2020年5月7日
朝日新聞デジタル
新型コロナウイルスの感染拡大とともに姿を消したマスクが、にわかに街角に並び始めた。
各地の商店街で衣料品店や飲食店の軒先を陣取り、自動販売機や道路脇でも売られるまでに。中国などからの輸入品が多いとみられ、飽和状態にすらなりつつある。
■マスクだらけの商店街
雑貨店などが所狭しと軒をつらねる兵庫県尼崎市の三和本通商店街。4月末、20店ほどの店頭に箱や袋に入ったマスクが並んでいた。2枚で税込み500円の洗えるマスクもあれば、30枚3千円の使い捨て用もあった。一部の店主によると、同月中旬からマスクを扱う店が急増したという。
その一角で洗えるマスクを売る小売業の男性(38)がいた。約1カ月前、取引したことのある中国メーカーから、衣料品などを扱う男性の会社にマスクを売らないか提案があったという。激減した売り上げを補おうと5万枚ほど仕入れ、これまでに店頭や知り合いを通じて9割をさばいた。布を切り抜いたもので、ウイルスの侵入を防ぐ効果はほとんどない。2枚1組500円の価格だが、「輸送費などのコストを考えれば妥当な価格」と説明した。
男性は天ぷら店も営むが、3月の売り上げは開店当初の1月の半分ほどに。家賃などを払った後の手元のお金は3千円。金融支援も受けられず、マスク販売は「当座をしのぐためには必要な商売」になったという。
厚生労働省などによると、世界的な需要の高まりを背景に、マスクの輸入価格は高騰している。50枚入りの使い捨てマスクの仕入れ価格は従来は1枚5~7円ほどだったのが、4月には約7倍に高まった。原材料の価格も高騰しており、店頭に割高な品が並ぶ要因になっている。
一方、商店街を進むと、使い捨てマスクの箱が積み上げられている手芸用品店があった。周辺にマスクを扱う店が増え、在庫が余っているという。店員によると、子会社が中国にある工場でマスクを製造して5万箱を仕入れた。4月21日の販売初日には350万円を売り上げたが、ここ数日はその7分の1前後に。そこで価格を1箱3800円から3千円に引き下げた。店員は「あちこちで売られ、あっという間に客が減った」と嘆いた。
マスクを景品に客を呼び込む店もあった。居酒屋「ビストロジャパン」は、中国製使い捨てマスク1枚を弁当とセットにして販売。3月の売上高はふだんの3割程度に減った。そこで弁当販売を始めたが売れ行きは伸び悩み、マスクを付けてから改善したという。店長の若田智大さん(38)は「利益にはならないけど、プレミアのような価値はある」と話す。
■韓流の街・新大久保でも
場所は変わってアジア系の飲食店や雑貨店がひしめく東京・JR新大久保駅前。
大手ドラッグストアに入ったが、見当たらない。男性店員に聞いてみた。「マスクはないです」。入荷は3日ごとや1週間ごとなど不安定という。「入荷しても5枚入り。(50枚入りの)箱が入ることはほとんどありません」
その数十メートル先、香辛料店には人だかりができていた。店頭には1箱50枚入りのマスクが3種類、山積みにされていた。価格は3500円前後。
男性従業員によると、2月以降、中国やバングラデシュから仕入れているという。取引先の会社は明かさなかった。5箱を抱えていた千葉県の60代男性は、「地元じゃ買えないから、ネットで調べて買いに来た。なくなりそうなのでありがたい」と話した。
近くの大通り沿いに出ると、さらに色々な業種の店が扱っていた。化粧品店やタピオカ店に加え、韓国料理店にもあった。男性従業員は「食事もできて、マスクも買えたら良いじゃないですか」。
路地に入った韓国コスメや雑貨を扱う店は「期間限定」として、価格は周辺より安い1箱3千円。でも人だかりは見られなかった。競合が激しく、ここでも売れなくなったという。(加茂謙吾、江口英佑)