猪苗代湖の名物船、廃船の危機 元船長が整備も維持費は秋まで

2021年6月16日

毎日新聞

 福島県の猪苗代湖などで遊覧船などを運航していた「磐梯観光船」が、新型コロナウイルスの影響で破産申請してから15日で1年たった。長引くコロナ禍で船の引受先が決まらず、今秋には維持費も尽きるため廃船の危機を迎えている。破産管財人の小池達哉弁護士は「次の冬は越せない。猪苗代湖の名物なので船の解体だけは避けたい」と話し、引き受け手を探し続けている。【三浦研吾】

 猪苗代湖の長浜には、遊覧船「はくちょう丸」と「かめ丸」の2隻が係留されたままになっている。かめ丸は1984年、はくちょう丸は91年に完成し、猪苗代湖の名物として多くの観光客を楽しませてきた。

 磐梯観光船は59年に設立し、最盛期の乗船客数は年間約10万人を誇った。2011年の東京電力福島第1原発事故による風評被害で、修学旅行などの団体利用が大幅に減り、その後、地道に経営改善の努力を続けていた。19年度は約1400万円の黒字に転じ、「『さぁ、これから』というところでコロナになった」(小池弁護士)。20年4月中旬から休業し、2カ月後に破産を申請した。従業員約10人は解雇された。負債総額は約4億1200万円に上った。

 それでも、再び客を乗せる日が来ることを信じ、船を整備し続ける人がいる。約40年間船長を務めた元従業員の男性(66)だ。「愛着があるし、破産したからといって船を放っておけない」。係留ロープの確認やエンジンの調子を週2回以上、各2~3時間にわたりチェックする。「どこも不具合はない。動かせる状態の方が引き受け手も見つかりやすいでしょう」と汗を拭う。「コロナがなければ……。もう一度客を乗せて猪苗代湖を運航する姿を見たい一心です」と、引受先が現れることを心待ちにしている。

 同社が運航していた観光遊覧船は4隻あったが、檜原湖(北塩原村)の2隻は地元の宿泊業者が引き受けることが決まった。小池弁護士によると、猪苗代湖の2隻は県内外から5、6件の相談が来ているが、コロナ禍がどこまで長引くかが見通せない中で引受先が決まらないという。

 維持費が尽きるのは10月ごろ。小池弁護士は「どんなに遅くとも、秋の観光シーズンまでには決めたい。観光客をいつになれば呼べるのか……。ワクチン接種が進むことも期待したい」と話している。

 問い合わせは、会津鶴城法律事務所(0242・28・5640)の小池弁護士へ。