2021年9月5日
日刊SPA!
サービス業界で働いている人たちにとって、傲慢な客ほど嫌なものはないだろう。コンビニで長く働いてきた筆者。辞めていた時期もあるが、現在はライター業の傍ら、知り合いの店長に「人手不足」を理由に頼まれ、空いた時間だけ手伝う生活をしている。
近年、“突然キレる高齢者”が世間で取り沙汰される機会も増えたが、そんな客はコンビニにもたびたび姿をあらわす。先日訪れた客の態度に、筆者は今でも気持ちの整理がつかない。
◆客がいきなりキレる理由
筆者が働く店でも女性のスタッフしかいない昼の時間帯に、理不尽なクレームや暴言を吐く年配客がいる。男性よりも女性のスタッフのほうが絡まれやすいようだ。
いきなり怒鳴られた側の気持ちを考えてほしい。その声に驚き、恐怖を感じる。気の弱い人はトラウマになってしまうに違いない。なかには侮辱と感じて腹が立ち、言い返すスタッフもいるだろう。しかし、女性のスタッフの場合は、暴言を吐いても言い返してこないと思われているのだろうか。
そもそも、なぜ客がキレるのかといえば、たいていは「自分の伝えたいことが相手に伝わらない」からだ。
スタッフと客はタバコの銘柄や番号、支払い方法、レジ袋の有無などのコミュニケーションが必要なわけだが、ただでさえ3割ぐらいの人が声がちいさくて何を言っているのかわからない。そのうえ、最近はマスクで口元が見えず、飛沫防止シートで声がこもって余計に理解できない。
◆店内に響き渡る怒声
忙しい時間帯だった。レジはふたつあり、筆者と店長がやっていた。店長はタバコの番号が聞き取れなかったのだろう。
「すいません、もう一度言ってください」
よくあることだ。しかし、年配客が叫ぶような声で「30番!」。
筆者はその声量にびっくりしたが、それ以上に驚いたのは店長が「30番ですね! わかりました!」と店内に響き渡るほどの大声で言い返したことだ。
忙しかったのでその様子を見ている余裕はなかったが、客が引いてから店長にたずねる。
「マジで頭にきたよ、いきなり怒鳴るような大声だすことないだろ。だから同じように言い返した。相手は何も言わずに帰っていったよ」
◆コンビニ店員を下僕のように扱う年配客
ほとんどの年配客は優しくて感じが良いということを前置きしておくが、一部の人がかなりひどい。コンビニ店員に対して、こんなふうに思っているのではないか。
・「お客様は神様」なので絶対に反撃してこない
・下僕のように見下している
働いている人に対してリスペクトや思いやりがなく、なんでも許されると思っているのだ。先日、久しぶりに頭にきた出来事があった。
16時頃、筆者の休憩時間に店長がやってきた。5分ぐらいバックヤードで話してから筆者はレジに向かった。その5分後、70歳過ぎと思われる男性が入ってきた。手には懐中電灯を持っている。
「前にこの店で懐中電灯を買ったんだけど、電池ないから入れてくれよ!」
この人は何を言っているのだ。人に頼みごとをするのにいきなり大声で喧嘩腰。筆者は「電池を買ってからにしてもらえますか?」と伝える。
「そんなのわかっているよ!」
「あの……あそこから選んでください」
「電池を持ってこいよ! 突っ立ってないで、どんどん動けよ! 早く行け、行け!」
さすがの筆者もここまでの扱いをされて、我慢ができなかった。バックヤードにいる店長を呼ぼうとベルを鳴らした。
◆暴走が止まらない
すぐに異変に気が付いた店長の奥さんがきて、状況を確認する。
「電池は種類があるので選んでください」
「あ、なに? なんだよ!」 そこに店長がやってきて、「そんなに大声を出さないでもらえます?」となだめる。しかし、さらに年配客はヒートアップする。
「なんだ、お前、いつもいないくせに、なんで今日はいるんだよ! ここで懐中電灯を買ったんだから電池入れろよ!」
店長は呆れながら言う。
「あの、電池を買わなくていいですから、もう帰ってください」
「なんだと!」
年配客の横暴は止まらない。店長は奥さんに警察を呼ぶように言った。
◆人を侮辱するのもいい加減にしろ
筆者は、とにかく頭にきて仕方なかった。しかし、“店員として”冷静につとめなければならない。
まず、客を突き飛ばしたり、胸ぐらをつかんだりする行為はいかなる場合もダメである。警察官に聞くと、客が暴力をふるうケースは多いらしいが、そのようなときは取り押さえるしかない。
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また、いくら相手に罵られても同じように侮辱的な言葉で返してはいけない。たとえば、「お前みたいな老害が世の中を悪くしている」「そんな歳して恥ずかしくないのか?」などとは、決して口に出してはならないのだ。
そこで筆者は、年配客の前に立ち、じっと目を見ながら言った。
「もう帰ってくれ」
何か言い返してくると思ったが、彼は目をそらすと、下を向いたまま黙っている。
「人を侮辱するのもいい加減にしろ。こっちだって一生懸命働いているんだよ」
先ほどの威勢はどうしたのか。彼は頭を下げて詫びたのだ。
「どうもすいませんでした。私が全部悪かったです」
本当に反省しているのかはわからないが、それ以上どうすることもできない。筆者の怒りは収まらなかったが、レジに戻ってタバコの補充をすることにした。
年配客は帰り際にも謝ってきたが、どこかやるせなさを感じた日だった。<文/浜カツトシ>