2020年3月18日
ミュージックヴォイス
6人組男性グループSixTONESが「Imitation Rain/D.D.」(SixTONES vs Snow Man)をリリースした。YOSHIKIプロデュースで話題を集めている楽曲「Imitation Rain」は、一聴して心掴まれる情熱、繊細さ、そして斬新さが光る楽曲だ。ここではYOSHIKIの深い世界観が広がる「Imitation Rain」の楽曲の魅力に触れてみたい。
「Imitation Rain」は、聴き手をグイグイと惹きつけるジャンルレスな新時代の音楽的魅力に溢れている。そう感じたのは、楽曲アプローチ全ての面においての受け入れやすさと親しみやすさに加え、これまでにない斬新さがダイナミックかつドラマチックに表現されているからだ。
ダンスミュージックの要素にバラードの色、ギターのハードロックなアプローチに、壮大な音像の広がり、美しいピアノの旋律。情熱的であり、切なさも含む歌詞。そしてビートの抜き差しのタイミングには日本文化の「わびさび」も感じることができるように思える。
特に注目したいポイントは楽曲展開だ。「Imitation Rain」は、ある種の定型のある展開とは一味違い、新たなアプローチとも言える構成で繰り広げられている。
例えばロックだったら、印象的なギターリフがメインで楽曲展開を牽引したり、HIP HOPだったらある程度一定のリズムとコード進行でループさせてグルーヴを生んだり、ポップスだったらAメロ、Bメロと段階を踏んでサビをキラリと際立たせたり、エレクトロミュージックだったらビートを光らせる、コーラスにフォーカスする、ブレイクで緩急をつける、モジュレーションの変化で恍惚とさせるといったセクション毎のアプローチなど、様々なスタイルがある(これらが全てそれ通り、というわけではないが)。例をあげれば枚挙にいとまがないが、「Imitation Rain」の楽曲展開にはそのどれにも当てはまらない “新たなアプローチ”と感じさせてくれる。
しかし、決して「複雑な楽曲」という感覚にはならず、自然に「良曲」というフィーリングが得られる。そして密度の濃い時間を感じさせてくれる。さらに、複数回聴いても新たな発見を得るという楽しみも味わえるかもしれない。それは、先述した種類のものよりもさらに多くの様々な音楽に精通していないとできないアプローチではないだろうか。
“YOSHIKI降臨”と言わんばかりの美しい導入のピアノからドッシリと響くキックの拍、そしてビートは4つ打ちに展開し、静寂も情熱も含まれるサウンドメイクとアレンジを無駄のない情報量で鮮やかに聴かせてくれる。「次はこうくるかな?」という何となくの予想は華麗に交わされつつも、気がつけば曲の終わりまで没入して聴かせてくれ、美麗なピアノの音色が耳に残り余韻に浸れる。
この楽曲には「静と動」と感じられる各セクションがあるように思えるのだが、それは表面的にというよりも無意識に入り込んでくるようである。
サウンド的には楽器のパートが減る“静”の部分だが、そこでSixTONESの生命力あふれるボーカルがエモーショナルに入り込んでくるところからは情熱を感じる。“動”の部分だが切なさを感じることができるのは、サビと思われる部分だがその手前のセクションよりもビートの音数が少なくなっているアプローチからではないかという発見がある。それらからは、各々のセクションが互いを目一杯引き立てるマジックが楽曲全体に施されているように感じられる。
また、聴き手によって各々お気に入りポイントがたくさん出るのではないかというような感覚は、楽曲としてのレンジの広さがうかがえる。
個人的には中盤過ぎの、ビートが抜かれてピアノとストリングス的アプローチに包まれ<戻れない 時代を振り返る>と切ないメロディが叙情的に漂う部分だろうか。そこから強烈な4つ打ちビート再開から燃え盛るように展開し、<Imitation Rain 時には激しく>と進んだところでまたビートが変化する部分にはキュンとさせられる。
もう少し細かく考察してみると、中盤以降のビートが抜かれている歌の部分は、それまでとは異なる調で展開される、いわゆる「転調」がなされている。その転調も、ポピュラーミュージックで比較的多くみられる半音や全音転調(キーがやや上がる)ではなく、かなりダイナミックに転調している。そして、そのセクション明けにはもとの調に戻り、ピアノが美しく流れ、ボーカルが加わる。そして再び別のキーに転調し<戻れない 時代を振り返る>へと進み、ラストのバースではまたもとの(序盤から中盤の)調に戻り「キーが上がることによる高揚感」とは別種の、えも言えぬ快感が得られる。
「盛り上がるところはドカンと」、「落ちるところは音数少なく静かに」というのが、ある種ベーシックな手法と思われる。しかし、「Imitation Rain」は新たな方法で楽曲のダイナミズムを生じさせているというアプローチが光り、親しみやすさも斬新さも合わさった「良曲」と自然に感じさせてくれる。「Imitation Rain」という楽曲がジャニーズ新鋭グループSixTONESのデビュー曲となったことは、彼らの活躍の始まりとして輝かしい光を放っている。
YOSHIKIが手がける「Imitation Rain」には、音楽としての深みと華、斬新な楽曲展開、ジャンルを超えた魅力がフレキシブルに表れ、X JAPANのYOSHIKIという唯一無二の存在感が表されているテイストもしっかりと含まれている。洗練されたこの楽曲をSixTONESが力強くも繊細さを滲ませ、美しくパフォーマンス、歌唱する姿からは、新時代の希望と期待感を十分に受け取ることができるだろう。【平吉賢治】