2021年1月28日
朝日新聞デジタル
新型コロナウイルス禍で各地でイベントが中止される中、祭りや縁日で親しまれてきた「型抜き」が苦境に立たされている。
「国内唯一」とされる型抜きメーカー「ハシモト」(大阪市西成区)では売り上げが半減。イベント需要の回復も見通せず、社長は「このままでは型抜きの文化を守れない」と危機感を募らせる。
型抜きは、砂糖にでんぷん、ゼラチンなどを加えて作る板菓子に型押しされた花などの絵柄を画びょうの先などでくりぬく遊び。割らずに成功すると景品がもらえ、全国津々浦々の出店で親しまれてきた。
ハシモトの3代目社長、橋本健司さん(48)は「正確に把握するすべはないが、製造しているのは、国内では恐らくうちだけ」と話す。家族4人にパート従業員を加えた計9人で、ほぼ全てが手作業の工程を担う。薄くのばした生地に絵柄を刻む型押しの工程は高い技術が必要で、健司さんだけが担当する。
同社が型抜きに目を付けたのは1960年ごろ。紙芝居屋が子どもに売るアメを製造していた先々代が、東京で型抜きが流行しているのを知り「アメより売れるんちゃうか」と作り方の研究を始めたのがきっかけだという。紙芝居屋に型抜きを卸すと、飛ぶように売れ、同業者も増えた。
だが、テレビの普及とともに紙芝居屋は続々と廃業。売り先を失った型抜き製造業者も次々と撤退した。新たな市場を開拓しようと露天商に売り込んだところ人気が爆発。祭りの花形となり全国に広まった。
大学卒業後から会社を手伝い、2010年に後を継いだ橋本さん。2年後にはそれまで無味だった型抜きにラムネ味を付けた新商品を開発。翌年にはお土産用として通天閣(浪速区)や大阪城(中央区)など大阪の名所などをモチーフにした「なにわのカタヌキ」の販売を開始し、普及に努めてきた。「自分たちが作った型抜きが全国で楽しまれている。子どもたちの笑顔を糧に作り続けてきた」と話す。
■イベント関連の注文ゼロに
だが、昨年4月に緊急事態宣言が出てイベントの中止が相次ぐと注文は激減。社内では「春祭りはもう期待できん。夏祭りに賭けよう」と話し合っていたが、影響は長引き、余興として型抜きを置いてくれていた飲食店からも客足が遠のき、注文がなくなった。
販売の主軸を失う一方で、スーパーなどで販売される家庭用商品の製造で経営を支える。ステイホーム需要で、100円前後で購入できる1箱7枚入りの家庭用の売れ行きは好調だが、全体での売り上げは厳しい状況が続く。2回目の緊急事態宣言も出され、「イベント関連の注文はゼロ。今年もお祭りは厳しそう。家族の給料を減らせば続けていけるが、それにも限界がある」と話す。
プレーヤーとしての橋本さんは「その辺の子より下手。だけど作るのは僕にしかできひんことやから」。一心不乱に型抜きに挑み、失敗して泣き出す子どもを見ると、「そんなに型抜きを好きでいてくれるんやな」と胸が熱くなる。
家庭用の型抜きは「あくまでも練習用」と表現する橋本さん。「コロナが終息したら、縁日の出店や駄菓子屋で型抜きに挑戦してもらいたい。早く明るい話題が聞こえてくるとええけど」(河野光汰)