肉体改造の「3日坊主」を卒業する方法 本気で変わるなら「パブロフの犬」になれ

2020年1月6日

THE ANSWER

連載「骨格筋評論家・バズーカ岡田の『最強の筋肉ゼミ』39限目」

「THE ANSWER」の連載「骨格筋評論家・バズーカ岡田の『最強の筋肉ゼミ』」。現役ボディビルダーであり、「バズーカ岡田」の異名でメディアでも活躍する岡田隆氏(日体大准教授)が日本の男女の“ボディメイクの悩み”に熱くお答えする。39限目のお題は「肉体改造の『3日坊主』」について。

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 Q.毎年、年頭に肉体改造を誓うものの、ジムに入会したり、家トレを始めたりしても長続きしません。どうすれば「3日坊主」を卒業できますか?

 私はトレーニングが大好きなので、3日坊主なる経験は過去に一度もありません。むしろ「習慣にするな!」と言われる方がツラい。正直、「続かないかな~」と考える時間さえもったいなく、そう考え始める瞬間にはトレーニングを始めていたいです(笑)。

 それはさておき、私たちトレーニーの大多数は、何も習慣化したくてトレーニングを続けているわけではありません。私の周りのボディビルダーたちを見て感じるのは、皆、筋肉の変化をすごく楽しんでいる、ということです。

 私がバーベルを使ったトレーニングを始めたは15、16歳ですから、もう25年ぐらいは続けています。しかし、いまだにトレーニング方法を模索していますし、日々、楽しい。「こういう風に動かしたらここの筋肉が動くんだな」という発見は尽きないですし、狙ったエリアの筋肉に刺激が入り、「あ、動いた!」と感じるだけでめちゃめちゃ楽しい。しかも、トレが終わった後、「入った」と感じた筋肉がちゃんとパンプアップしている。たった1回のトレーニングでも確実に変化を感じるので、うれしいのです。

 つまり私たちが向き合っているのは、いかに新しい感覚を得られるか、課題にしていたものをクリアできるかであって、「この重りを10回×3セット上げる」という義務感ではありません。そして、新たな気づきを得たり、トレーニングがイメージ通りに体にハマったりすると、「これを次回もやりたいな」と、次が待ち遠しくなる。ですから、3日坊主にはなり得ないのです。

 以上を経験だけでなく、脳の機能からも説明しましょう。トレーニングで成果を得られると、脳はそれを「報酬」だと感じ、達成感を得られます。すると脳が喜ぶので、次のトレーニングに向かう動機になる。「パブロフの犬」状態のできあがりです。一方、結果が出ないトレーニングを続けていれば、その逆のことが起こります。「努力のわりに対価が見合わないな」と脳が判断し、やる気がそがれてしまいます。ただひたすら重りと向き合うだけでは、おそらく私でもツラくなるでしょう。

重要なのは「ハードル設定」、そのコツは?

 では、具体的にはどう行動すればいいのか? 答えは、必ず対価を得られる状況にもっていけばよいのです。

 まず、トレーニングを始める際、実現可能な簡単なハードル(目標)を設定します。「とりあえず腹筋の横線を刻んでみよう」とか「今よりも少し大胸筋を盛ってみよう」とか、何でもいい。3日坊主の人も、そもそもは体を変えたくてトレーニングを始めているはずです。ハードルを一つひとつクリアし、体が変わると実感できれば、やらない理由がなくなります。

 パーソナルトレーナーをつけるのも一案です。不確かな知識をもって自己流の筋トレをしても、狙った変化が起こせなければ、ただツラいだけで終わります。体は正しい方法で正しくトレーニングをすれば、必ず変わります。そして、「本当に変わるんだ!」と脳が認識すれば、自然と続けるしかなくなる。そういう意味でいうと、トレーニングの専門家をつけるのは効果的。パブロフの犬に仕上げてもらいましょう(笑)。

 逆に、最初から高すぎるハードルを設定するのはNGです。

 今は世界の超トップビルダーのトレーニングも、ネット動画や専門誌で簡単に見ることができます。しかし、初心者の方はマネをしない方がいい。なぜなら、高いレベルのトレーニングに臨めるような、体の準備が整っていないからです。

 トップの選手たちはいろんなトレーニングを経て今の体を作り上げています。そして、現在進行形で何をやっているかというと、自分のなりたい体のイメージと、現実の体に間に存在するわずかな「差」を埋めるために、ものすごく特殊なトレーニングを行っているのです。

 例えば、私たちは「二の腕を鍛えよう」ではなく「上腕二頭筋のピーク(立ち上がり)をより鋭角にしよう」などとより具体的に目的を決め、わずか10cm四方の筋肉を鍛えるために、30分の時間をかけてトレーニングをします。下手したら1時間でもやるし、進化するとわかれば2時間でもやります。しかし、これらのトレーニングはそもそも初心者には狙いが局所的すぎるため、ハードな割にはわかりやすい効果を得られません。

 トップの選手たちは、「わずかな隙間」が埋まれば、めちゃめちゃハードなトレーニングであっても達成感を得ます。なぜなら、「最強のパブロフの犬」に仕上がっているからです。でも、初心者には結果が得られず苦しいだけ。結局、「オレにはムリだ……」とか「もうあんなツラい思いはしたくない……」と心が折れるだけです。

本気で変わりたいと思うなら「パブロフの犬」になれ

 トレーニングを始めた頃は、全身、隙間だらけです。むしろ何をやっても効果が出やすい、いわばイージーモード。超基本的な種目で普通にトレーニングする方が間違いなく結果が出ますし、結果的にモチベーションも上がり、継続したくなります。

 それでも苦しいな、ツラいなと思った時は、誰かと一緒にトレーニングをするといいと思います。私も大会に向かって苦しいトレーニングが続く時は、教え子と一緒にやる約束をとりつけます。そうすると、「今日はトレーニングしなくてもいいか」と簡単にはサボれないし、相手がいると思うとやる気も出る。この方法は結構、おすすめです。

 それでも続かない人は、本心では今の自分をあまり変えたいと思っていないのではないでしょうか。例えば、病気を治したければ、絶対に治療を続けますよね? それと同じ話だと思うのです。であれば、きっと今はまだ、取り組む時期ではないので、別にトレーニングをやらなくてもいいんじゃないでしょうか。3日坊主であることに罪悪感を持つ方が、心身にとってマイナスだと思いますよ。

 結局、大事なのは「楽しい」「好き」という気持ちです。ということで、3日坊主で終わりたくない、本気で変わりたいと思うなら、根性で乗り切るよりも自分なりの楽しさを見出し、「パブロフの犬」になることです!(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビューや健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌などで編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(共に中野ジェームズ修一著、サンマーク出版)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、サンマーク出版)、『カチコチ体が10秒でみるみるやわらかくなるストレッチ』(永井峻著、高橋書店)など。

岡田 隆
1980年、愛知県生まれ。日体大准教授、柔道全日本男子チーム体力強化部門長、理学療法士。16年リオデジャネイロ五輪では、柔道7階級のメダル制覇に貢献。大学で教鞭を執りつつ、骨格筋評論家として「バズーカ岡田」の異名でテレビ、雑誌などメディアでも活躍。トレーニング科学からボディメーク、健康、ダイエットなど幅広いテーマで情報を発信する。また、現役ボディビルダーでもあり、2016年に日本社会人ボディビル選手権大会で優勝。「つけたいところに最速で筋肉をつける技術」「HIIT 体脂肪が落ちる最強トレーニング」(ともにサンマーク出版)他、著書多数。「バズーカ岡田」公式サイトでメディア情報他、日々の活動を掲載している。