2020年2月2日
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【#父親のモヤモヤ】
パートナーとのセックスレスが続き、モヤモヤを抱いている人はいるのではないでしょうか。もちろん、幸せな夫婦関係を築くために、セックスは絶対に必要ではないかもしれません。子どもが生まれれば、関係性が変わるのも当然です。仕事が忙しくて、それどころではないかもしれません。体調の変化もあります。とはいえ、「本当はしたい」のにできずに悩んでしまっている人もいます。セックスレスの背景には、どのようなものがあるのでしょうか。レス解消をしたいと思っている人は、どのようなことに注意すればよいでしょうか。今回は、セックスレスに悩んでいる夫の視線から考えてみました。(朝日新聞記者・岩井建樹)
途方に暮れる男性
都内の40代の男性は、子どもが生まれて以来、5年間、妻とセックスレスです。子育てに奮闘する妻を見て、積極的に誘うことはできませんでした。「どう?」と声をかけてみたこともありますが、「突拍子もなく、いきなり過ぎる」「子育てに大変で、そんな気分になれない」と断られました。
今は誘うこともためらっています。日常会話もあるし、夫婦関係は悪くはないと言いますが、「男として見られていないのでは」と自信を失っています。でも、今さらどうすればいいのかわからず、「このまま、できないのか」と、途方に暮れています。
「この事例のように、出産をきっかけにレスに陥る夫婦は多いです」。そう話すのは、臨床心理士で、夫婦関係のカウンセリング経験も豊富な荒木乳根子さんです。「中高年のための性生活の知恵」を出版した「日本性科学会セクシュアリティ研究会」の代表も務めます。
セックスレスとは「特殊な事情がないにもかかわらず、カップルの合意した性行、およびセクシャル・コンタクトが1カ月以上ない場合」と、日本性科学会は定義します。
セックスレス夫婦が増加
セックスレス夫婦の増加は、各種調査でも示されています。一般社団法人「日本家族計画協会」の16年調査(16~49歳の男女対象)によると、レス夫婦の割合は47%。同様の調査を始めた04年から、最高値となりました。積極的になれない理由を聞いたところ、男性は「仕事で疲れている」(35%)、「家族のように思えるから」(12%)、「出産後、何となく」(12%)。女性は「面倒くさい」(22%)、「出産後、何となく」(20%)、「仕事で疲れている」(17%)でした。
荒木さんたちが40代から70代の男女を対象にした調査でも、配偶者がいる40代の男性のうち、セックスレスの割合は、2000年は24%でしたが、2012年は59%にまで増えました。50代は86%にものぼり、荒木さんは「30代は調査していないが、上昇傾向だろう」とみています。
「配偶者とセックスをしたいのにしていない人」も増えています。荒木さんの調査では、2000年では男女ともに「セックスをしたい」と思っている人の78%が性行為をしていましたが、2012年では、男性は44%に減少。女性も68%と落ち込んでいます。
背景に、女性に増す負担感?
では、なぜレス夫婦は増加しているのでしょうか。荒木さんは、仕事をもつ女性が増えたにもかかわらず、家事や子育ての分担が進んでいないことが要因の一つとみます。「女性は心身ともに疲れています。負担感が夫婦で同等にならない限り、そういった気になれない方もいるでしょう」
セックスに至るための心の準備でも、違いがあるかもしれません。荒木さんによると、けんかをした場合、男性は「セックスをすれば、仲直りができる」と考える傾向がある一方、女性は「こんな人とできない」と考えがち。女性は心がともなわないと性行為を受け入れることができないといいます。
性行為は「心からの同意」が大前提
では、レスを解消したいと思っているなら、どうすればいいのでしょうか。そもそも、互いの同意がなければ、夫婦であろうと行為におよぶことは許されません。
DVや性暴力などの問題に取り組むNPO法人レジリエンスの椹木(さわらぎ)京子さんは「レス解消を急ぐと、男性は性暴力の加害者になる恐れがあることを肝に銘じて下さい。性行為は、たとえ夫婦であろうと、お互いの『心からの同意』が必須です」と警鐘を鳴らします。
夫婦間の性暴力は表に出ることが少ないだけでなく、「男性側は暴力をふるっていることを、女性側も暴力を受けていることに気づいていない場合が多い」と椹木さんは指摘します。
背景として椹木さんが指摘するのが、明治時代に規定された「家制度」の影響です。妻は夫に従属するものだという考え方があり、その制度が廃止された今も、そういった価値観が引き継がれているといいます。その結果、「妻が性行為を受け入れるのは当然」「夫婦間では性暴力は成り立たない」という考え方を、男女ともに潜在的にもってしまっている、とのことです。
