【長谷川 学】日本医師会が「新型コロナ対策」の足を引っ張っている…あきれた実態 その言動には違和感しかない

2020年4月12日

現代ビジネス

オンライン診療に猛反対

日本医師会の猛反対を受けて、1ヵ月前に政府の新型コロナ対策から外されていた「オンライン診療」事業予算が、4月7日発表の政府の新型コロナ経済対策第3弾に、ようやく盛り込まれた。

オンライン診療とは、スマートフォンやパソコンのビデオ通話機能を使い、医師が自宅などにいる患者を診察して薬を処方するもの。患者の利便性が格段に高まるだけでなく、医療機関受診に伴う感染を回避でき、医療機関側も、感染の可能性のある患者や軽症者、無症状者と直接接触せずに診察することで院内感染を防止できるという利点がある。

このため政府は、3月はじめの時点でコロナ対策にオンライン診療を活用することを決め、3月10日に発表されたコロナ対策第2弾にいったん盛り込んだ。ところが、それに「日本最大の圧力団体」ともいわれる日本医師会が猛反発したため、厚労省が発表直前に対策から外した経緯がある。

その詳細については、4月2日の筆者記事で報じたので繰り返さないが、日医の反対によって、結果的にオンライン診療活用に向けた体制整備作業の開始は1ヵ月遅れになった。その間にも感染は拡大し、4月7日に全国1都6府県で緊急事態宣言が出されるに至った。

いま、多くの患者が訪れる病院が感染拡大の起点のひとつになっているとの見解がある。全国の病院では、院内感染も数多く報告されている。日本医師会には改めて猛省を促したい。

「日医には逆らえない」

厚労省関係者は、今回のオンライン診療解禁に至るまでの紆余曲折をこう話す。

「政府の規制改革会議やIT関係議員は、すでに2月から、コロナ対策でオンライン診療を活用すべきだと主張してきました。それに対し日医は頑強に抵抗してきましたが、新型コロナの感染拡大を受け、世論の風向きが変わってきた。『抵抗勢力』として厳しく批判されることを恐れた日医執行部は、急遽方向転換し、厚労省もそれに従ったのです」

新聞各紙は、厚労省がオンライン診療阻止の元凶のように報じてきたが、この関係者によると、「厚労省の現場は一貫してオンライン診療推進の立場だった」という。

「だからこそ厚労省は現場の声を踏まえ、3月10日の第2弾にいったんオンライン診療を盛り込んだのです。ところが日医執行部の猛反発を受け、いつも日医の顔色をうかがっている鈴木俊彦事務次官や吉田学医政局長をはじめとする幹部がビビって、対策から外してしまったのです」

この関係者によると、厚労省には「政府・自民党に大きな影響力を持つ日医に逆らうと、省内で出世できない」という不文律があるという。

ここで補助金を要求か?

さらに、厳しい批判を受けている政府の経済対策と日医の関係についても、気になる事実がある。自民党関係者が語る。

「オンライン診療が日医の反対で経済対策第2弾から外された後の3月19日、日医は自民党のコロナ対策本部によるヒアリングで予算要求をしてきました。呆れたのは、真っ先に要求してきたのが新型コロナの患者救済に関することではなく、診療所や中小病院への補償だったことです」

日医のペーパーには『休業や一部閉鎖への補償』とあり、その目的として『地域医療・かかりつけ医療機能の継続のため』と書かれていた。

「日医には全国32万人の医師のおよそ半数が加入していますが、執行部は地域の診療所や中小病院の院長・理事長が占めています。ペーパーには、診療所や中小病院向けと明言こそされていませんでしたが、地域医療・かかりつけ医療の中心は診療所などですから、私を含め、このペーパーを読んだ政治家や官僚は例外なく“これは診療所と中小病院への補助金要求だ”と受け止めました」(自民党関係者)

診療所などの「休業や一部閉鎖への補償」の具体的項目としては、(1)雇用継続のための人件費(2)医療機器等の維持費(3)光熱費(4)不動産賃料(5)手元資金があげられていた。手元資金については「無利子・低利子融資など」とある。

「コロナとの戦いの最前線である感染症指定病院の人員拡充や手当の支給は緊急性があり、極めて重要です。しかし、それ以外の一般の診療所、たとえば患者が来なくなって困っている診療所や、感染を恐れて患者を断っているような診療所の補償問題は、たとえ必要になったとしても優先順位は高くないはず。あのペーパーには正直、違和感を持ちました」(前出・自民党関係者)

日医側からすると、単に要求項目を箇条書きしただけなのかもしれないが、ペーパーのトップ項目に “診療所の休業補償” を掲げては、これが要求の「1丁目1番地」であると受け止られても仕方あるまい。 

「患者最優先」ではないのか

ちなみに日医が「休業や一部閉鎖への補償」の次に要求したのは「民間保険の充実」で、具体的には、コロナ感染で休業したときの所得補償保険の補償を拡大することなどだった。

そして3番目にようやく「重症患者の増大に向けた備え」が入り、(1)ECMO(体外式模型人工肺)治療等が必要な重症患者を受け入れる医療機関の要員確保のための費用(2)空床確保(3)都道府県医師会も参画する病床確保、広域搬送のための協議会、ネットワークづくり(4)他院へのほかの疾病入院患者・手術予定患者の転院や入院取りやめに伴う諸支出への補填を求めている。

要するに、要求の順序が逆、患者ではなく医療者、それも一般の診療所優先になっているのだ。

もっとも、この「重症患者の増大に向けた備え」の内容についても、日医会員の医師からは疑問の声が出ている。神奈川県の日医会員の医師が語る。

「日医の会員は、地元の市の医師会会員も務めています。クルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス』で新型コロナの集団感染が起きたとき、神奈川県医師会の幹部が、県下の市の医師会に“クルーズ船対策のために医師を派遣せよ”と要請してきたことがあった。ところが、うちの市の医師会には、感染症の専門家もECMOのような対外式人工肺を操れる医師もいない。そこで市医師会では“そんな素人の医師が応援に行っても邪魔になるだけだ”と判断して派遣を断念しました。

日医の執行部もそうだが、各都道府県医師会執行部の高齢の医師たちに、感染症や最新の医療機器についての専門的知識があるとは思えない。都道府県医師会が参画すれば、指揮命令系統がさらに複雑になり、混乱するだけではないか」

対コロナの現場でいまも多くの感染症専門医や医療スタッフが踏ん張っている中、日医や都道府県医師会執行部の感覚は、国民から遊離していないか。