新型コロナウイルスの影響で「半世紀以上前のプログラミング言語の使い手」が急募される事態に

2020年4月6日

GIGAZINE(ギガジン)

アメリカ・ニュージャージー州のフィル・マーフィー知事が、2020年4月4日の記者会見で「プログラミング言語COBOLのスキルを備えたボランティアが必要です」と訴えました。その背景には、新型コロナウイルスの影響で失業保険の請求が急増しているため、COBOLで記述された古いシステムの改修や維持管理を行える人材が必要になったという事情があります。

COBOL-coding volunteers sought as creaking mainframes slow New Jersey’s coronavirus response • The Register

https://www.theregister.co.uk/2020/04/05/new_jersey_seeks_cobol_volunteers/

COVID-19 Response: New Jersey Urgently Needs COBOL Programmers (Yes, You Read That Correctly) – Joseph Steinberg

https://josephsteinberg.com/covid-19-response-new-jersey-urgently-needs-cobol-programmers-yes-you-read-that-correctly/

COBOLは、故グレース・ホッパー氏やジーン・サメット氏らが1959年に開発したプログラミング言語で、2019年にアメリカの電気電子学会が発表した「人気の高いプログラミング言語2019」では総合スコアが100ポイント中24.1ポイント、順位が全52言語中44位と、お世辞にも人気とは言い難いプログラミング言語です。

そんなCOBOLについて、マーフィー知事は「必要とされるボランティアのリストには、医療従事者だけでなく、レガシーシステムの改修ができるCOBOLのスキルを持った人も加わっています」と述べました。なお、マーフィー知事はこの時、誤ってCOBOL(コボル)を「Cobalt(コバルト)」と発音しています。

マーフィー知事がCOBOLに言及している場面は、以下の会見映像の54分27秒のあたりから再生すると見ることができます。

ASL TRANSLATION: Governor holds coronavirus briefing on April 4, 2020 – YouTube

サイバーセキュリティの専門家であるジョセフ・スタインバーグ氏は「COBOLは60年以上前の言語で、かつては業界や政府のソフトウェア開発の花形でしたが、1980年代後半にはほとんどの大学がコンピューターサイエンスのカリキュラムから外すほど時代遅れになりました。今日でもCOBOLシステムが使用されていることは確かですが、50歳未満のソフトウェア開発者はCOBOLのコード1行さえ見たことがなく、書きたいとも思っていません。かつてゴールドマンサックスの幹部であった62歳の州知事でさえ、COBOLの名前を言い間違えてしまうというのも無理からぬことです」と評しました。

60年以上前に開発されたプログラミング言語の技術者が2020年になって必要とされているのは、COBOLが開発環境の中心だった時代に作られた失業保険システムが今なお現役で使用されているためです。

ニュージャージー州労働および労働力開発局のロバート・アサロ・アンジェロ局長は、「全国の雇用当局には自宅待機を余儀なくされている人からの問い合わせが殺到していますが、ニュージャージー州も例外ではありません。我々のカスタマーセンターへの1週間当たりの電話件数は17倍にも増加しました。私たちのITスタッフは、このような状況下で40年以上前のメインフレームシステムを稼働させ続けているわけです。ご不便をおかけして申し訳ありませんが、目下、お客様からの電話やメールによる請求をシステムに取り込むよう最優先で取り組んでおります」と述べて、激増した失業保険の給付申請に古いシステムが対応しきれていない状況を説明しました。

古いシステムが使用され続けていることに伴う「システムの柔軟性の欠如」という問題は、既にオンラインでの給付申請の半分近くが滞っているという形で表面化しています。この点についてマーフィー知事は、4月2日の会見でも「システムの遅延などがあることを認識していますが、皆さんには辛抱強く待っていてもらいたいと思っています。申請は必ず処理され、給付金は1セントたりとも損なわれることはありません」と述べています。

また、スタインバーグ氏は「1990年代半ばから後半にかけて、2000年問題のために多くの引退したCOBOLプログラマーが駆り出されました。その結果、メンテナンスの問題が深刻になる前に、COBOLベースのシステムをできるだけ早く交換する必要があるという教訓が、業界全体の共通認識となりました。しかし、ニュージャージー州政府は適切に情報システムを更新することに失敗しました。パンデミックが終わったら、2000年問題の時に行われたはずの取り組みをもう一度行い、国中の時代遅れのシステムを更新しましょう。これ以上待っていると、また別の災いが起きかねません」と述べて、システムを更新することの重要性を強調しました。