すごい・さすが・惜しい…ほめちぎる教習所、せっかちな女性記者が体験講習

2020年6月21日

読売新聞オンライン

 地方支局でニュースを追う記者にとって、移動手段の乗用車は欠かせませんが、三重県の津支局へ5月に赴任した新人の西沢由華記者(22)はペーパードライバー。

 マイカーで出動する日を前に、運転技術を確認することにしました。その名も「ほめちぎる教習所」で。

 免許を取ったのは大学1年の時。電車通学で、車で出かける際も親や友達が運転してくれたので、数えるほどしかハンドルを握っていません。

 運転の勘を取り戻さなくては……。インターネットで探し、目に留まったのが三重県伊勢市の南部自動車学校でした。ほめて生徒の意欲を引き出す指導法で知られているそうです。「ペーパードライバー」向けもあるそうで、講習(50分)2回分をお願いしました。

 指導していただいたのは、教官歴20年の八田宜彦さん(42)です。

 まずは構内のコースを走ります。最初の難関・S字カーブで「ガクン」。いきなり左後輪を脱輪させてしまいました。恐る恐る助手席の八田さんの表情をのぞくと、うなずき、「ブレーキ踏めたね!」。ミスを注意するのではなく、すぐ止まったことを評価してくれたのです。

 八田さんはドアを開け、「左側へ寄りすぎたね」と原因を教えてくれました。道路幅を意識して運転し、無事にカーブを抜けると、「よくできた」とほめてくれました。

 一般道では車線変更に挑戦です。タイミングが分からずあたふた……。後ろから来る車を何台も見送ります。八田さんは「いつでも大丈夫ですよ」。気持ちが楽になりました。落ち着いて車線変更すると、「よくできました」と笑顔。

 ただ、八田さんは問題点を見抜いていました。左折やバックの際、十分に減速しない癖です。せっかちな性格が運転にも出ているのでしょうか。「焦らず、落ち着いて運転すれば大丈夫! 頑張って」

 4年前に通った教習所は、時に厳しい口調で指導されましたが、今回は萎縮いしゅくせずに運転できた気がします。

 なぜ「ほめちぎる」のでしょうか。独自の指導法を打ち出したのは7年前。少子化で生徒数が減った上、若者の車離れの影響で、就職用に免許を取るという生徒らの学ぶ意欲が低下していました。加藤光一社長(57)は「意欲を持ってもらえるよう、『ほめて伸ばす』へ転換しました」と当時を振り返ります。

 社員同士がほめ合う実習を重ね、以前と比べての「今日はできたね」など4種類の「比較ぼめ」や、「3S+O」(すごい、さすが、素晴らしい、惜しい)などを考案しました。

 当初は「優しく教えて事故が増えないか」との声も出ましたが、卒業後1年以内の事故率(普通車)は2012年の1・76%から18年は0・43%に減少。入校者は年々増え、職場の雰囲気も明るくなったそうです。

 「ほめちぎる」のベースには、相手の長所を見つけ、評価する精神がある。運転以外にも通じる考えでしょう。社会人になり、ほめられることばかりではありませんが、講習で教えられ、学んだように、焦らず一歩一歩、仕事も覚えていけたらなと思います。

ポイント<運転に自信がない人へ>

▽一時停止や右左折の際、ミラーだけでなく、目視でも確認する▽駐車する時は後方を十分確認する▽なじみのない場所で運転する際は一方通行などの標識を意識する▽初心が大事。運転に慣れると、謙虚さがなくなる。「自分は運転がうまいわけではない」と思って

ほめる指導 全国に

 「ほめちぎる教習所」は各地に広がっています。

 南部自動車学校には、全国の教習所から指南を受けたいとの要望があります。「ほめちぎる」を看板に使いたいとの申し出もあり、同校社員の講習を一定期間受けてもらうなど、一定条件の下で認めています。これまでに広島、山口県などの5校を認定したそうです。

 2017年に認定を受けた岐阜県関市の「関自動車学校」は、学校正面に「ほめちぎる教習所」と掲げています。生徒数の減少が課題でしたが、現在では回復し、事故率も低下したそうです。経営企画室の川野養二さん(51)は「教習所に通うのは一生に一度。楽しんで学んでほしい」と話していました。

 南部自動車学校には、ホテル、鉄道会社など異業種からの視察も相次いでいます。ほめる指導は業種の枠を超え、さらに広がりそうです。

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