2020年1月26日
HARBOR BUSINESS Online
◆セブンイレブン公式もがツイートしたバズりの陰にいた男
少し前からセブン-イレブンで「たっぷりコーンスティック」が一部でバカ売れしているらしい。
そのきっかけを作ったのは、DJの高野政所氏。過去にはインドネシアのダンスミュージック「ファンコット」を日本に伝導し、「チェアリング」の実践者としても知られる、サブカルチャーにおけるさらにニッチなトレンドのエヴァンジェリストとして知られる人物だ。
彼がなぜ「たっぷりコーンスティック」のバカ売れのきっかけとなったのかというと、昨年11月のとある日の深夜、DJを終えた高野氏が空腹のままコンビニを訪れたことに端を発する。
「メシも食わずに現場入りして、そのまま4時間ほど酒とタバコだけでDJしたあとだったんです。さすがに腹減ったなと思ってコンビニに行ったんです。セブンイレブンに入り、一通り品揃えを確認すると、この夜中でもホットスナック棚にいくつか商品が残ってました。弁当は残り数個。おにぎりもあるけどそれらはあまりピンと来なかった。そんな中、調理パンの棚に残っていた『たっぷりコーンスティック』がピンと来たんです。
この『たっぷりコーンスティック』って、ちょっと不思議な形状をしていて、平べったく細長いパンなんだけど、コーンとマヨネーズが乗っている中央部が溝のように薄くなってんですね。そう、まさに溝です。ここにさらに何かがハマるんじゃないかと思ったんです」
そんな彼は、最初に眺めた「ホットスナック」のケースの中にあったあるものを思い出したという。「フランクフルト」である。
「これは! と閃きました。このくぼみはきっとあのフランクフルトを置くためのくぼみに違いない! よし、この合体を試してみてよう!と思い、迷わずマヨコーンスティックを持ってレジに行き、BIGポークフランクを注文、店を出て路上でパンの袋を開けて、パンの窪みに合わせておもむろにフランクを串ごと挿入しました。
なんという収まりの良さ! そして、袋を押さえながらフランクの串を引き抜き、挟み込むように握ったそれを頬張りました。それが予想通り……とうか、予想以上の美味さで、感動したんです。コーンの歯応えとマヨネーズの味わい、フランクの肉感、それを全て包むパンの食感。油とタンパク質と炭水化物のハーモニー! これは美食! 理想的なジャンク感、こってり感! 適度なボリューム! うまい物を食ってる時特有の充足感! これは発見だと思いました。他に試みた人はいるのだろうか? 早く誰かに伝えないと!とそう思ったときはあっという間に食べ終わっていました」
◆「SBT」という言葉が生まれた瞬間
その日は、興奮のあまり写真を撮ることもツイートすることも忘れてしまった高野氏だが、翌日のライブで後輩にこの組み合わせを教えて、写真を撮ってこの食べ方をTwitterで拡散しようと思ったのだという。
そしてツイートしたのが、”昨日はセブンイレブンの「たっぷりコーンスティック」に「BIGポークフランク」を挟んで食べるとめちゃうまいと言うストリート美食テクニック(SBT)をiyochangに伝授しました。是非、皆さんも一度お試しください。”というツイート。
「ストリートで食ってるし、うまいし、工夫してるからいいだろってことで、『ストリート美食テクニック(SBT)』と名付けてツイートしたんですが、これが自分的には結構拡散して、いいねが3000ぐらい。RTが1700ついたんです。更にその後、三角絞めさんというブロガーの方が、この『SBT』を試したツイートがなんと1万リツイート超、いいねは3万超という巨大なバズりを見せたところ、なんとセブン-イレブンの公式Twitterさんが反応してくれたんです」
◆「都市」を新たな視点で遊び倒す
そんな「SBT」をバズらせた高野氏だが、いまはこうした「グルメネタ」とは別のことを編み出しているという。
「『SBT』は”コンビニで売ってるものをうまく組み合わせてより美味しいものを作り出す”テクニックだったんですが、この方向性は実はもともと知人のDJが『コンビニかけ合わせグルメ』として提唱し、本も出していたものなんで、他のSBTを編み出してもパクリになってしまう可能性もあるという懸念から、食だけに拘ることから脱しようと思いまして。ならば美食って事にこだわらずに、ストリートで生きる人達の知恵と技術、『ストリートテクニック』を提唱しようと」
「ストリートテクニック」とは何なのか? 高野氏はこう語る。
「例えば、ストリートスケーターは街の地形、高低やスロープ、いい感じの場所を常に探しており、発見したらそこに対応した己の身体能力とテクニックを駆使してボードを使って遊びますよね。街の構造物を普通に生活する人とは違う視点で捉えて、スケーターなりの解釈をしてトリックを仕掛けるわけです。ストリートテクニックという遊びでは、いわばスケートボードの代わりに、脳をフル回転させて街頭技巧者(ストリートテクニックを嗜む人の総称らしい)独自の視点で街の構造物から新たな意味を見出す『ブレインスポーツ』、思考のパルクールなんです」
実践する際はもちろん一人でもできるが、基本的にはヒッピホップにおける「サイファー」(ラッパーが集まり、円になりフリースタイルラップをし合うこと)のように街頭技巧者3人~4人のグループで、一時間から2時間の間に知らない街を散歩するという「ストテク散歩」が盛り上がるのだという。
散歩の間に、街頭技巧者は街を歩きながら、あらゆる建物、看板、張り紙、造形物、樹木、その他森羅万象に注意を払いながら歩き、自身がストテクを見出したら、宣言した上で自身が思いついた独自の視点に基づく「ストリートテクニック」を披露するのだという。イメージしづらいかもしれないが、正直書いているほうもイメージできていない。
◆「自分の当たり前」は人と同じではない
「テレビでお笑い芸人がやる『モノボケ』に近いかもしれませんが、別にボケである必要はありません。大事なのはあくまでも街中にあるもの全てを『街頭技巧視点(ストテクアイズ)』で見て、それを利用してできるリアクションを考えて実行することであり、街の状況、見える景色に最大限に感受性のチャンネルを開いて味わうことを楽しむなんです。それに、『自分にとって当たり前に感じていることは、他人はそう感じていない』ということを見出す事ができるのも『ストテク散歩』の醍醐味の一つだと思っています」
高野氏らは、これらのセッションをTwitterで毎日投稿している他、You Tubeにもアップしている。
「先日、南浦和のDJバーでイベントをやったときも、DJやラッパーを本業とする出演者しかいないにも関わらず、一切、音楽的なパフォーマンスなしでも成立し、お客さんの反応も良かったんで、面白がってくれる人はいると思います。ただ、正直な所まだ『これの何が面白いの?』とか、『ストリートテクニックっていきなり言われても……』という方はたくさんいるんですよね。なんとかムーブメントを起こしたいと思っているんですが……」
1月22日のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』では、旧知の仲でもあるライムスターの宇多丸氏に「すごいいい概念」と太鼓判を押されたという高野氏。まだ火がつくとも言えるので、いち早く手を付けるなら今……なのかもしれない。
<文/HBO編集部>