実は「飛び出したら勝ち」だった?45周年『黒ひげ危機一発』ルール変更に至る物語

2020年6月4日

オリコン

 タカラトミーのロングセラーパーティゲーム『黒ひげ危機一発』が今年7月に45周年を迎える。黒ひげを蓄えた海賊の親分が捕らえられている樽に1人ずつ順番に短剣を刺し、「飛び出させた人が負け」というルールは今や誰もが知る常識。ところが開発当初はまったく逆のストーリーが設定されていた。世代を超えて愛され続ける国民的ゲームの開発の背景や、45年間の意外な変遷、そして「黒ひげの未来」にかける思いを、タカラトミー ニュープロダクト事業部 ニュープロダクトマーケティング課で『黒ひげ危機一発』を担当する池田源氏に聞いた。

■人気バラエティがきっかけ「民意でルールが真逆に」

 海賊がいつ飛び出すかというハラハラドキドキ感、そして飛び出したときの驚き、樽を囲んだ仲間たちの間に起こる和やかな笑い──。誰もが一度は遊んだことがある国民的ゲーム『黒ひげ危機一発』が、1975年の発売から今年7月で45周年を迎える。大人から子どもまで誰もが楽しめる単純明快さ、それでいて飽きることなく何度も繰り返し遊べる、そんな不朽の定番ゲームが誕生したのは鎌倉の海のそばだったという。

【池田氏】会社に閉じこもっていても遊び心のあるアイデアは生まれないということで、弊社ではときどき環境を変えた企画合宿を行うんです。『黒ひげ』が開発されたときには、「ファミリー向けアクションゲーム」「何度でも遊べるランダム性」という2つのミッションがありました。そして鎌倉の海を眺めていたある社員が『アクション→カッコいい/海→海賊』と連想を巡らせていったのが、『黒ひげ』の原点だったと資料に残っています。

 さらに海賊というモチーフから「敵に捕まり、樽の中でグルグル巻きにされている親分を救出するため、子分たちが短剣を刺して縄を切る」というストーリーを設定。パッケージにも「飛び出させた人が勝ち」というルールが明記された。つまり当初のルールは、現在広く知られているものとはまったく真逆だったのだ。

 ともあれ、シンプルかつ飽きのこないゲーム性やユーモラスなキャラクターから初代『黒ひげ』は瞬く間にヒット商品に。さらに「誰が飛び出させるかわからない」という公平性やスリル感、飛び出させた人のビックリする様子や表情がウケたことから、当時の人気クイズ番組『クイズ!ドレミファドン!』(1976-88年・フジテレビ系)の企画コーナーにも採用。お茶の間への認知をますます広めていく。ところが同番組でのルールは「飛び出した剣を刺した解答者の得点を没収」。つまり「飛び出させた人=負け」という、本来のルールとはまったく逆の意味合いで使われた。

【池田氏】やはりテレビの影響力は大きいですね。弊社でも調査したところ、当時からほとんどのユーザーが『飛び出させたら負け』と認知していました。まあ、弊社としては楽しんでいただけるならどっちでもいいかと(笑)、なので、79年にはパッケージにも『飛び出したら勝ちまたは負け(遊ぶ前にどちらにするか決めてください)』と明記しました。そしてとうとう95年に『飛び出させたら負け』と正式にルール変更が行われたんです。いわば”民意”によってルールが真逆になった、珍しいケースだと思います。

■45年間で「カッコイイ」から「愛嬌がある」海賊に変化

 ほかにも『黒ひげ』45年の歴史にはさまざまなアップデートがなされている。たとえば現行品の黒ひげ人形は顔が丸く、口の周りをグルリと取り巻く“口ヒゲ”を蓄えているが、初代は”アゴヒゲ”で顔立ちもどことなくシュッとしていた。また樽も現在のふっくらしたフォルムと比べて、初代はやや細長い形状だった。

【池田氏】デザインの変遷については、開発当初は『海賊=カッコいい』というイメージをビジュアルにも落とし込んだものだったのですが、やはり<4歳以上対象のファミリーゲーム>としてはもっと愛嬌がある感じがいいんじゃないかと、全体的に丸みのあるフォルムになっていきました。

