2021年8月14日
ギズモード・ジャパン
海の動物たちにも新型ウイルス感染拡大の危機…。
今回新たに、海洋哺乳類に深刻な感染症を引き起こす可能性のある新種のクジラモルビリウイルス株(※)が発見されました。このウイルスは、ハワイのサラワクイルカ1頭から検出されましたが、今後他の海域にも広まって、海洋哺乳類の間でパンデミックになる可能性が懸念されています。
※モルビリウイルスはRNAウイルスの1属で、モルビリウイルス属に属する多くのウイルスが、牛疫や麻疹、犬ジステンパーのような高い伝染力を有する疾病を引き起こします。クジラモルビリウィルスは、クジラの大量死の原因にもなるものです。
ハワイ大学マノア校 ハワイ海洋生物研究所のクリシ・ウェスト准研究員ら研究チームによる研究結果が、Scientific Reportsに公開されました。ハワイ大学のプレスリリースでは、「科学者がこれまで見つけていなかった、新しく非常に多様なモルビリウイルス株」と表現されています。
このウィルスは、2018年にマウイ島海岸沖で座礁したオスの幼年のサラワクイルカから発見、約2年間にわたって研究・調査が行なわれました。発見当時は体には外傷などなく、比較的綺麗な状態でしたが、臓器や細胞に何らかの病気の兆候が見られたとのことです。
現在、クジラモルビリウイルス株については、ほんの一握りしか知られておらず、最悪の場合、イルカとクジラ両方を含む世界中のクジラ目や、海洋哺乳動物の間で、大量死レベルの大流行を引き起こす可能性が心配されています。
サラワクイルカは非常に社交的でフレンドリーな性格で、他の種のイルカやクジラとも仲良くできるコミュ力高いイルカとして知られています。つまりそのコミュ力が発揮されることによって、感染力の高いウィルスを他の海域にも伝播させる可能性が懸念されているのです。
これは、ハワイの私たちにとっても重大で、ハワイには他にも20種ほどのイルカやクジラが生息しています。例えば絶滅危惧種のオキゴンドウ(シャチの一種)は、ハワイに167頭しか残っていないと推定されていますが、もしモルビリウイルスに感染してしまったら、個体数の回復に大きな障害となるばかりか、絶滅の危機に晒されてしまうでしょう。
と、ウェスト氏は述べています。
感染割合や発生範囲の特定を行うために、中部大西洋地域のイルカやクジラの免疫率を知るには、さらに研究が必要とのことですが、この病気を解明することは容易ではありません。ハワイの海で死亡した鯨のうち、回収できるのはわずか5%にも満たないそうです。研究チームは、遺体や病気と思われる海洋哺乳類の目撃情報があればNOAA Marine Wildlife Hotlineに報告するよう、一般市民に呼びかけています。
他にも新型モルビリウィルス株に関連する過去2つの事案として、ブラジル沖とオーストラリア西海岸のイルカの大量死があげられます。ブラジルの例では、2017年11月から12月にかけて、200頭以上のギアナコビトイルカがこのウィルスが原因で死亡したと考えられています。 NOAAは、ハワイの絶滅危惧種であるモンクアザラシに対して、集団免疫を獲得させるためのモルビリウィルスワクチン接種プログラムに取り組んでいます。
人間だけでなく海の生物達もウィルスと戦っていて、人間と同じようにワクチン接種を進めていると思うと仲間意識を感じてしまいます。