2021年5月1日
オトナンサー
気温が上がり、過ごしやすい季節になりました。この時期、家庭でついやってしまうのが、作った料理の「常温放置」です。みそ汁やカレーなどを作った際、冬場は鍋に入れたままコンロ台に置いておき、翌朝に温めて食べるという人は多いと思います。しかし、暖かくなるにつれ、常温の環境に放置した料理は傷むのが早くなるため、冬場の習慣でつい置きっ放しにしてしまい、料理を腐らせてしまった経験がある人も多いようです。
ネット上では「よくやらかします」「春先によくみそ汁をだめにしてしまう」という共感の声をはじめ、「うっかり、朝まで常温放置してしまったときはどうすればいい?」「傷んでいるのかどうかの判断が難しい」「傷みにくい具材はある?」などの疑問も上がっています。
作った料理を「常温で放置する」ことのリスクについて、料理研究家で管理栄養士の関口絢子さんに聞きました。
再加熱しても生き残る菌に要注意
Q.そもそも、「(作った料理が)腐る」というのはどういう状態のことでしょうか。
関口さん「『腐る』とは、細菌やカビなどの微生物が食べ物の中で増殖し、食べ物の成分が分解されて変質し、食べられない状態になることです」
Q.家庭で作った料理を常温の環境に置いておくと、腐ったり、傷んだりすることがあるのは事実でしょうか。
関口さん「事実です。微生物はありとあらゆる所に存在します。わずかな隙に侵入した微生物は、繁殖しやすい温度帯になると急速に増殖し始めます。微生物の種類によって違いはありますが、多くは30~37度の温度帯を好むため、常温が20度を超える春先から、冷房をかけても26、27度となる夏場に加え、秋口も料理した食べ物が冷めていく段階で増殖に適した温度帯が長く続き、傷みやすくなります」
Q.冬場は、作った料理をフライパンや鍋ごとコンロに置きっぱなしにするという人も多いようですが、気温の低い冬場であれば問題ないのでしょうか。
関口さん「基本的に、冬場でも常温放置はおすすめできません。料理が冷めてきた温度帯で微生物が繁殖する可能性が懸念されるからです。例えば、カレーなどの煮込み料理は多めに作ることが多く、冷めにくいため、そのまま翌朝まで放置される料理の代表格です。冷ましてから冷蔵庫に入れるつもりで一晩置いている間に、微生物にとって好条件の状態となり、繁殖する場合があります。
また、熱に強いウェルシュ菌が繁殖した食材を使った料理の場合、加熱しても生き残った菌が放置中に増殖する可能性があります。セレウス菌やボツリヌス菌なども加熱しても生き残るため、一度繁殖してしまうと厄介です。また、繁殖によって作り出された毒素が加熱しても無毒化せず、食中毒を起こすこともあります」
Q.うっかり常温放置してしまう料理の代表格「みそ汁」「カレー」について、傷んだ状態を見極めるためのポイントを教えてください。
関口さん「常温放置した場合の消費期限はあくまで目安であり、条件や環境によって異なります。みそ汁もカレーも『様子が変だな』と感じたら、においをかいだり、少量だけ味見をしたりして、違和感があれば食べるのをやめておくのが賢明です」
【みそ汁】
みそ汁は腐ると酸っぱくなったり、納豆のようなにおいが出たりします。どろっとしたとろみが現れたり、白い膜が張っていたりすると雑菌やカビの繁殖が顕著なため、食べるのはやめましょう。
傷みやすい具材としてはモヤシやナメコ、カボチャ、アサリなどの魚介類、ホウレンソウ、豆腐などが挙げられます。一方、比較的傷みにくい具材はダイコン、ニンジン、ゴボウ、エノキなどです。常温放置した場合の消費期限の目安は冬場なら一晩、夏場なら2~3時間です。
【カレー】
カレーは腐ると見た目が水っぽくなり、酸っぱいような刺激臭や生臭み、納豆臭、アルコールのようなにおいが出てきます。糸を引いたり、白い点が現れたりしたら、雑菌やカビの繁殖が懸念されるため、食べるのをやめるべきです。
一般的なカレーの具材の中で、傷みやすいものはジャガイモ、水分の多い野菜(オクラ、インゲンなど)です。一方、肉類やキノコ類などは比較的傷みにくい具材といえます。常温放置した場合、冬場なら12時間、夏場なら5時間程度が消費期限の目安と考えましょう。
Q.ちなみに「冷蔵庫に入れると固くなるから」などの理由で、白ご飯を常温で保存したいと考える人もいるようですが、これについてはどうでしょうか。
関口さん「繰り返しになりますが、やはり、常温はおすすめできません。『朝に炊き、夜に食べる』『夜に炊いて、朝に食べる』程度の短時間なら常温でも可能ですが、基本的には炊いてから半日程度が望ましいです。冬場であれば1日程度も可能です。傷んだご飯はまず、においがします。蒸れた雑巾のようなにおいや酸っぱい感じのにおいが出て、見た目も黄色っぽく変色してきます。さらに、粘りが出たら傷んでいる証拠です」
Q.その他、「冬の間、つい常温放置してしまうけど、春先からは注意した方がよい」料理や食品はありますか。
関口さん「急須に入れっ放しにしたお茶や、茶葉ごとボトルに入れたお茶も雑菌が繁殖しやすいので注意です。その他、半熟卵やポテトサラダ、マヨネーズを使った料理、チーズや生クリームなど乳製品を使ったもの、チャーハンなどのいろんな具材を使ったご飯もの、生野菜を多く使ったサンドイッチなどは要注意です」
Q.できるだけ風味を保ったまま、作った料理を安全に保存するためのポイントとは。
関口さん「なるべく安全に保存期間を延ばすのであれば、清潔な保存容器に移して冷蔵保存するのが望ましいです。料理によっても保存期間は変わりますが、カレーなどの煮込み料理であれば、1週間程度は保存できるようです。
保存性を高めるために大切なのは、雑菌などの微生物が侵入する機会を減らし、増殖する環境をつくらないことです。容器から取り出す際は未使用の清潔なスプーンを使い、しっかり再加熱してから食べましょう。保存容器ごと温め直し、食べ残しを冷蔵庫へ戻すのはNGです」