“冬にアイス食べる”文化を作った『雪見だいふく』の40年、四角いトレーで売上減の黒歴史も

2021年4月11日

オリコン

 発売から40周年を迎えたロッテの定番商品『雪見だいふく』。アイスと餅というマッチングの妙だけでなく、冬にアイスを食べる文化を作ったスイーツとしても画期的な商品として知られる。そんな『雪見だいふく』の知られざる“黒歴史”や、春夏より秋冬のほうが売れる理由など、人気アイスの秘密をロッテの商品担当者に聞いた。

◆アイス市場の8割は春夏の販売 あえて秋冬をねらった後発ロッテの戦略

――発売当時は「大福」と「アイスクリーム」の意外な組み合わせが話題になりました。どのような経緯で生まれた商品なのでしょうか?

【商品担当者】 弊社は後発でアイスクリーム事業に参入しました。当時、大手乳業メーカーが市場シェアを独占している状況で、通常のアイスでは太刀打ちできない。それまでにないアイスのアイデアを探して開発がスタートしました。そんななか、ある研究者がマシュマロのなかに餡が入った和菓子を知ったのが発端で、アイスをマシュマロで包んだ『わたぼうし』が1980年に生まれました。『雪見だいふく』発売の1年前です。『わたぼうし』も評判はよかったのですが、マシュマロは人によって好き嫌いがあります。より日本人の口にあう素材を探して改良していくなか、日本人なら誰もが口にしたことがあるお餅が選ばれ、雪見だいふくが誕生しました。

――お餅は冷えると固くなります。それをアイスにするのはチャレンジングな発想ですね。

【商品担当者】 冷たくすると固くなるお餅を柔らかく保つにはどうするか。温かいお餅で冷たいアイスをどう包むのか。アイデアはおもしろいけど、実際どう作るかは当時とても苦労したところです。詳細は申し上げられませんが、素材の配合や製造上の工程の工夫などいろいろなことを組み合わせて実現しました。

――当時はなかった、冬に食べるアイスとして訴求していきました。

【商品担当者】 当時のアイスクリーム市場の約8割が上期(春夏)に販売していた。そうしたなかで、秋冬においしく食べるアイスをコンセプトにしたのが『雪見だいふく』です。発売当時のテレビCMでは、雪景色のなかで食べるシーンや、家の中でこたつに入って雪景色を見ながら食べるシーンが多いが、寒くみえないように工夫しました。それまでは暑い中でアイスを食べて涼しくなるところを映すのがアイスCMとして一般的だったところ、それとは真逆のイメージを訴求していきました。パッケージに雪のマークを入れていますが、それも当時のアイス業界では考えられないデザインです。

――“冬にアイス”をひとつの文化として定着させた功績は大きいですね。

【商品担当者】 社会環境の変化もあると思います。1980年代は家庭にさまざまな暖房器具が普及したタイミング。冬でも家のなかは常に温かい状態なのが一般的になりました。外は寒くても家のなかは温かい。寒い外から帰って部屋で体が温まってきたときにアイスを食べるのが心地いいことを訴求しました。実際にお客様が温かい部屋で『雪見だいふく』を食べておいしいと思っていただけたことが、文化としての定着につながったのではないでしょうか。冬は寒くても、『雪見だいふく』を食べて心は温かい、優しい気持ちになれるというイメージを伝えるのは努力してきたところです。

◆「パッケージを四角にはするな」トレーの形状を変えて売上減の“黒歴史”

――発売から長らく冬季限定(9月~5月)の販売でしたが、2018年4月より通年販売となりました。

【商品担当者】 当初、ブランドイメージとして秋冬で売っていく考え方がありました。しかし、市場調査の結果、消費者の購入意向が季節によってそれほど変わらないことがわかり、段階的に通年販売のエリアを広げていく検証のステップを踏んで、全国での通年販売に踏み切りました。ただ、寒い時期に食べるアイスのイメージから、やはり秋冬のほうが売れます。

――通常販売は2個入りですが、そこへのこだわりとは?

【商品担当者】 2個入りの理由は、かつての販売促進のためだったんです。発売当初は、スーパーではなく一般的な小売店がメインの販売先でした。そこに設置してあるストッカー(冷凍ケース)は小さくて、そのなかに各社の商品がたくさん入っているので、1個入りだと埋もれてしまう。面をしっかり取って目立たせるために2個入りになりました。

――いまでこそ大人気商品ですが、販売で苦労された時代はありませんでしたか?

【商品担当者】 過去の黒歴史としては、楕円形のトレーを四角にしたことがあるのですが、ものすごく売上が落ちました。『雪見だいふく』は商品の形状は見てわかるとおり、まるっこい柔らかい雰囲気のイメージ。パッケージが角張った四角だと柔らかい印象が薄らぎ『雪見だいふく』らしさが減ってしまいます。2個入りのトレーやパッケージの形状も含めて『雪見だいふく』を愛していただいているファンの方は多い。歴代の担当者から「パッケージを四角にはするな」と語り継がれています(笑)。

――これまでさまざまなフレーバーを発売されていますが、一番売れたのは?

【商品担当者】 いまだに売上記録が破られていないのが、2006年に発売した「生チョコレート」です。生チョコがブームになっていた時期だったこともあるのですが、売れすぎて供給が追いつかなくなり、お詫びの社告を新聞に掲載したエピソードがあります。その後も定期的に発売はしていますが、最初のインパクトには勝てないのか、当時の記録には遠く及ばないのが実情です。そのほか過去にはチャレンジングなフレーバーも販売していますが、ほぼ期待通りの売上になっています。在庫の山を残したフレーバーはありません(笑)。

◆食べた人が“ほっこりした気持ち”になるブランドイメージを大切にした

――SNSでは、『雪見だいふく』をアレンジした食べ方の話題も盛り上がっています。ロッテさんのおすすめは?

【商品担当者】 昨年の10月からアレンジとしてアピールしているのが「禁断の雪見トースト」。食パンにとろけるチーズを乗せて、そのうえに『雪見だいふく』を置いて焼くだけです。コロナ禍で自宅の食事にひと工夫したくてやってみたという方が増えているのですが、オシャレなカフェのメニューで出てきそうな味わいになると好評です。

――発売から40年、長く愛される秘訣とは?

【商品担当者】 発売当初から、アイスクリームとお餅という素材の組み合わせのインパクトで一気に人気商品になりました。それと同時に、食べた方が“ほっこりした気持ち”になる『雪見だいふく』のブランドイメージを大事にしています。品質の特徴とそれがもたらす情緒的な価値がマッチしていることが、長く愛されてきた理由だと思います。現在は、これだけ長くご愛顧いただいている商品なので、お客さまとの距離をより近くし、一緒にブランドを作り上げていくことに注力しています。(文/武井保之)

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