2020年12月19日
sorae.jp
早いもので2020年も12月の半ばを過ぎ、あと1週間ほどでクリスマスを迎えます。そんなタイミングに合わせて欧州宇宙機関(ESA)から、クリスマスを連想させる火星の景色が公開されています。
こちらはESAの火星探査機「マーズ・エクスプレス」によって火星の南極域で撮影された画像です。カプチーノの泡を思わせる明るい黄褐色の大地(氷と塵の堆積物)と、カカオパウダーのように暗い色合いの砂(輝石やかんらん石を含む)が広がる地域が入り組んだ景色。その様子は左を向いた「翼を広げた天使」と「ハートマーク」のようにも見え、クリスマスツリーの飾り付けに使われるオーナメントを思わせます。
天使の頭にあたる部分は直径およそ15kmのクレーターです。クレーターの底を取り囲む高さ約1kmの外輪山も「ちょっと想像力を働かせてみれば」(ドイツ航空宇宙センター)天使の輪のように見えなくもありません。どれも偶然の産物なのですが、クレーターから右側へと流れるように伸びていく暗い領域はたしかに翼を思わせる形をしていますし、その下に見えるハートマークも比較的バランスが取れた形をしています。
この「天使」と「ハートマーク」は火星の南緯78度に位置しています。6か月間続く冬のあいだに火星の南極域では極冠が南緯60度付近にまで広がるため、撮影された地域も冬は厚さ1~2mの二酸化炭素の氷に覆われてしまうといいます。いっぽう、火星の南半球はいま夏を迎えていて、極冠が縮小していることから天使とハートマークが地表に現れており、軌道上からその姿を観測できるようになっています。
天使の手にあたる部分や画像右側の大地に散在している窪みは、氷が昇華して気体になった際に生じた地形とみられています。また、天使の手よりも左側の大地に見える無数の引っかき傷のようなものは塵旋風が吹き荒れた跡とされています。一面が氷に覆われた冬の大地から天使とハートマークが現れるまでのダイナミックな景色の変化も、いつの日か見られるようになるのでしょうか。
冒頭の画像はマーズ・エクスプレスに搭載されている高解像度ステレオカメラ(HRSC)による2020年11月8日の観測データをもとに作成されたもので、2020年12月17日付で公開されています。
Image Credit: ESA/DLR/FU Berlin
Source: ESA / DLR
文/松村武宏