2020年2月11日
新R25
近年、「糖質制限ダイエット」の一環として炭水化物を減らす食事が流行っています。
しかし、カリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部で助教授を務める医師・津川友介先生によると、炭水化物だからといって何でも摂取量を減らせばいいわけではないそう。
津川先生の著書『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』から抜粋し、健康に良い炭水化物についてご紹介します。
【津川友介(つがわ・ゆうすけ)】聖路加国際病院、世界銀行、ハーバード公衆衛生大学院での勤務を経て、2017年よりカリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部・医療政策学部 助教授(医師)。日本医療政策機構理事。ハーバード大学博士課程修了(PhD)。ブログ「医療政策学×医療経済学」で医療に関する情報を発信している。著書に『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』 (東洋経済新報社)、『原因と結果の経済学』(ダイヤモンド社)がある
炭水化物には健康に良いものと悪いものがある
巷では「糖質制限ダイエット」や「低炭水化物ダイエット」が流行っている。
これらのダイエット法に共通しているのは、「炭水化物」の摂取量を減らして、代わりにたんぱく質や脂質の摂取量をやや多めにするということである。
しかし、この炭水化物なら何でも減らすべきという考えは間違いである。
炭水化物には、「健康に良い炭水化物」と「健康に悪い炭水化物」があるからである。私たちにとって最も身近な炭水化物は、白米や小麦粉であり、これらは精製された炭水化物である。
この「白い炭水化物」は、血糖値を上げ、脳卒中や心筋梗塞などの動脈硬化による病気が起こるリスクを高める可能性があることが、 数多くの研究から報告されている。
残念ながら、日本人が大好きな白米は「少量でも体に悪い」と言っても良いだろう。
2012年に世界的にも権威のある英国の医学雑誌に、白米と糖尿病の関係に関する4つのコホート研究(ランダム化比較試験(※1)ではない)の結果をまとめたメタアナリシス(※2)の結果(鄯)が発表された。
※1 ランダム化比較試験…研究対象となる人を、くじ゙引きのような方法を用いて2つのグループがまったく同じになるように分け、片方のグループだけに健康に良いと思われる食品を摂取してもらい、もう片方のグループには摂取しないでいてもらう方法
※2 メタアナリシス…複数の研究結果を とりまとめた研究手法
その結果、白米の摂取量が1杯(158g)増えるごとに糖尿病になるリスクが11%増えるとされた。
白米の摂取量が1日150g以下のところは西洋人のデータしかないが、この部分を見ると150g以下でも白米を食べる量が多い人ほど糖尿病のリスクが高いことがわかる。
西洋人のデータだけで白米と糖尿病の関係を見ると、統計的に有意な関係ではないが、白米の摂取量が多い人ほど糖尿病のリスクは高い傾向にあるということができるだろう。
「茶色い炭水化物」は肥満や動脈硬化のリスクを下げる
その一方で、玄米のように、精製されていない「茶色い炭水化物」の多くは食物繊維や栄養成分を豊富に含み、 肥満や動脈硬化のリスクをむしろ下げると言われている。
つまり、すべての炭水化物が悪者なのではなく、どんな炭水化物を食べるかで健康に関しては逆の効果があるのだ。
数々の研究において、精製されていない「茶色い炭水化物」は健康に良い影響を与えると報告されている。
アメリカ、英国、北欧の国々で行われた研究を統合した78万6000人のデータを用いたメタアナリシス(鄱)によると、1日70gの茶色い炭水化物を摂取したグループは、茶色い炭水化物をほとんど食べないグループと比べて死亡率が22%低かった。
7つの研究を統合した別のメタアナリシス(鄴)によると、茶色い炭水化物の摂取量が多いグループ(1日2.5単位以上摂取)は、摂取量が少ないグループ(週に2単位未満)と比べて心筋梗塞や脳卒中といった動脈硬化によって起こる病気になるリスクが21%低かった。
茶色い炭水化物の摂取により糖尿病のリスクが下がることも複数の研究結果(鄽)によって明らかとなっている。
玄米を多く食べる人たち(週に200g以上摂取)は、玄米をほとんど食べない人たち(摂取量が月に100g未満)と比べて糖尿病になるリスクが11%低かった。(酈)
この研究によると、1日50gの白米を玄米に置き換えることで糖尿病のリスクを36%下げることができると推定された。
「グルテンフリー」にする健康上のメリットはない
欧米ではグルテンフリー、つまりグルテンが含まれない炭水化物に注目が集まっている。はたして食事からグルテンを減らすことで私たちは健康になれるのだろうか。
結論から先に言うと、グルテンフリーで健康になれるというエビデンスはない。
セリアック病という珍しい病気を持っていないのなら、グルテンフリーにする健康上のメリットはないと今のところ考えられている。
アメリカではセリアック病がない人も「健康に良さそう」 というイメージがあるという理由で好んで食べるようになっており、ビジネスの観点から新たな成長分野として注目を集めている。