 さらにこの間、さまざまな面から玩具業界の安全基準の見直しも行われてきた。そんな日本のおもちゃの歴史が『黒ひげ』のデザインからも見て取れる。

【池田氏】何よりもまず安全に遊んでいただくのは、玩具メーカーとしての至上命題。日本玩具協会さんが定める安全基準はもちろん、弊社にも“辞書のように分厚い独自の安全マニュアル”があり、それをすべてクリアしなければ、いかにヒットが期待できそうなおもちゃでも世には出せません。黒ひげの剣も初代はもっと鋭く細いものでしたが、現行品はどこにも角のない丸みを帯びた形状になっています。

 45周年記念の新商品『超飛び黒ひげ危機一発MAX5』は、遊び方はそのままに「5体の黒ひげが同時発射」「通常品よりも飛ぶ高さが5倍」という楽しさもハラハラ感も進化したもの。その中には「安全性を確保しつつ、より楽しめるものを提供したい」という開発者たちの工夫も詰まっている。

【池田氏】黒ひげ人形が5体、さらに滞空時間も長いという特徴から、これまでの『黒ひげ』にはないさまざまな遊び方を提案できる商品となりました。しかしゲーム性が広がった一方で、万が一当たっても痛くないよう、黒ひげ人形の頭の部分を通常の固い樹脂製ではなく、ラバー素材を採用しています。

 同商品を軸とした45周年企画もさまざま展開されている。その1つが5組の<一発屋芸人>とコラボしたWEB動画で、現在は小島よしおが遊び方を提案する動画がタカラトミー公式YouTubeチャンネルで配信中。今後もダンディ坂野、スギちゃん、髭男爵、ゴー☆ジャス(順不同)による新作動画が2ヶ月に1本ペースで配信される予定だ。

■リアルなコミュニケーションの活性化こそ、『黒ひげ』が背負った使命

 ファミリー向けゲームとして開発された『黒ひげ危機一発』だが、45年の歴史でユーザー層もあらゆる世代へと広がった。複数人で盛り上がれるゲームだけに貸し出しサービスを行っているカラオケボックスやパーティスペースなどは多く、さらに最近は「刺す場所を考える思考性」「飛び出したときの刺激」が脳を活性化させるのではということで、高齢者施設で利用されるケースも増えているという。またこれまでに実に81種類、47ヶ国で1500万個を売り上げるなど世界中に普及しており、海外では『POP UP Pirates』という商品名で親しまれている。このように今や定番中の定番として社会のあらゆるシーンに浸透した『黒ひげ危機一発」。しかし池田氏は「危機感は常に持っています」と身を引き締める。

【池田氏】今は情報化社会で、トレンドのサイクルも早い。いかに定番と言っても、世の中に対して常に『ここにいるよ』と声をあげていかなければ、忘れられてしまうのは簡単なことです。『黒ひげ』も基本ラインは45年変わらないのですが、実は毎年のように新商品や新展開を打ち出しています。過去には音声付きや樽が振動するギミックを盛り込んだ黒ひげを発売したことも。また映画やアニメなどの人気キャラクターやマツコ・デラックスさんなど人気タレントの方との”コラボ黒ひげ”も増えています。最近はありがたいことに、『黒ひげとコラボしたい』と逆にオファーいただくことも多いですね。

 デジタルゲームが全盛となってもなお、『黒ひげ』をはじめとするアナログゲームが求められ続ける理由。それはデジタルでは補完しきれない価値がそこにあるからだ。

【池田氏】現代は家族や友達で集まってもそれぞれがスマホを見ていたりと、リアルなコミュニケーションがなかなか生まれにくくなりました。これからの時代、1つのゲームでワイワイ盛り上がる中で生まれる会話や笑いはますます貴重なものになってくると思います。大げさかもしれませんが、『黒ひげ』もそんな使命を負ったゲームの1つになったのではないかと。私たちも『黒ひげは元気だよ』ということを、これからさらに積極的に世の中に向けて発信していきたいですね。

文/児玉澄子

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