2021年1月12日
東洋経済オンライン
「俺の家の話」(TBS系)主演の長瀬智也さん(右)や「レッドアイズ 監視捜査班」(日本テレビ系)主演の亀梨和也さん(中央)、「オー!マイ・ボス!恋は別冊で」(TBS系)の主人公の相手役、玉森裕太さん(左)など、この冬のドラマは各局がジャニーズタレントをいつもにも増して起用しています(東洋経済オンライン編集部撮影)
2020年のジャニーズ事務所は、まさに試練の一年でした。中居正広さんの退所にはじまり、手越祐也さんと山下智久さんは不祥事からの活動自粛を経ての退所。長瀬智也さんについては今年3月での退所が発表され、少年隊も東山紀之さんだけが事務所に残り、錦織一清さんと植草克秀さんは退所しました。さらに11月には「長男」と言われる近藤真彦さんに長年の不倫が発覚し、現在まで活動自粛が続いています。
ただ、最大の試練は、稼ぎ頭の嵐が12月いっぱいで活動休止に入ったことでしょう。コロナ禍の深刻化でジャニーズの生命線であるライブやグッズ収入も得られないなど、今なお逆風が続き、業界内外から「ジャニーズ事務所は危機的状況ではないか」という声も聞こえてきます。
今冬のドラマにはジャニーズタレントが目白押し
しかし、それでも沈み込むことなく、むしろたくましさを感じさせるのがジャニーズ事務所。今冬のドラマに、何と10人の主演俳優を含む多くの所属タレントを送り込んでいるのです。
「でっけぇ風呂場で待ってます」(日本テレビ系、月曜24時59分)
ダブル主演・北山宏光(Kis-My-Ft2)、佐藤勝利(Sexy Zone)
「ゲキカラドウ」(テレビ東京系、水曜24時12分)
主演・桐山照史(ジャニーズWEST)、中村嶺亜(7 MEN 侍)
「知ってるワイフ」(フジテレビ系、木曜22時)
主演・大倉忠義(関ジャニ∞)、末澤誠也(Aぇ!Group)
「夢中さ、きみに。」(MBS・TBS系、木曜24時59分)
主演・大西流星(なにわ男子)
「俺の家の話」(TBS系、金曜22時)
主演・長瀬智也(TOKIO)、道枝駿佑(なにわ男子)、羽村仁成(ジャニーズJr.)
「六畳間のピアノマン」(NHK、土曜21時)
第1話主演・加藤シゲアキ(NEWS)
「レッドアイズ 監視捜査班」(日本テレビ系、土曜22時)
主演・亀梨和也(KAT-TUN)、松村北斗(SixTONES)
「書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~」(テレビ朝日系、土曜23時30分)
主演・生田斗真、菊池風磨(Sexy Zone)
「カンパニー 逆転のスワン」(NHK BSプレミアム、日曜22時)
主演・井ノ原快彦(V6)、松尾龍(Jr.SP)
「青のSP―学校内警察・嶋田隆平―」(カンテレ・フジテレビ系、火曜21時)
鈴木悠仁(少年忍者)
「オー!マイ・ボス!恋は別冊で」(TBS系、火曜22時)
主人公の相手役に玉森裕太(Kis-My-Ft2)
また、これ以外でも、1月3日、4日に放送されたスペシャルドラマ「教場Ⅱ」(フジテレビ系)でも、主演を木村拓哉さんが務め、ジャニーズWESTの重岡大毅さんとSnow Manの目黒蓮さんが出演していました。
「嵐がいなくなったジャニーズ事務所はピンチではないか」という声が挙がっていましたが、ドラマだけでこれだけさまざまなグループのメンバーを送り込み、さらにバラエティーや情報番組への出演もあるわけですから、「驚異の営業力」と言っていいでしょう。ネット上には「ジャニーズ主演の多さはテレビ局の忖度ではないか」という声もありますが、決してそうとも言えず、あくまで戦略に基づくものなのです。
「確実に見てくれる」視聴者層を持つ強み
まず前提として踏まえておきたいのは、ジャニーズ事務所の所属タレントが熱の高いファン層を持ち、楽曲、ライブ、グッズなどの販売力があること。
テレビ局にとってジャニーズ事務所のタレントは、「確実に見てくれるであろう視聴者層がいる」「熱の高いファンがドラマのPRに貢献してくれる」「自局系列の動画配信サービスにおける有料会員数を増やす」という意味で、それなりの計算が立つ存在なのです。また、SMAPや嵐のような国民的グループに成長する可能性を秘めた若手も多いため、「先行投資しておこう」という思いもあるでしょう。
もう1つ考慮しなければいけないのが、昨年春に視聴率調査が大幅にリニューアルされたこと。これによって年齢性別ごとの視聴動向が調べられるようになり、各局は大手スポンサーの好む13歳から49歳に向けた番組作りに舵を切っています。その年齢層に多くのファンを持つジャニーズ事務所のタレントが、ドラマに限らずさまざまな番組のオファーを受けやすい状況になっていることは間違いありません。
