2020年7月24日
NEWSポストセブン
東京都心部のタワーマンションなどで起きていた不動産価格の高騰から一転、これから一層深刻化しそうなコロナ不況によって“不動産局地バブル”の崩壊が指摘され始めている。果たして今後、資産価値が暴落しそうなタワマンエリアはどこなのか──。近著に『コロナパニック最前線 不動産大暴落がはじまった』がある住宅ジャーナリストの榊淳司氏がレポートする。
今のところ目立った統計数字は出てきていないが、まもなく日本にもコロナ不況がやってくることは確実だ。
先日IMF(国際通貨基金)が発表した2020年の世界経済の成長はマイナス4.9%。日本はマイナス5.8%といずれも下方修正されているが、日本のマイナス成長は、果たしてその程度で済むのか。
8月中旬に発表される2020年の4─6月期のGDPは、おそらくはマイナス2桁であろう。史上最悪レベルと言っていい2009年1─3月の年率換算マイナス14.2%を超える下落幅になりそうだ。このままでいけば、2020年のGDPはマイナス二桁も十分にあり得るだろう。
そのような状況にあるにもかかわらず、株価は暴落していない。同様に、不動産市場にも目立った下落現象は見られない。なぜか? ハッキリした理由は分からないが、おそらく「カネ余り」が影響していそうだ。
2013年以来の異次元金融緩和で、日本の不動産は局地バブル状態だった。都心などの一部地域でマンションも含めた不動産価格がバブル的に上昇した。そのバブルが終わろうとする頃に、この世界的なコロナ騒動が始まったのだ。
メーカーは生産活動が停止状態になり、サービス業は自粛で売り上げが大幅減少。こういった経済活動の収縮が不況をもたらさないわけがない。そこで政府はかつてない手法による緊急の経済対策を実施した。国民一人ひとりに10万円を給付。事業者には最大200万円の持続化給付金の交付……。そういった政府のマネー“輸血”によって、現状は何とか不況色の鮮明化を抑えている。
裁判所も4月と5月は機能しておらず、企業の破産審査も停止したまま。6月からようやく動き出したので、それらが表に出始める8月には倒産が急増するという予測さえある。
マンション価格の暴落に「地域差」
マンションを始めとした不動産価格も、9月以降はジワジワと下がり出すのではなかろうか。特に住宅ローンの返済が困難になった人々の任意売却が大量に出てきそうなのが8月以降と推定できる。
年末には、そういった任意売却物件が成約を急ぐあまりに“投げ売り”に転じるケースも目立ち始めるだろう。すると、一般人の目に見えるところで価格の下落が起きる。短期間に大幅な価格の下げが見られれば、それはすなわち「暴落」である。
今回のバブル崩壊では、暴落に地域差が出そうに思える。
例えば、同じ山手線の内側エリアでも、バブル的に価格が高騰した港区に対し、上がるには上がったが、その幅がさほどでもなかったのは文京区。そのため、下落幅も港区のほうが大きくなりそうだ。物件によってはこの7年の上昇分である現状価格の4割程度が短期間に吹き飛ぶこともあり得る。
一方、文京区では一部のタワーマンション以外は、この7年間で2割からせいぜい3割ほど上がっただけ。したがって、価格が下がってもまずはその程度に抑えられそうだ。
不況は人々に、株や不動産における「本来の価値」を思い出す機会を与えてくれる。例えば、株式ならPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)という基準があるように、不動産では「利回り」が有力な目安になっている。
利回りとは、その価格に対してどれくらいの賃料収入が得られるかということ。例えば、1億円のマンションで年間の賃料収入が1000万円だと10%。実際には管理費や税金、修繕費などが掛かるので実質は7%~8%になる。
2013年以降の局地バブルは、東京23区から利回り10%以上の物件を蒸発させた。東京23区どころか、郊外でも10%物件は見かけない。しかし、コロナ不況によって間もなく東京の近郊にも10%物件が復活するはずだ。
実力以上にバブル化した「武蔵小杉」
マンションを評価するもう一つの基準は賃料。その物件を買うのではなく借りた場合に、物件価格は賃料の何年分に相当するかという基準だ。例えば、賃料の10年分程度の価格だったら購入のほうが明らかに有利。しかし、賃料の30年分だったら、購入のリスクのほうが高くなる。
こうした基準に照らして、この局地バブルで明確に割高な水準までマンション価格が上昇した地域がある。実力不相応に価格がバブル化したエリアほど、今回のコロナ不況で価格が大幅に下落しやすいと考えられる。
首都圏でそういったエリアを探すと、すぐに浮かび上がってくるところが何か所かある。
まず、川崎市(神奈川県)の武蔵小杉エリアである。
今や“タワーマンション銀座”と呼べるほど、タワマンが林立している。人口が急増したことで最寄り駅のキャパシティが追い付いていないことが、2018年頃の報道で話題になった。さらに2019年の10月には台風19号による水害にも見舞われた。
このエリアのタワマンは、今や新築タワマンの坪単価が400万円に迫っている。それは文京区山手線内の普通の新築物件と変わらない水準だ。明らかに実力以上の高値まで上がってしまったため、コロナ不況による急速な調整の可能性が高い。
五輪に左右される「湾岸エリア」
もうひとつは、五輪開催エリアで分譲された江東区(東京都)有明エリアのタワマン群。ここは2013年の東京五輪開催決定で一気に人気化して、高価格なのに短期間で完売してしまった物件が多い。
2021年に五輪が開催されれば世界の注目を浴びるエリアではあるが、そもそも交通利便性が低いエリアでもある。特に五輪の競技会場がいくつも設けられているあたりの利便性の悪さは、一度でも訪れると誰もが実感する。
たとえ2021年に五輪が開催されたとしても、その後は“祭りの後”状態。五輪が中止になれば「不運な過去」を持つエリアになってしまう。そういったエリアで販売されている新築タワマンの価格も文京区水準で、今になると、そのアンバランスさが際立っている。やはりコロナ不況の本格的な到来とともに、調整は免れないだろう。
郊外に目をやると、「複合開発」の美名のもとに、実力以上の価格で販売されている千葉県の海浜幕張エリアも価格の下落が想定される。
首都圏マンションの資産価値は、基本的に「どの駅から徒歩何分か」というスペックで決まる。駅から15分以上も歩く物件の資産価値は希薄である。新築時には莫大な広告費を使うので何とか買い手がつくが、築10年になった時に売却するのは個人。広告費なんてかけられない中で、「徒歩15分以上」というスペックはきつすぎる。
この7年の間に進行したマンションの局地バブルは、人々の冷静な目を曇らせた。本来の実力以上に値上がりしている状況を「仕方がない」、あるいは「この先はもっと値上がりする」と受け容れてしまった。それがまた、バブルを助長させたといえる。その証拠に、東京よりも価格に対する眼が厳しい大阪では、バブルというほどの値上がりはほとんど見られなかった。
今後、コロナ不況はマンション市場を適正化する。その過程で厳しい調整(暴落)が避けられないのは、より“バブル的”に価格を上げてしまったエリアの物件である。