新型コロナでジャニーズに異変!? 芸能人テレワーク時代の新しい稼ぎ方

2020年05月08日

BLOGOS


放送作家の谷田彰吾です。ここ1ヶ月の間にも芸能人YouTube界の動きは加速。芸人では千原ジュニアさん、小籔千豊さん、フットボールアワーさんの4人が合同で配信を開始。女優の仲里依紗さん、声優の梶裕貴さんなども次々と参入しています。

このスピードアップの大きな原因は、新型コロナウイルスです。緊急事態宣言によって悲鳴を上げている業界は多々ありますが、芸能界もそのひとつ。テレビや映画の収録は中止、イベントやコンサートもキャンセル、芸能人のスケジュールにはポッカリと大きな穴があいてしまいました。

某人気アイドルグループを抱える芸能事務所は、僕にこんな言葉で窮状を表現しました。「弊社はもう血流を止められた状態です」と。尋常ではない危機感が伝わります。このクライシスにあって芸能事務所がやれることは何か…真っ先に思い浮かぶのがYouTubeというわけです。

毎回書いていますが、この流れは一過性のブームではありません。昭和の時代に映画からテレビへメディアが移行したように、テレビからデジタルへ、令和のパラダイムシフトは始まっています。もう少しゆっくり進むはずだったものが、コロナ禍で強制的に加速しました。

僕はテレビだけでなく、Wednesdayという自分の会社で「デジタルメディアレーベル(DML)」というサービスを立ち上げ、芸能人のYouTubeでの活動をプロデュースしています。現在、芸人のMr.都市伝説 関暁夫さん、講談師の神田松之丞あらため神田伯山さん、元メジャーリーガーの上原浩治さん、ファミリーで大人気の芸人・はなわさんなどのチャンネルを運営中。最近では、メイクアップアーティストのイガリシノブさん、ものまね芸人のMr.シャチホコさんのチャンネルもローンチしました。

そんな弊社は今、数多くの芸能事務所からお問い合わせをいただくのですが、中にはこう宣言した社長もいます。

「腰かけでデジタルをやる事務所は必ず失敗する。ウチはデジタルに本籍地を移す!」

このように覚悟を決めた事務所がある一方で、まだ様子見をしているのが大手事務所。いよいよ動き出さんとする巨人たちの中で、僕が気になるのはジャニーズ事務所です。

今でこそデジタルコンテンツを解禁していますが、かつては徹底したネット鎖国体制を敷いていました。そんなジャニーズが、このメディア変革にどう対応するのか? 何が落とし穴になるのか? アフターコロナのアイドルビジネスがどうなるのか? 取材も交えて僕なりに考察します。読んでくださっているジャニーズファンの皆さん、どうかお手柔らかにお願いしますm(_ _)m

コロナによって偶然起きた 『ジャニーズ令和維新』

コロナ禍の中、ジャニーズはTwitterとInstagramの公式アカウントを開設しました。その名も「Johnny’s Smile Up! Project」。木村拓哉さんが手洗いのレクチャー動画を、TOKIOの城島茂さんは除菌剤を作る動画を投稿。社会貢献の側面を持つアカウントなので、年長組はさすがの貫禄でコロナ対策を啓蒙しました。

そんな中、下の世代はというとなかなかの個性を発揮していて、KinKi Kidsの堂本光一さんはプライベートで使い込んだ自らのコンサートグッズのタオルを使い、まさかの窓掃除。関ジャニ∞の村上信五さんは朝9に寝起きでできるストレッチを撮影。髪の毛はボサボサ、どう見てもガチで寝起きという顔を披露しました。

開設から約20日でTwitterのフォロワーは36万人、Instagramは61.6万人(4/29時点)未登場のタレントがわんさかいる中でこの数字ですから、さすがジャニーズです。

しかし、どうでしょう? 違和感を覚えませんか? 天下のジャニーズ事務所が、ボロタオルで窓掃除をしたり、ボサボサの寝起き顔を披露する姿をこれまで見せてくれたことがありましたっけ?

ジャニーズといえば、ステージの上できらびやかな衣装を身にまとい、華麗に歌い、踊り、ゴンドラに乗り、クライマックスで天空を舞う。そういう人たちです。この世のものであってそうでないという「絶対的偶像」。堂本光一さんは王子であり、窓など決して拭かない。ましてや年季の入った自前のタオルを見せるなんて言語道断。生活感は敵! それがこれまでのジャニーズスタンダードだったわけです。

「バーチャルジャニーズプロジェクト」の仕掛人であるSHOWROOMの前田裕二さんは、こう語っています。

「ジャニーズは“遠さ”にその価値の源泉がある」

手が届かないからこそ、輝く。触れないからこそ、尊い。それがジャニーズ。しかし、それをついに崩し、SNSで私生活を見せるようになりました。これは画期的なことです。過去をネット鎖国と呼ぶなら、「ジャニーズ令和維新」とでも名付けましょうか。なぜ僕がここまで仰々しく言うのか。それは天下のジャニーズが世の中の流れにちょっとだけ迎合したためです。

10年ほど前から日本のタレントビジネスは「親近感」がキーワードになっています。AKB48のコンセプトは「会いに行けるアイドル」。クラスで一番ではない子をわざと集めたとも言われる“非”高嶺の花感。そして、お金を払えば握手ができる。この距離の近さが一大ムーブメントを巻き起こしました。

そして、テレビのカウンターカルチャーとも言えるYouTubeから生まれたスターたちは、総じてどこにでもいそうな人ばかり。しかも、自宅で撮影するのが当たり前。私生活の延長をコンテンツにしているのがYouTuberです。彼らが数百万人のファンを惹きつけ、YouTubeドリームを生み出しました。ジャニーズとは真逆ですよね。

これは完全に私見ですが、この「親近感人気」の流れは、ジャニーズですら無視できないほど大きなものだったのではないでしょうか。でも、偶像が売りのジャニーズはその流れになかなか乗れなかった。ネットを解禁し始めたあたりから、機会をうかがっていた可能性もあります。そんな中、自宅で自ら撮影をしなければならないコロナ禍はある意味、ジャニーズにとってSNSに本格進出する良いきっかけになるかもしれません。

ジャニーズにとってSNSは諸刃の剣!?

