、バーチャルボーイは出荷台数77万台と大失敗に終わった。3DSも販売(着荷)台数が8000万台とソニーのゲーム機で失敗に終わった「PS3」並みだった。

 もっとも、ゲーム機の販売が「デザイン」と「スタイル」で決まるならば、PS5は3つの不安材料を抱えている。

 第1に、その大きさである。サイズは公表されていないが、公開された画像から高さは35cmを優に超える巨大さだと思われる。重量も相当なものと推測され、スタイリッシュさからはかけ離れている。仮にヒットしたときでも、このサイズでは緊急の空輸は行えないだろう。

 第2が、曲面デザインである。なにをもって曲面とするかには様々な意見があろうが、人間は簡略化してモノをとらえる傾向があり、どうも板状でないとゲーム機に見えないようである。ネット上では〈中央線の特急あずさに見える〉とか、〈ルータに見える〉など、ゲーム機に見えないという意見が散見されるのは不安材料と言っていいだろう。

 第3に、白い色で成功したゲーム機は少ないということである。成形技術が進歩した1990年代以降、白いゲーム機で成功した事例は「Wii」ぐらいしかない。そのWiiにしても、リモコンの斬新な操作性がライトユーザーには受けたが、マニア受けは決して良くなかったのである。

PS5の“最終顧客”は誰なのか

 最後に、PS5から感じるのは、ソニーにとっての最終顧客は一体誰なのかという疑問である。

 データから見ても、ユーザーは性能で購入を決めていないのは明らかである。また、ゲーム専用機は誕生して40年近くが経過しており、何十種類のゲーム機が発売されてきたが、大きいゲーム機が売れた事例がない。これは大変重い事実である。ソニーはマーケティングの結果というかもしれないが、この事実は直視すべきだろう。

 にもかかわらず性能を追求するのは、ユーザーではなくゲーム開発者の意向を優先しているからではないか? と強く感じざるを得ない。

 この疑問が正しいかどうかは、年末商戦の動向で明らかになるだろう。果たして、PS5がどれだけユーザーの心を掴めるのか注目したい。