2020年6月28日
朝日新聞デジタル
松山市の中心部、銀天街の西側入り口。
演歌歌手のポスターが目を引く老舗レコード店「津田演奏堂」が30日、111年の歴史に幕を下ろす。「親が残してくれた店。私の代で閉店することになり、申し訳ない」と4代目の津田安俊さん(78)。後継者がおらず、数年間悩んだ末に決めたという。
創業は1908(明治41)年。津田さんの祖父が時計の修理・販売をする店を開いたのが始まり。その後、蓄音機を扱い、大正時代にレコードの販売を始めた。戦後まもなく、近くから今の場所に店を移した。
昭和の時代は繁盛した。「黒ネコのタンゴ」や「およげ!たいやきくん」が流行したころは、レコードを袋に詰めておかないと間に合わないほど客が押し寄せた。昭和の終わりごろは「土日はお客さんが通路をカニ歩きしていた」と、津田さんは振り返る。
平成に入り、アイドルのCDも扱うようになったが、主力は演歌だった。30坪ほどの店内には、演歌歌手のポスターや立て看板を何枚も飾った。
今月末の閉店に向け、商品の多くは処分し、棚のほとんどは空になった。市内に住む60代の女性は町内の人たちとカラオケを楽しむため、月に1回は来店し、歌詞付きの演歌のカラオケDVDを買い求めていた。「今度からどこに行けばいいん? さみしくなるね」
1年に数枚しか売れなくても必要とする人がいる商品を置いてきた、と津田さんは言う。それだけに「お客さんには申し訳ない。今まで続けてこられたのは、お客さんのおかげです」。
レコードを扱う店は少なくなっている。津田さんによると、日本レコード商業組合に加盟する愛媛県内の店は、かつて20軒ほどあった。津田演奏堂が閉店すると、残りは1軒になるという。(寺田実穂子)