しかし、ジャニーズ令和維新は必ずしも良い方向に行くとは限らないかもしれません。今回、僕は近しいジャニーズファンの女性たち(地方遠征は当たり前、ジュニアの青田買いに余念がない筋金入り)に、ジャニーズが自宅を見せてくれるのは嬉しいのか聞きました。すると、意外な答えが…。

「そりゃ見たいに決まってんじゃん! 関ジャニの安田くんとか、後ろに謎の流木とか置いてあってめちゃおもしろい! でも、あるジュニアの子の動画に合板の安っぽいタンスが映ってて萎えた。一般家庭感が出るとなんかね…。ジャニーズはあくまで舞台で輝く人たちだから、夢から覚めるようなことはしてほしくないんです」

自宅は見たいけど、王子的生活じゃないと萎える。これが多数派なのか少数派なのかは調査が必要ですが、この気持ちは分かる気がしました。自宅に限ったことではなく、私服や素の会話での言葉遣いなど、細かいディテールにこそファンは目を光らせます。

今後、ジャニーズのタレントが個人のSNSを本格運用するようになれば革命的ですが、一歩間違えばブランド価値低下の危険もはらんでいます。個人のセルフプロデュース能力が強く試される。もしかしたら、これまでの人気の序列が変わるかもしれません。

24時間をマネタイズするテレワーク時代の芸能界

では、アフターコロナのアイドルビジネスは、いったいどう変わっていくのでしょうか?

緊急事態宣言で多くの企業がテレワークになっていると思いますが、芸能界もそうです。テレビやYouTubeの収録は自宅からビデオ通話で行うことが多くなりました。でも、それは序の口。これからは、「テレワークで24時間をすべてマネタイズする時代」になると思います。

皆さんはデジタルコンテンツと聞いてどんなプラットフォームを思い浮かべますか? YouTube、TikTok、LINE LIVE、SHOWROOM、オンラインサロン。

しかし、これからはもっと増えます。例えば、握手会代替プラットフォーム。AKB48から始まった握手会ビジネスは、コロナ禍によって見直しを迫られています。身体接触なしでアイドルとファンが1対1でできるプレミアムな体験はないものか…答えはすぐ近くにあります。ビデオ通話です。

お金を払えば好きなアイドルと数分間、まるで恋人のように2人だけの時間が味わえる…そんな夢のようなアプリはすでに稼動しています。これは芸能事務所にとってもメリットだらけ。握手会の会場費も警備員もいらない。AKB48で発生した切りつけ事件のような危険もない。自宅にいながら効率よく稼ぐことができる、これぞテレワーク。

さらに、これからは「オーダーメイド型動画プラットフォーム」が増えます。ファンのリクエストに応じて動画を撮影し、ファンにプレゼントするシステム。「好きと言ってほしい!」というリクエストには、スマホでパッと撮影するだけでお金になります。

この手のアプリはすでにアメリカでは流行していて、一流俳優も参加しているとか。芸能人にとってはどこでも撮影できるし、わずか数分の稼動で稼げるわけですから、非常に効率の良いテレワークになります。

このように、用途の違う複数のプラットフォームを巧みに使い分ければ、時間をロスすることなく稼ぎ続けることができます。実際、朝起きたらまず生配信、昼は動画の撮影、夕方にまた生配信、夜は生電話会…というスケジュールで活動しているアイドルグループがいます。極論、眠っている時間すら生配信すれば、投げ銭してくれるファンもいるでしょう。

もちろん今のジャニーズがここまでファンとコミュニケーションをとる活動をするとは思えません。しかし、偶像路線はテレビという一方通行メディアの産物。もっとテレビの影響力が落ち、ネット発でブレイクする新しいアイドルが誕生したら…。果たしてその時、ジャニーズはどうするでしょうか。

最後に付け加えると、芸能人のテレワークが進めば進むほどリアルの価値は上がるでしょう。どんなにテクノロジーが進歩し、新しいサービスが生まれても、対面で体験を共有する価値に勝るものはありません。最後はイベントの集客力がものを言う。となれば、やはり当分の間ジャニーズ帝国が崩れることはないのかもしれません。

今回はジャニーズを例にとりながら、コロナ時代の芸能界を考察してみました。これまでの価値観をどこまで守りながら世の中の変化についていくか。ジャニーズといえども、対応力が要求される時代になりそうです。

谷田彰吾
放送作家/TVクリエイターギルドVVQ代表/Wednesday取締役
ドキュメンタリー番組『プロ野球戦⼒外通告』『バース・デイ』『情熱⼤陸』、有吉弘⾏、乃⽊坂46、池上彰などのバラエティ番組を構成。過去に『中田敦彦のYouTube大学』アドバイザー。放送作家だけでなく広告プランナーとしてもAmazon、Nikonなどを手掛ける。Wednesdayで芸能人YouTube制作レーベル「DML」を運営。TVクリエイターギルド「VVQ」代表を兼任。
https://vvq.tokyo
https://webnesday.net
https://note.com/showgo_wednesday