2021年3月26日
幻冬舎ゴールドオンライン
「年金、将来、自分たちも本当にもらえるのか?」という不安を現役世代からよく聞きますが、実際に制度としては、社会・経済の変化にあわせて改正されていくものです。どのような改正が行われるのでしょうか。直近のものから考察していきましょう。
これまでより「長い期間にわたり」働くようになる…
令和2年6月5日「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が公布されました(5月29日成立)。厚生労働省のホームページから、「改正の意義」をみていきましょう。
“今後の社会・経済の変化を展望すると、人手不足が進行するとともに、健康寿命が延伸し、中長期的には現役世代の人口の急速な減少が見込まれる中で、特に高齢者や女性の就業が進み、より多くの人がこれまでよりも長い期間にわたり多様な形で働くようになることが見込まれます。こうした社会・経済の変化を年金制度に反映し、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図る必要があります。”『厚生労働省ホームページ』より
「多くの人がこれまでよりも長い期間にわたり」「働くようになる」と、はっきりと記述されています。これにより年金の受給開始時期が遅くなったのかと言えば、必ずしもそうではありません。では、どのように変わったのでしょうか。
“高齢期の就労の拡大等を踏まえ、高齢者が自身の就労状況等に合わせて年金受給の方法を選択できるよう、繰下げ制度について、より柔軟で使いやすいものとするための見直しを行います。現行制度では、60歳から70歳まで自分で選択可能となっている年金受給開始時期について、その上限を75歳に引き上げます。繰下げ増額率は1月あたり、プラス0.7%(最大プラス84%)となります。この制度改正は、令和4年4月から適用され、令和4年4月1日以降に70歳に到達する方(昭和27年4月2日以降に生まれた方)が対象です。なお、現在65歳からとなっている年金支給開始年齢の引上げは行いません。”『厚生労働省ホームページ』より
「なお、現在65歳からとなっている年金支給開始年齢の引上げは行いません」と太字で記されているように、今回の改正で受給開始が遅くなるというものではありません。あくまで個人の意思で、受給開始を遅らせる選択をした場合には、その分、得をするという制度になっています。平均寿命が伸びているとはいえ、自身の寿命がどれくらいであるかは誰にもわかりませんから(定期的に健康診断を受診することである程度ははかれるかもしれませんが)、受給開始時期を遅らせるかどうかは、悩ましいところではないでしょうか。
年金制度が破綻している…ことは「全くありません」
改正に関しての同ホームページのQ&Aでは、記事冒頭に記した「年金、将来、自分たちも本当にもらえるのか?」という不安について明確に回答していました。
“Q.少子高齢化が進行すると、若い世代の年金額は減ってしまうのではないでしょうか?
A.年金制度は、5年に一度、健康診断のような形で行う「公的年金の財政検証」によって100年先までの見通しを検証しており、令和元年の財政検証では、若い世代が将来受け取る年金は、経済成長と労働参加が進むケースでは、引き続き、将来の時点で働いている人々の賃金の50%を上回る見込みです。年金制度が破綻している、若い世代は年金を受け取れない、といったことは全くありません。”
回答にある「公的年金の財政検証」は2019年(令和元年)に行われています。「2019(令和元)年財政検証結果のポイント」より前提となったデータをみると、前回との比較(中位推計)において、出生率は1.35(2060年)から1.44(2065年)に向上、平均寿命は男性84.19歳・女性90.93歳(2060年)から男性84.95歳・女性91.35歳(2065年)は伸長、高齢化率は40.4%(2065年)から38.4%(2065年)に低下となっています。
平均寿命は伸長としているものの、出生率の向上、高齢化率の低下が前提とされており、翌年に公布された「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が少子高齢化による現役世代の減少を前提としていたことと照らし合わせると、違和感を覚える人もいるかもしれません。
また、前回との比較において、労働参加は就業率58.4%(2030年)から60.9%(2040年)に進展、と強調されていることも、コロナ禍を経験した現在からみると、前提が変わってくるのではないかと、気がかりではあります。
「公的年金の財政検証」は5年に一度実施されているので、コロナ禍を経て、次回の前提はまた変わってくるでしょう。踏まえて、また改正がされる可能性もありますが、状況を鑑みると、受給年齢の引上げは大いにありそうです。