老舗三味線メーカー、「廃業」一転「継続」 国が保存指定へ

2021年9月20日

毎日新聞

 新型コロナウイルス禍で2020年春に廃業を宣言した老舗三味線メーカー「東京和楽器」(東京都八王子市暁町、大瀧勝弘代表)が、存続を求める声に応え事業を続けることになった。熟練の技の継承の危機に国も目を向け、三味線の棹(さお)や胴の製作技術は今秋にも、国が伝承を支援する「選定保存技術」に新たに選ばれる見通しだ。【野倉恵】

 三味線の棹や胴などを製造・修理する東京和楽器は創業136年。三味線の国内製造数は愛好家の減少などで2017年に1200丁と47年間で10分の1以下まで減った。

 コロナ禍による公演中止などで20年から同社も注文が激減し、いったん同8月での廃業を宣言した。しかし、同社は職人13人を抱え国内最大手とされ、「同じ手仕事ができる職人をすぐ育成できない」「伝統芸能の危機」との声が高まり、注文や修理の依頼が相次ぐように。ロックバンド「和楽器バンド」は、コンサートで募った寄付金を大瀧さんに届けた。

 一方、三味線の棹や胴の製作技術について国の文化審議会は7月、新たに選定保存技術に選ぶよう国に求める答申を出した。10月にも答申通り告示される見通し。文化庁によると、木材から作る棹の多くは上部、中部、下部の3体を一つにする構造で、留め具などを使わずほぞではめ合わせる。胴は内側を曲面に削る。寸法や重さが音楽の種類や演奏家により異なり、製作には熟達した技術が必要という。

 保存団体としては、メーカー十数社が参加し大瀧代表が理事長の「邦楽器製作技術保存会」の認定も答申した。若手技術者の育成や研修会開催、用具や原材料の確保に関する費用が助成される。

 文化庁文化財第1課の吉田純子・文化財調査官は「邦楽で幅広く使われる三味線は伝統芸能の継承に重要。作り手の深刻な危機がコロナ禍で明らかになり対応が急がれた」と説明する。

 大瀧代表によると棹だけを製作するメーカーは6社程度あるが、胴も作るのは東京和楽器など2社程度。大瀧代表は「材料を削って整え、磨いて仕上げる多数の工程を身につけるには10年は必要。国に認められる意味は大きい。責任は重いが職人を育て技術を伝えたい」と話す。