しかし、ジャニーズ事務所のタレントにとっての逆風もあります。それは最近の視聴者が「人気や外見より演技力を求める傾向が強くなっている」こと。各局の制作サイドとしては、「アイドルではなく俳優を起用しろ」「ジャニーズの人気に頼るな」という批判を受けるリスクがあり、かつてよりもジャニーズ事務所のタレントを起用しにくくなっているのです。
そこで注目してほしいのは、今冬の出演ドラマにおける、テレビ局、曜日、時間帯の振り分け。
冒頭に挙げた出演ドラマの内訳は、日本テレビがプライム帯1作(土曜22時)と深夜帯1作(月曜24時59分)、テレビ朝日系が深夜帯1作(土曜23時30分)、TBSがプライム帯2作(火曜22時と金曜22時)、MBSが深夜帯1作(木曜24時59分)、テレビ東京系が深夜帯1作(水曜24時12分)、フジテレビがプライム帯1作(木曜22時)、カンテレがプライム帯1作(火曜21時)、NHKがプライム帯1作(土曜21時)、NHK BSプレミアムがプライム帯1作(日曜22時)。
ジャニーズ事務所が「さまざまなグループのメンバーを各局、各曜日、各時間帯に振り分けることで、大量出演を実現させている」ことがわかるのではないでしょうか。各局の制作サイドから見たら、決して大量起用しているわけではなく、「ウチは1作しか起用していない」という状態にすぎず、批判を受けるほどではありません。
このような取引先(テレビ局)の売場(曜日)や商品棚(時間帯)を埋め尽くすような営業戦略こそ、ジャニーズ事務所の営業力を示すものであり、売上を伸ばすためにゴリ押ししているわけではないのです。これは裏を返せば、ある取引先との契約が不調に終わったとしても経営が危うくなることのない、安定性のある営業戦略と言えるでしょう。
そして、もう1つ特筆すべきは、“出演ラッシュ”の状態を作るタイミングの巧みさ。
現在は「2021年がスタートしたばかりの冬」ですが、年初に出演ラッシュを作ることで、「今年も“ドラマのジャニーズ”という印象をつけやすい」「在宅率の高い冬は視聴率や視聴回数が上がりやすい」「嵐の活動休止によるパワーダウンの印象をやわらげられる」などのメリットを得られています。
なぜ「バーター」をやめないのか
ジャニーズ事務所の営業力を語るうえで、最後に挙げておきたいのは、「バーター」の抜け目なさ。「バーター」は、人気タレントを出演させるときに、別のタレントを抱き合わせで出演させることを指す業界用語であり、「ジャニーズ事務所はこれが最もうまい」と言われています。
ジャニーズ事務所にはCDデビュー済みのグループだけでなく、ジャニーズJr.と呼ばれる若手が豊富なため、小学生から中学生、高校生、大学生、社会人と各年代の役柄に合わせて推薦することが可能。しかも彼らは礼儀正しいうえに、レッスンや舞台経験を積んでいるため、制作サイドとしては、それなりの計算が立るうえに、「未来の主演俳優に先行投資する」という受け入れる理由があるのです。
一方、バーター出演するジャニーズ事務所のタレントたちは、演技力や知名度を上げるチャンスになるほか、貴重な現場経験を積むことが可能。今冬に主演を務めるジャニーズ事務所の先輩たちも、バーター出演を続けながら登り詰めていったことからも、その重要性がわかるでしょう。
ただ、このバーター出演に関しては、ネット上に批判が挙がりやすいのも事実。もちろん、やりすぎは批判されても仕方がありませんが、ジャニーズ事務所が行っているのは主演1人に対して1人程度のバーターにすぎません。もともと「抱き合わせ販売」という商習慣は、芸能界に限らず多くの業界で行われているものであり、芸能事務所もテレビ局も、批判の声が挙がったところで引くわけにはいかないのです。
嵐メンバーのソロ活躍は続く
嵐に話を戻すと、昨年の大みそかで活動休止に入りましたが、その翌日である1月1日に櫻井翔さんが「ザ!鉄腕!元日!DASH!!」(日本テレビ系)に出演し、3日にも二宮和也さんが「二宮ん家」(フジテレビ系)、相葉雅紀さんが「VS魂」(フジテレビ系)に出演しました。ハードスケジュールの是非こそありますが、彼らの姿を見た年明け早々から、ジャニーズ事務所の営業力やたくましさを感じさせられたのです。
嵐が偉大なグループであることに疑いの余地はありませんが、活動休止は必ずしもジャニーズ事務所の経営を危うくするものではないのでしょう。その営業力とたくましさは、他業界の企業にとっても参考になるものだけに、今後も冷静な視点からジャニーズ事務所に注目していきたいと思っています。