2020年7月11日
エキサイトレビュー
7月11日に33歳の誕生日を迎えた加藤シゲアキ。NEWSのメンバーとして2003年にデビュー。その後、グループの活動休止を経て、2012年1月に小説家デビュー。ジャニーズ初の作家となった。アイドルとしては異例の肩書を持つ加藤の魅力に迫ってみたい。
アイドルから作家へ
ジャニーズJr.からデビューまでは、“エリート”と称されるほど順調だったが、デビュー後からの苦労は、雑誌などのインタビューで度々語られてきた。デビューが早くてもそれはそれで苦労があるのだ。
もともと小説家になろうとは思っていなかったという加藤。2015年放送『櫻井翔×大野智×加藤シゲアキ アイドルの今、コレカラ』(日本テレビ)で、嵐の櫻井翔、大野智と対談をした際にこんなことを語った。
「ジャニーズに入ったときに自分が作家になるなんて思ってないし、作家になりたくてジャニーズに入る人はいない」。書き始めたきかっけについて、「自分がグループにいて、まだ何者でもないなって悩んでいた」。有料サイトで書いたブログが評判だったこともあり、「書くことで(グループに)貢献できたらという気持ちが芽生えてきた」。
そんな選択肢を得たのは、釣り仲間でもある大野智の影響だという。カンパチの話がしたかった大野と、ひたすら仕事の悩み相談をしていた加藤が釣り船の上でやりとりをしていたかと思うと、ちょっと面白い。
作品数に比例するかのように、ソロ曲も作詞作曲を手掛け、コンサートのソロステージはまるで舞台を見ているかのようなストーリー性のあるステージだった。特に「あやめ」「氷温」は、楽曲に照明や衣装などのアイテム、身体の動き、全てをバランスよく使って歌詞の世界観を表していた。あの動き、歌詞が意味するものは……と余韻が残る。一回見た、聴いただけでは足りず、何度もリピートした。
パフォーマンスはもちろんだが、グループの冠がなくても存在感を放ち、『タイプライターズ~物書きの世界~』(BSフジ)では、作家として出演中。以前、書店の棚に差し込まれている作家の名前札が欲しいという夢も実現した。
作家・加藤シゲアキ
2012年、芸能界の挫折と栄光を描いた『ピンクとグレー』でデビューを果たして以来、2013年『閃光スクランブル』、2014年『Burn. -バーン-』、2015年には短編小説集『傘をもたない蟻たちは』(以上、角川書店)、2017年『チュベローズで待ってる』(扶桑社)と、連続して出版。はじめの3作は、渋谷と芸能界を舞台にした作品で、通称“渋谷サーガ”と呼ばれている。
今年3月発売の新刊は、加藤初となるエッセイ『できることならスティードで』(朝日新聞出版)。テーマは旅。国内外の実際に訪れた旅先での出来事もあれば、料理で旅気分を味わったり、何気ない会話から得た知識がどんどん別のものへと繋がっていく、まるで“知識の旅”のような展開があったり。
思わぬ描写に笑ったり、家族とのエピソードにジーンとしたり。軽やかな筆致の中にも、発見や驚き、想像を超えた展開もあり、観察眼のすごさを感じた。ファンではない人が手にしたら「この人は本当にアイドルなのか?」と、規格外な一面に驚くかもしれない。
また、音楽好きの加藤は、日曜深夜放送のラジオ番組『SORASHIGE BOOK』(FM yokohama)で、NEWSの楽曲に加えて、加藤が選んだお気に入りのアーティストの楽曲を紹介している。
これまでジャニーズの音楽をメインに触れてきた身からすれば、新たなアーティスト、音楽との出会いの場になっている。他にも料理や釣りなどの趣味について……こんな風に、加藤を通して知ったこと、学んだこと、新たに触れたカルチャーがいくつもある。
加藤が手掛けた作品は発売がゴールではなく、その続きがある。2016年には『ピンクとグレー』が映画化され、Hey!Say!JUMPの中島裕翔が主演を務めた。
また、短編小説集『傘をもたない蟻たちは』に収録の6篇もテレビドラマ化。そして2020年、短編小説『染色』の舞台化が決定。舞台『染、色』として、加藤が舞台脚本を手掛ける予定だったが、コロナ渦の影響により残念ながら全公演の中止が発表された。
映画『ピンクとグレー』では中島が映画初主演にして主演を務めたように、舞台『染、色』には、Aぇ!groupの正門良規を起用、彼にとっても初主演の舞台の予定だった。加藤が生み出した作品が書籍化され、映像や舞台作品へと展開、後輩たちのチャンスへと広がっている。加藤の軌跡を辿っていくうちに、『できることならスティードで』のTrip3で綴った、円環のエピソードが重なった。
舞台の中止、メンバーの脱退……。身に起こった出来事、当事者にしかわからない心の揺れ、湧き出た感情は、またひとつ描写の素となって、きっと何かのタイミングで作品のエッセンスになることだろう。コロナ渦の収束と共に、作品の舞台化、そして脚本家デビューと、新たな挑戦の機会が訪れることを願っている。
(柚月裕実)