2021年09月30日
文春オンライン
「ハイドレンジアこぼれる……」。この夏を美しく彩り、多くの人達を胸キュンさせた曲、「夏のハイドレンジア」。中島健人・小芝風花W主演のドラマ「彼女はキレイだった」の主題歌だったのだが、私もこの歌とドラマが本当に好きだった。
ドラマが放送される火曜日は朝から冒頭の部分を口ずさみ、夜はビールを買って早めに待機。
いざドラマが始まったら、甘く切ないシーンに、抱いたクッションをかじりながら萌え、リビングを転げ回った。ドラマ終盤なんてもう息絶え絶えである。
なのにこれでもかと「夏のハイドレンジア」が絶妙のタイミングで流れ、煽ってくるからたまらない!
「火曜9時」が生きる目標になった
「夏のハイドレンジア」は歌唱Sexy Zone、作詞・作曲は秦基博。秦基博は「ひまわりの約束」といい、夏の花を使って、これでもかというほど私の心を揺さぶってくる。
そしてこのドラマ、意外なことに恋愛モノなど興味を示さない母までハマった。
「中島健人って嫌味のないキレイな人ね。ドラマも歌もキレイねえ。来週も楽しみ」
と、「キレイ」を連呼し、火曜夜9時を楽しみにし始めたのである。
すごく助かった。コロナ禍の第5波真っただ中の「来週の楽しみ」は、おおげさでなく生きる目標の一つになったのだ。不安で沈んでいた彼女の顔に活気が戻り、エンタメのありがたさを痛感した。本当にセクシーサンキュー!
コロナ禍を駆け抜けた“祈り”「RUN」
実は去年も、私はSexy Zoneにセクシーレスキューされていた。18枚目のシングル「RUN」である。
「止まらないで 止まらないでよ」「途切れないで 途切れないでよ このまま夜が明けてゆくまで」。土曜ドラマ『未満警察 ミッドナイトランナー』の主題歌だったのだが、衝撃だった。歌から凄まじい「願い」を感じたのである。
叫びながら、両手を重ね祈っているような切実さ。ドラマの放送開始が夏だったので、多分第2波で、不安で沈みまくっていた頃だ。そんな心を奮い立たせてくれた、恩人ならぬ恩曲である。
そして「RUN」の次のシングル「NOT FOUND」! これもまた一歩進むための「自分への問いかけ」のような曲だった。
怖がらないで、もがいてもがいて。手足をバタバタさせるような感覚のこの曲で、私はSexy Zoneに「歌い手」として俄然興味を持つようになったのである。
そして今さらながら動画を漁り出し、「カラクリだらけのテンダネス」や「麒麟の子」という名曲を知ることができた。私は本当にこの後追いパターンが多い。少年隊や今井翼もそうであるが、本当にアーティストの素晴らしさに気付くのが遅い!
「RIDE ON TIME」で語ったエリートの焦り
もっと彼らを知りたい。検索しているうちに、Amazonプライムビデオで、ジャニーズグループの舞台裏に密着したドキュメンタリー「RIDE ON TIME」を発見。制作と放送はフジテレビで、それが現在Amazonプライムで配信されているのだそうだ。Sexy Zoneの密着回を、遅まきながら観ることにした。
ここからひしひしと伝わってきたのは、エリート集団ならではの苦悩だ。デビューが早過ぎたゆえの準備期間のなさ。デビューの注目度をキープする難しさ。
彼らの口から何度も出てきた言葉は「焦る」。そして全員、不器用なほど真っすぐに、その焦りと向き合う人だった。
最年少、マリウス葉はデビュー当時11歳。小学校5年生! ち、チビッ子じゃないか。それがセクシーと名のつくグループの一員になり、横浜アリーナや紅白の舞台に立っていたわけである。
松島聡は当時13歳、彼も入所間もなくのデビューだったという。長年頑張っているのに報われない、というジレンマもつらいが、「えっと今、自分の身に何が起こってんの?」と分からないまま、大舞台に立つ。そして咀嚼する暇がないまま時が過ぎる。こちらもつらい!
だからこそ、約1年半の休養期間を経て復帰した松島聡の笑顔は、大きな意味を持つ。アイドルの「休養期間」を前向きに感じることができる眩しさである。
現在マリウス葉が休養しているが、ゆっくり休んで、松島と同じような笑顔で帰ってきてほしい、と思う。
松島は「RIDE ON TIME」で「アイドルとして音楽の力だったり言葉の力だったり元気を届けていくのは宿命とも思うので」と語り、現在その通り、活動の幅を広げている。
繰り返しになるが、この人の笑顔は本当にすごい。様々な苦しい体験を経て得たものだろうが、ちょっと超越したパワーを感じる。私は見ていて目尻と口角がくっつきそうになり、「ありがとう」とスマホに向かって無意識に呟いていた。ある意味非常に危険な笑顔だ。
「頼む、どうか、このまま皆の気持ちが…」
「RIDE ON TIME」では、10年後のグループについて聞かれ、「無理やり5人でいるっていうのも違うと思いますし。だから祈るしかないんですよ。頼む、どうか、このまま皆の気持ちが20周年にって」と噛みしめるように呟く菊池風磨も印象的だった。若手メンバーの苦悩を見たからこその言葉だろう。菊池は若いのに「話の分かるおやっさん」的包容力がある。
最近の彼は、服が溶けるドッキリが定番化。アイドルらしからぬサプライズを受けるほど性格やスタイルの良さが前に出る、という摩訶不思議なスパイラルに入っている。
ある回では、自分が大変な目に遭っているのに「ヒマじゃないんだぞ松島も!」と、同行した松島を思いやる彼にときめいた。ハイドレンジアこぼれる……(今やキュンとしたら同時に心で鳴る……)。
そして「セクシー」の具現者としてグループを牽引してきた中島健人。
どれだけ美しい仕草でポーズを決め、投げキッスまでしても、いやらしさが皆無。「プライベートでもやってそう」という慣れ感や生々しさもゼロ。乙女の脳内のみに存在する理想のセクシーをしてくれる。
ドS王子キャラに見せておいて、実はファンの愛を守る使命に燃える騎士キャラ。彼は多分どれだけブレイクしても「まだまだ、ハニーたちを笑顔にできるセクシーがあるはず」とロダンの考える人ポーズで悩み続ける気がする。そんな妄想をさせてくれる人だ。
佐藤勝利がいる限りSexy Zoneはブレない
なによりSexy Zoneには「不変」の佐藤勝利がいる。良い意味で変わらない、裏切らない。ジャニーズ正統派の基本美が集約されたような存在だ。
彼が一番すごいのは「浮かれない」。グループを俯瞰で見ながら穏やかに「このグループが好き」と言う。この人がいる限りSexy Zoneはブレないだろう、と思えるのだ。
そんな5人が作り出すのは、空手の型や歌舞伎の見得のような、「決める」美しさ。そして、その芯にある「祈り」。祈りがどうすれば届くか? 「RUN」から興味を持った新参の目線ではあるが、彼らはそれを常に模索し、自分の役割を確認しているように見えた。とても真面目に、そしてストイックに。
9月29日で結成10周年、11月16日でレコードデビュー10周年となるSexy Zone。
茨の道も笑顔で乗り越えてきた彼らは、すっかりマイルドからワイルドに成長。今年あたりから個々の活動も増え、強い追い風を感じる。マリウスの笑顔の合流を待ち、これまでの痛みを強さに変えた5人が、想いを紡いでいく姿を見たい。
もがいてもがいてもがき続けた彼らの、「時代」への宣戦布告はこれからだ。