TVに頻繁に登場する感染症のプロ、人により発言が違う理由

2020年3月9日

NEWSポストセブン

 新型コロナウイルスへの恐怖が増幅する中、テレビのニュースやワイドショーが発信する情報が注目を集めている。中でも大きな存在感を放つのが“感染症のプロ”として解説するコメンテーターたちだ。

 医療関係の識者は多いが、「感染症の専門家」がこれほどテレビを賑わすのは、かつてなかったこと。未曾有の危機に対し、専門家の見解は一致するかと思いきや、そのコメントを精査すると、発言の方向性の違いは鮮明になる。

 たとえば『スッキリ』(日本テレビ系)に頻繁に登場する東京歯科大学教授(呼吸器内科部長)の寺島毅氏。日本での感染拡大前の2月10日の同番組では、中国政府が発表した「エアロゾル感染」(空気感染)の可能性を「現在の感染力から考えてエアロゾル感染とは思えない」と否定。専門家としての見識を示した。また、一斉休校要請については「全く感染者が出ていない都道府県では先手過ぎる」(2月28日放送)とした。

 医療現場の実状を熱心に訴えるのが内科医で池袋大谷クリニック院長の大谷義夫医師。『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)などに出演し、「うちの医院でも新型肺炎の疑いがある患者がいるが、検査を断わられた」(2月25日放送)と検査体制不足を訴えた。

 他にも感染症専門の松本哲哉・国際医療福祉大学主任教授、山野美容芸術短大客員教授で医学博士の中原英臣氏など様々な識者たちが登場するが、とりわけ視聴者の注目を集めたのは、白鴎大学特任教授の岡田晴恵氏だ。

 騒動初期から一貫して「(クルーズ船乗客の)全員検査」を訴えた国立感染症研究所の元研究員である。出演ごとに洋服やメガネ、髪型を変えるファッショナブルさも相まって、主婦層に高く支持されている。

 その岡田氏が世間を驚かせたのは、2月28日放送の『羽鳥慎一モーニングショー』での「涙の告発」だった。日本でPCR検査が進まない理由について、「民間に検査を委託すると感染研(国立感染症研究所)がデータを掌握できない。“データを感染研が自分で持っていたい”と言っている感染研OBがいる」と明かしたのだ。

 日本のPCR検査実績は極めて少ない。韓国は3月5日までに14万人以上に実施したが、日本はわずか8111人に過ぎない(4日時点)。

“古巣”に向けた岡田氏の告発は、多くの国民が抱える不満に真正面から答えるものだった。NPO法人・医療ガバナンス研究所理事長で、新型コロナウイルス問題でもテレビに多く出演する上昌広医師が言う。

「30年以上前に開発されたPCR検査は難しい検査ではなく、民間に回せば韓国並みの検査数は容易に達成できます。それをしないのは、感染研がデータや予算を独占したいからと疑われても仕方ありません」

 なぜ、岡田氏は他のコメンテーターより一歩も二歩も踏み込めたのか。岡田氏が語った「感染研」という組織を探ると見えてくる。

◆“ムラの論理”を忖度

 厚生労働省に所属する研究機関である感染研は、新型コロナウイルス問題でも中心的役割を担う。

 政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の座長は感染研所長の脇田隆字氏。鈴木基・感染研感染症疫学センター長と感染研OBの岡部信彦・川崎市健康安全研究所所長もメンバーだ。

 ちなみに首相補佐官との「コネクティングルーム不倫」で週刊誌を賑わせ、クルーズ船対応では『引き続き感染拡大防止に向けて万全の体制をとって参りたい』と記者会見で説明するなど、スポークスマン的な役割を務めた厚労省の大坪寛子審議官も感染研の出身だ。検査以外にも感染研には様々な権益が集中していると前出・上氏は語る。

「感染研は国立がん研究センターのような独立行政法人ではなく、国立のため国の予算がつき、その中には大学病院などに研究費として回せるものもある。さらにワクチンの製造から評価までの実質的な許認可権を持っているため、ほとんどの大学の研究者は感染研に頭が上がらない」

 その強大さゆえ、“感染症ムラ”の住人が厚労省や感染研と異なる主張をするのは難しいのだ。

 厚労省は「症状が軽い人は自宅療養を求める」と重症者以外への検査を拡大しない基本方針を示した。納得できない国民は多いが、一部の専門家はこの姿勢に同調する。

 2月25日のNHK『ニュースウオッチ9』には専門家会議のメンバーである押谷仁・東北大学大学院教授が出演し、「軽い症状だけど心配だから病院に行くとなると感染が広がる。感染している可能性がある人はできるだけ家にとどまってほしい」と解説した。

 3月3日の同番組には、前述した専門家会議メンバーで感染研OBの岡部氏が出演。「相当数やるとなると、精度の問題とか、ある程度目をつぶらなければいけなくなってくる。余裕を持ってる時間がないとぎっちぎちでやるのはリスクになる」と発言した。

 厚労省や感染研を敵に回しかねない岡田氏の姿勢との違いが浮かび上がる。前出・上氏が言う。

「感染症の世界は、物言えば唇寒しとなるムラ社会。岡田さんももちろんその一員ですが、それでも感染者の命に関わる状況に危機感を抱いて、感染研を敵に回すリスクを承知であえて発言したのでしょう。大変勇気のある告発だと思います」

 専門家たちが視線を向けているのは「組織」か、「国民」か──。岡田氏が賞賛されているのは、その本質を視聴者たちが見抜いているからなのだろう。

※週刊ポスト2020年3月20日号