また、男女の収入格差をはじめ、女性の社会的な立場はまだまだ弱いため、積極的に「ノー」と意思表示ができず、仕方なく受け入れてしまう女性もいると言います。
夫婦関係見直すきっかけに
レスはあくまで結果です。原因や背景があります。産後のホルモンバランスの変化かもしれないし、女性ばかりに子育てや家事の負担が偏り、疲れ切っているかもしれません。日ごろの夫婦間の対話が不足し、信頼関係が薄まっていることもありえます。
大事なのは、互いに対等で尊重できる関係を作ること。思いやりを持って話し合い、相手を理解しようとする姿勢です。自身の普段の言動に問題があるのであれば、素直に反省する必要があります。そういう意味で、レスは「夫婦関係を見直すきっかけにもなりうる」と椹木さんは言います。
夫婦間で性について素直な気持ちを伝えあえる関係が理想です。椹木さんはまた、安心して「ノー」が言えて、それを受け入れる関係を築いてほしいといいます。拒絶にもいろいろな理由があり、「愛情があっても、性行為を受け入れらない場合もあります」と椹木さん。ひょっとしたら性的なことへのトラウマがあるかもしれません。「二人の話し合いで問題解決が難しい場合は、プロのカウンセラーの活用も考えて下さい」
日本性科学会セクシュアリティ研究会の荒木さんも「セックスは日常のコミュニケーションや信頼関係の延長です。そうしたつながりがないのに、いきなり『セックスさせて』では、独りよがりです」と言います。
こうした信頼関係があることが前提ですが、荒木さんは「目で触れ、言葉で触れ、肌で触れる」ことを勧めます。「まずパートナーの目を見て話す。にっこりと笑うなど、ノンバーバル(非言語情報)コミュニケーションを大切にする。そして『いつもありがとう』『嬉しいよ』『美味しいね』など思いやりの伝わる言葉かけでパートナーの心をほぐす。日本人はしない傾向がありますが、スキンシップも日ごろから大切できるといいですね」
子どもの前でも、「男」と「女」の愛情表現を
荒木さんはまた、日本人夫婦は子どもができると、「父親」と「母親」の関係となり、「男」と「女」であることを子どもの前で示さないという常識があり、これもセックスレスの原因の一つと考えます。「私は、この常識を望ましいとは思いません。夫婦がハグやキスといった豊かな愛情表現を子どもの前でする環境のほうが、子どもたちも幸せを感じやすいし、将来、愛情豊かな男女関係を築くベース作りにもなるのではないでしょうか」
そもそも、夫婦に性行為は必要なのでしょうか。「互いに望むセックスであれば、安心感が得られたり、愛情を確認できるでしょう」と荒木さん。もちろん、行為がなくても良好な関係性を維持することは可能で、荒木さんも「挿入にこだわる必要もない」と言います。
「セックスがなくても幸せという夫婦もいるでしょう。また、セックスレスに不安を感じつつ、今は互いに仕事や子育て、家事が忙しくてそれどころではないという夫婦もいると思います。そんな方々も日ごろのコミュニケーションを大切にしていれば、焦る必要はありません」
父親のモヤモヤ、お寄せください
仕事と家庭とのバランスに葛藤を抱え、子育ての主体と見られず疎外感を覚える――。共働き世帯が増え、家事や育児を分かち合うようになり、「父親」もまた、このようにモヤモヤすることがあります。
一方、「ワンオペ育児」に「上から目線」と、家事や育児の大部分を担い、パートナーとのやりとりに不快感を覚えるのは、多くの場合「母親」です。父親のモヤモヤにぴんとこず、いら立つ人もいるでしょう。「父親がモヤモヤ?」と。
父親のモヤモヤは、多くの母親がこれまで直面した困難の追体験かもしれません。あるいは、父親に特有の事情があるかもしれません。いずれにしても、モヤモヤの裏には、往々にして、性別役割や働き方などの問題がひそんでいます。
それらを語り、変えようとすることは、誰にとっても生きやすい社会づくりにつながるはずです。語ることに躊躇しながら、でも、#父親のモヤモヤについて考えていきたいと思います。
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記事に関する感想をお寄せください。「転勤」というキーワードでも、モヤモヤや体験を募ります。会社都合の転勤は、保育園の転園を迫られ、パートナーが退社を余儀なくされるなど、家庭に大きな影響を与えます。仕事と家庭とのバランスに葛藤するなか、みなさんはどう向き合っていますか?
いずれも連絡先を明記のうえ、メール(seikatsu@asahi.com)、ファクス(03・5540・7354)、または郵便(〒104・8011=住所不要)で、朝日新聞文化くらし報道部「父親のモヤモヤ」係へお寄せください。