現に、アメリカにおいて、セリアック病がないにもかかわらずグルテンフリーにしている人はここ4年で3倍以上(酛)に増えており、2013年にはアメリカ人の30%近く(醃)が食事に含まれるグルテンの量を減らす努力をしていると報告されている。
確かにネズミ(醞)においては、グルテンを投与することで炎症が起きたり、食事中のグルテンを制限することで糖尿病を予防することができたという報告もあるが、人間においてグルテンが健康に悪影響を及ぼすという科学的根拠はない。
多くの茶色い炭水化物にはグルテンが含まれる。よって、グルテンを避けようとすると、自然に食物繊維を多く含み体に良い茶色い炭水化物の摂取量が減り、代わりに体に良くない「白い炭水化物」の摂取量が増えてしまうと考えられるため、セリアック病ではない人にはグルテンフリーの食事は推奨するべきではないとされている。
またグルテンフリーにすることでダイエット効果がうたわれているがその根拠は乏しい。
世の中には、グルテンを摂取することで頭がぼーっとする、もしくはお腹がやたらと張るなどの理由でグルテンを控える人もおり、それが目的であればグルテンを減らすのも一理あるかもしれない。
しかし、グルテンフリーにすることで病気が防げたり、体重が減る効果は期待できないので、「なんとなく体に良さそう」という理由だけでグルテン摂取量を減らすことはおすすめできない。
一般的にグルテンフリーは通常の食材よりも高価であるが、健康という面においてはその価値はないと考えられているからである。
健康的な食事の指針として読んでおきたい一冊
『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』では、このような科学的根拠に裏付けされた「本当に体に良い食事」についての知識が得られます。
世の中にあるさまざまな情報から、自分の力だけで正しいものを見分けるのは、簡単なことではありません。健康になるために、ぜひこちらの書籍を読んでみてはいかがでしょう。
(鄯) Hu EA, Pan A, Malik V, Sun Q. White rice consumption and risk of type 2 diabetes: meta-analysis and systematic review. BMJ2012; 344: e1454
(鄱) Geng Zong, Gao A, Hu FB, Sun Q. Whole Grain Intake and Mortality from All Causes, Cardiovascular Disease, and Cancer: A Meta-Analysis of Prospective Cohort Studies. 2016; 133: 2370-2380.
(鄴) Mellen PB, Walsh TF, Herrington DM. Whole grain intake and cardiovascular disease: a meta-analysis. Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2008; 18: 283-290.
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(酈) Sun Q, Spiegelman D, van Dam RM, Holmes MD, Malik VS, Willett WC, Hu FB. White rice, brown rice, and risk of type 2 diabetes in US men and women. Arch Intern Med. 2010; 170(11): 961-969.
(酛) Kim HS, Patel KG, Orosz E, Kothari N, Demyen MF, Pyrsopoulos N, Ahlawat SK. Time Trends in the Prevalence of Celiac Disease and Gluten-Free Diet in the US Population: Results From the National Health and Nutrition Examination Surveys 2009-2014. JAMA Intern Med. 2016; 176(11): 1716-1717
(醃) NPD Group. Percentage of U.S. Adults Trying to Cut Down or Avoid Gluten in Their Diets Reaches New High in 2013.
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Marietta EV, Gomez AM, Yeoman C, Tilahun AY, Clark CR, Luckey DH, Murray JA, White BA, Kudva YC, Rajagopalan G. Low incidence of spontaneous type 1 diabetes in non-obese diabetic mice raised on gluten-free diets is associated with changes in the intestina