20代女性、「食費5万円」が高すぎる? 「節約しろ!」論に、「お金のプロ」が同意しない理由

2020年11月28日

J-CASTニュース

NHKのニュースで取り上げられた若い女性の家計簿をめぐり、議論が巻き起こっている。

25歳の女性は月の食費を「5万円」としたが、これに対し「高すぎ」「全然高くない」とそれぞれ全く逆の意見がツイッター上で聞かれたのだ。「食費5万円」は高いのか、高くないのか。政府の統計、専門家の意見から見えてきたものは。

「ボーナスカット」が特集テーマだったが…

発端となったのは、20年11月10日に放送された「ニュースウオッチ9」(NHK総合)内の特集。コロナ禍によって多くの企業が冬のボーナスカットに踏み切る中、ローン返済に追われる人たちの不安に迫るという内容だった。

そこで取り上げられたのが、都内の企業で働く25歳の女性だ。大学進学のために借り入れた奨学金600万円を毎月3万円、40歳まで返済する計画だが、コロナ禍での残業時間減少に伴う収入減と冬のボーナス無支給が直撃。家計も苦しく、女性は「病院とか、とっさの時にお金が出せないのはしんどい」「奨学金破産している人のSNSとか見てると、自分もそうなるのかなっていう恐怖みたいなものがすごくある」と不安を口にした。

ニュースでは女性が月の家計簿をつけているシーンが一瞬だけ写された。ここでは「給料21万円」に対する、家賃(7.5万円)や光熱費(1.5万円)など項目別の支出額が確認できた。そして、食費は「5万円」と書かれていた。

番組では女性の居住地、一人暮らしかどうかなどは伝えられなかった。ただ、ツイッター上では女性を「25歳の一人暮らしのOL」とみなした上で、この家計簿の画像が拡散。女性の食費が5万円であることに対し「高すぎ」「甘えも良い所」などとする声が上がった。その一方で、「全然高くない」「食費5万は普通に切り詰めてる方でしょ」と逆の意見も目立ち、議論を呼んだ。

元々のニュースの趣旨から、いわば「独り歩き」する形で広まってしまったこの論争だが、「食費を節約しろ!」と主張する一部ツイッターの声は、はたして妥当なのか。あくまで一般論として、「食費5万円」という数値を分析してみよう。

政府の家計調査で「近い条件」見ると…

食費5万円は「高すぎ」なのか「高くない」のか。ニュースで取り上げられた女性が単身世帯だと仮定した上で、政府の家計調査から、女性と比較的近い条件のデータを見てみる。

19年の家計調査では、単身世帯のうち、34歳以下の勤労者世帯の平均食料費は1ヶ月で4万3848円だった。これが女性のみでは3万9388円、男性のみでは4万6957円となる。ただ、この統計では収入や居住地はわからない。

女性は月の収入を「21万円」としていた。100万円未満から600万円以上まで、年間収入を7つの階級に分けた統計データの中で、女性の年収と考えられる数値に近いものを見てみると、200~300万円の単身世帯の1ヶ月間の平均食料費は3万9835円、300~400万円では、300~400万円では4万3072円だった。

また、地方別に単身世帯の1カ月間の食費を見たデータでは、関東地方は4万5169円だった。最も安かった北海道・東北地方が3万4752円だったのと比べると、実に1万円以上の開きがある。

このように条件によって一概には言えないものの、番組に出演した女性と比較的近い条件のデータを見てみると、1カ月間の食費は、おおよそ4万円前後が相場だということが見えてくる。ただ、これらはコロナ禍が訪れる前、19年のデータだ。

11月6日に公開された20年7月~9月期の家計調査では、単身世帯のうち、34歳以下の勤労者世帯の平均食料費は1ヶ月で3万3949円だった。女性のみでは2万9120円と、3万円を切っている。前年同期がそれぞれ、4万6737円、4万1999円だったことを見れば、大幅な減少だ。

「お金を節約したいからと言って…」

お金のプロはどう見るのか。J-CASTニュースは11月27日、ファイナンシャルプランナーの飯村久美さんに話を聞いた。飯村さんは「自炊ができず外食に頼らざるを得ない環境で5万円なのか、自炊をすれば食費を下げられる環境で5万円なのか、その中身にもよる」とした上で、無理のない生活を送るためには「手取り収入に占める食費の割合が16%となるのが理想です」と語る。月収21万円のこの女性にあてはめると、理想値は「3万3600円」だ。

飯村さんは、この「3万3600円」の中で食費をやりくりできればベストだとしたものの、「『身体に良い有機野菜を買う』『食費だけは譲れない』など、食に対する価値基準や優先順位は人それぞれです。この方が食にウエイトを置いているのであれば、それで『OK』というケースもあります」と説明。その上で、

「お金を節約したいからと言って闇雲に食費を減らす、食事を浮かせるというのは健康への観点からもオススメではありません」

と語った。

節約のためには何を減らすべきなのか。飯村さんは「家賃や水道光熱費、通信費、生命保険など、毎月必ず引き落としがある『固定費』を削減できないか、見直した方がいいのではないでしょうか」と話す。

この女性のケースでは、1.5万円かかっている水道光熱費を1万円強に減らしたり、1万円かかっている「ケータイ・Wi-Fi費」を、格安SIMなどを活用して7000円程度に減らすことが望ましいとした。