2021年4月16日
朝日新聞デジタル
牛丼チェーン「吉野家」が、来店した客に「いらっしゃいませ」と声をかけるのをやめた。
社長みずからの発案で、1年半前から別のあいさつに切り替え始めたという。気づいた人は知っている「新しい声かけ」と、その狙いとは――。
「いらっしゃいませ。ご注文よろしいですか」。接客業の基本ともいえる言葉が、吉野家のマニュアルから消えたのは2019年9月。ちょうど、カフェのように使える新型店「クッキング&コンフォート」の出店を本格的に始めた時期だ。コンセント付きのテーブル席や、セルフ式のコーヒーマシンを置いたのが特徴で、女性客の開拓を狙って開発。今年3月末時点で、全国に136店舗を展開している。
ただ、新型店は、店内のカウンターで注文と支払いをすませる事前会計制。出来上がった料理も客が自らテーブルに運ぶため、通常店より接客時間が短い。少ない接客時間の中で、コミュニケーション量を増やすことが課題になっていた。
改訂したマニュアルで、「いらっしゃいませ」に変わって登場したのは、「おはようございます」や「こんにちは」といったあいさつだ。改訂を発案した吉野家ホールディングスの河村泰貴社長は、「『いらっしゃいませ』はお客さんが返事のしようがないが、『こんにちは』だと返事をしやすい。そこで会話が生まれることもある」と狙いを話す。
マニュアル改訂後、新型店以外も含めた全国の吉野家の店舗に、時間をかけて新しいあいさつを浸透させてきた。当初は習慣で「いらっしゃいませ」と言ってしまう店員もいたが、1年半たった今では、だいぶ定着してきたという。河村社長は「当社では100年以上続けてきたあいさつなので、従業員も慣れるまで時間がかかった。気づいた人は少ないかもしれないが、こういうところから変えている」と話す。(若井琢水)