ランナーへの「マスク強要」は大間違い!正しいジョキング作法とは? これからの季節、命の危険も

2020年5月10日

現代ビジネス

危険を煽る人への違和感

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。

安倍晋三首相は2月26日に「この1、2週間が感染拡大防止に極めて重要です」と話していたが、5月6日に期限を迎える予定だった「緊急事態宣言」も今月末まで延長。14日をめどに感染状況などを分析し、解除の前倒しを検討すると言うが、“自粛ムード”はまだまだ続きそうだ。

そして、今回のコロナ騒動で筆者が恐ろしいと感じているのが、メディアの「煽り記事」と日本人の「間違った正義感」だ。

当初、感染拡大の予防として、「3密(密閉・密集・密接)を避ける」ことが推奨されてきた。しかし、4月7日に「緊急事態宣言」が発令されると、感染拡大の予防策がおかしな方向に散らばっている。最近はなぜか「ランナー」がスケープゴートにされているのだ。

芸人のたむらけんじがSNSで、「子供やご年配の横をマスクもしてないランナーがハァハァいいながら駆け抜けていく!アホランナーええ加減にせぇーよ!」と強く訴えたこともスポーツ紙の記事になった。

テレビの情報番組でも「ランナーの飛沫問題」がクローズアップされている。よく取り上げられている「飛沫シミュレーション」では、走行中のランナーから吐き出される飛沫は10mも飛ぶ可能性があるという。しかし、あくまでこれは空気力学の観点で、感染リスクがどれぐらいあるかというデータではない。

そもそも、すれ違ったランナーから新型コロナウイルスが感染したという報告は今のところ耳にしていない。にも関わらず、極めて低い可能性について、「さぞ危険だ」という報道は非常に危うく感じざるを得ない。

マスク着用が命取りになることも

そして、メディアによって誇張された情報を鵜呑みにして、ランナーに対して厳しい言葉を投げかけている人も現れている。

都立某公園では、「散歩、ジョギングは、マスク着用のうえ、人との距離を十分に保ち、1時間以内の利用をお願いします」という注意書きがあったし、千代田区も4月下旬に皇居外周を走るランナーに向けて、マスク着用を呼び掛けている。

いつしか「ランナーはマスクを着用するべき」という声が大きくなり、実際にマスクを着用しているランナーは増えている。ところが、これからの季節を考えると“マスクランニング”は非常に危険な行為となるだろう。

マスクを着用してのランニングは体内に熱がこもりやすくなるだけでなく、マスク内の湿度があがるため喉の渇きを感じづらい。そのため、「熱中症」を引き起こす要因になるからだ。

総務省によると、昨年5~9月の全国における熱中症による救急搬送人員の累計は71,317人いた。これ以上、医療従業者に負担をかけさせないためにも、熱中症を予防することは非常に大切だ。

走るときは、「少し寒いかな」という服装でちょうどいい。特にダイエットを目的にしている人は要注意。汗を多くかけば、体重の数字は減るが、それは体内の水分量が減っただけに過ぎない。発汗量の多さは体脂肪燃焼に比例しないことを覚えておきたい。

熱中症のリスクは、マスクを着用するすべての人に当てはまる。不必要なマスクの使用と、暑さ対策、水分補強に気をつけなくてはいけない。

そしてさらに、これからはランナーに“新たなマナー”が必要になってくるだろう。

「マスク」ではなく「バフ」を

厚生労働省のクラスター対策班に所属する北海道大学の西浦博教授は、新型コロナウイルスの流行拡大を防ぐために「社会的接触を8割減らす」ことを提唱している。

社会的接触の目安は2m以内の距離で30分以上会話をしたときに「接触」と定義される。会話をしても飛沫が届かない距離が2mで、これをソーシャル・ディスタンス(社会的距離)と呼んでいる。ただ、すれ違う場合はこれに該当しない。

ランニングについては、「外でジョギングすることはまったく構わない。数人で行くことも問題ないが、その場合は距離をあけて走ることが大事。その後で一緒にビールを飲みに行ったり、着替えをする休憩所で長時間会話するのはダメです」と西浦教授は話している。

政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議長丁場の感染拡大に備えた「新しい生活様式」を提言した。そのなかには、「ジョギングは少人数で、すれ違うときは距離をとる」という項目も含まれている。確認しておくが、「マスクをするように」というお達しはない。

ランナーはマスクをつけて走る必要はないが、人とすれ違うときは、距離をとったうえで、顔を逆側に向けるなどの配慮をした方がいい。また人が密になっている場所については、ウォーキングに切り替えて、呼吸を整える気遣いもしてほしいと思う。

それでもランナー目線でいうと、すれ違うときに、飛沫を浴びせてしまう可能性がないわけではない。京都大学iPS細胞研究所所長でノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授は「バフ」と呼ばれる筒状の布を口元に巻いて走っているという。

最近は水に濡らすことで、冷却効果を発揮するバフ(ネックゲイター)も発売されている。そういうアイテムを使えば、飛沫を防ぐだけでなく、熱中症の予防にもつながるはずだ。

ランナーが本当に注意すべきこと

そしてランニングでもっとも注意すべきは、走る場所と時間についてだ。人が多く集まる場所、時間を避けることで、自由に走ることができる。それは散歩する人、自転車も同じ。2mのソーシャル・ディスタンスを確保するために大切なことだ。

逆にいえば、ソーシャル・ディスタンスを保つためには、周囲に気を配ることが重要になる。よほど狭い道幅でなければ、すれ違うときにお互いが端によることで、2mという距離は確保できるだろう。しかし、片方だけでは難しい場合がある。

前からの情報は視覚で確認できるが、背後からの情報は音だけが頼りになる。ソーシャル・ディスタンスを得るためには、イヤホンの使用は控えるべきではないだろうか。

音楽を聴きながら走る人は少なくないが、後ろから自分よりも速く走るランナーや自転車に抜かれることがある。その場合、ソーシャル・ディスタンスを確保できない可能性があることを理解しておこう。音楽を聴きながら散歩する人も同様だ。

最後に「自粛」という意味を辞書で調べると、「自分から進んで、行いや態度を慎むこと」とある。他人の行動を批判するのではなく、自分の行動を見つめ直すべきではないだろうか。

そして、外出=悪ではない。屋外での感染リスクは極めて低く、同時に運動によるメリットは高い。適度に身体を動かすことで、体力や免疫力を上げることができるからだ。

個人や少人数での運動は“楽しさ”という意味では物足りなさがあるかもしれない。しかし、いまは新型コロナウイルス拡大を予防しながら、各自で運動していくしかない。ランニング、散歩、サイクリング。それぞれが気持ちよくできるような心遣いが、いま求められている気がしている。