二宮和也が『浅田家』で見せた風貌、キャラ、表現の“七変化”

2020年10月10日

NEWSポストセブン

 ジャニーズきっての演技派・二宮和也(37才)主演の映画『浅田家!』が10月2日封切られた。公開初日から3日間で20万人の観客を動員し、興行収入は2億8000万円を突破、堂々の初登場1位を獲得した。SNSや口コミサイトでは、「笑えて泣ける」、「最高の余韻」、「初めて2度目を観に行こうと思えた」などの言葉が並び、観客動員数、興行収入に比例した賞賛の声が上がっている。映画や演劇などに詳しいライターの折田侑駿さんが解説する。

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『浅田家!』と言えば、公開前から大きな注目を集めていた作品。なぜなら、『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年)で知られる “家族映画”の名匠・中野量太監督(47才)が手掛ける新たな家族映画だからだ。同作は中野監督の商業デビュー作。余命宣告をされてもたくましく生きる母とその家族の物語は大きな話題を呼び、数々の映画賞を受賞した。続く2本目となる『長いお別れ』(2019年)でも家族の話を描き、高い評価を得ている。そんな中野監督が、今回の最新作では実在する写真家・浅田政志(41才)の代表作『浅田家』と『アルバムのチカラ』を原案に、新たな家族像を描き出しているのだ。

 そんな中野監督作品だからこそ実現できたのだろう、豪華なキャスティングも話題となっていた。写真家・浅田政志を演じる主演の二宮和也はもちろんのこと、その兄役に妻夫木聡(39才)、母親役に風吹ジュン(68才)、父親役に平田満(66才)、さらには黒木華(30才)や菅田将暉(27才)といった、名実ともに主役級の演者たちが集まっている。中野監督の家族映画第3弾ともなれば、誰もが出演を望むのだろう。

 この座組を牽引する二宮和也は、昨年公開された『検察側の罪人』で、木村拓哉(47才)との白熱の演技バトルが話題となった。映画やドラマにひっぱりだこのジャニーズきっての演技巧者だ。その彼が中野監督とタッグを組むとあれば、注目度がぐんと上がるのも頷ける。

 本作では、そんな俳優・二宮の“七変化”を堪能できる。浅田政志という1人の男性の約20年間を演じているとあって、茶髪にタトゥーのパンキッシュな姿から、ロン毛に無精髭の姿まで披露。37才という実年齢に左右されない、各年齢における二宮の見た目のインパクトやキャラクターの変化が見どころだ。これを違和感なく体現するのは容易なことではないだろう。彼自身の持つ見た目の若さに加え、表現力が試される映画だったと思う。

 見た目以外にも、二宮が演技者として特に優れていると感じた瞬間があった。政志が26才で上京するシーンを挙げたい。上京するには少し遅めの親離れである。それまでは定職にも就かずフラフラしていることを兄になじられる政志だったが、政志の撮りたい写真のために、「消防士」や「レーサー」、「極道の妻」など、家族全員が全面的に協力してコスプレ写真を撮影する。その写真が世間の好評を博し上京に踏み切るのだ。

 この時、政志の中にあるのは決意と寂しさ。二宮は、その感情の揺れ動きを“目に涙を浮かべる”という表情だけで表現している。演技のアプローチとしては、感情を言葉にしてみたり、さめざめと泣いてみたり、あるいは大げさに涙を拭ってみせる方法もあるのではないかと思う。だが、これはまだ映画の序盤シーン。役の感情を大切にしながらも、映画全体のバランスも考えなければならないシーンでもあり、そこを配慮しての演技だったのではないだろうか。俳優としてのキャリアに裏打ちされた繊細な表現が見えた瞬間だった。

 二宮はこれまで、オーディションで役を勝ち取ったクリント・イーストウッド監督(90才)作の『硫黄島からの手紙』(2006年)や、派手なアクションに挑んだ『GANTZ』(2011年)、そして『検察側の罪人』と、戦争ものからアクション、サスペンスまでジャンルに囚われず幅広く演じてきた。今回の『浅田家!』では見た目やキャラクター、精神状態まで多くの“変化”を表現しており、キャリアの中で培ってきたものが結集した印象だ。

 共演者の妻夫木は二宮について、「二宮さんは常に自由に羽ばたいているような人で、一緒にいるとこちらまで感情が豊かになった」とその人柄を評している。巧みな演技だけでなく、そうした人柄が作品に与えた影響も大きいだろう。「嵐」の活動休止を目前に控える二宮だが、本作がさらなる役者道への歩みの布石となるのかもしれない。

【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。