本場イタリアは使わないのに…日本はパスタに「スプーン」、なぜ使う??

2021年2月21日

オトナンサー

 日本のレストランやカフェでパスタ料理を注文すると、ほとんどの場合、フォークとともに「スプーン」が配膳されます。そして、スプーンの上でパスタをフォークでクルクルと巻き、口に運ぶというのが一般的だと思っている人も多いのではないでしょうか。一方で、テレビの旅番組などで、イタリアの外食や食卓の様子を見ると、パスタをフォークのみで食べ、スプーンを使っている光景は見たことがありません。

 日本ではなぜ、パスタを食べるときにスプーンを使うのでしょうか。料理研究家で管理栄養士の関口絢子さんに聞きました。

「イタ飯ブーム」「たらこスパゲティ」が関係?

Q.イタリアではパスタを食べるとき、一般的にスプーンを使わないのでしょうか。使うのは幼児がパスタを食べるときだけだそうですが、それは本当でしょうか。

関口さん「本当です。イタリアでは、フォークでパスタをクルクルと巻き、口に運んで食べる、つまり、フォークだけでパスタを食べるのが一般的です。まだフォークの扱いに慣れておらず、パスタをうまく巻き取れない幼児期の子どもが補助的にスプーンを使います」

Q.イタリアでは、大人はスプーンを使わないのに、日本ではなぜ、大人もパスタを食べるときに使うのでしょうか。

関口さん「スプーンの上でパスタをフォークに巻くと、ちょうどよい麺量の調整がしやすく、口に入れやすい量に巻き取りやすくなるからです。日本人にとって、パスタは洋食であり、フォークとスプーンを使うのは、洋食を食べるときにナイフとフォークを持つ感覚と同じなのだと思います。麺料理は日本にもたくさんありますが、本格的なパスタ料理としていただく場合、少しでも上品に美しく食べたいという感覚が、スプーンを添えて巻き取るしぐさになったようです。

また、スプーンのカーブがちょうどよく、巻き終わりの麺をひとまとまりにしてくれるので口に入れやすく、口の周りを汚す心配が減って安心だという女性心理があり、特に女性がスプーンを使うことが多いと思います」

Q.いつから、どのような経緯でスプーンが使われるようになったのでしょうか。

関口さん「諸説ありますが、パスタをフォークとスプーンで食べるようになったのは1990年代の『イタ飯ブーム』が影響していると思われます。東京の六本木や青山などの“おしゃれスポット”に格式ばらないイタリアンの店が次々とオープンし、盛んに雑誌やテレビが取り上げるようになりました。デートスポットとして注目され、こぞって若い男女が押し寄せたのです。

当時の『イタ飯』という言葉には、とても粋な意味合いがありました。肩肘張らずに気の利いた食事に誘う言葉であり、マナーや厳格な決まりにとらわれない雰囲気で、おしゃれに食事が楽しめることも魅力となり、スプーンを使ってパスタを食べる女性の姿が美しい所作に映っていたのです。

むしろ、当時は『パスタはスプーンを使うとおしゃれに見える』とし、あえて、スプーンを使う食べ方を身に付けたものです。店側もデートのときにパスタが食べにくい料理とならないよう、女性にはスプーンを供する配慮をしていました。これらは日本独自の風潮で、バブル期の日本が生み出した一つの文化ではないかと思います。

別の説もあります。スプーンが、たらこスパゲティを作るための調理道具だったという説です。東京・渋谷などにあるスパゲティ専門店『壁の穴』の『たらこスパゲッティ』は器にほぐしたたらことバターなどをあらかじめ入れておき、そこに、ゆでたスパゲッティを投入し、スプーンとフォークであえて作るものでした。そのスプーンとフォークをそのまま、皿の縁に添えたため、そのスタイルを他の店でもまねをして、本来、パスタを食べるのに必要ではないスプーンが広まっていったというものです」

Q.「スープパスタ」と呼ばれる料理の場合は、必要なものとしてスプーンが用意されるのでしょうか。

関口さん「スープパスタの場合は必ず、スプーンが用意されています。パスタを食べ終えるとスープが皿に残りますが、余ったスープは飲むことができます。その場合、お皿を口に運ぶのはNGです。そのため、スプーンが用意されます。パンにスープを染み込ませて食べてもよいです」

Q.時々、ネットで「パスタにスプーンは必要か、不要か」が議論になりますが、こうした白黒をはっきりとさせようとする議論は不毛なのでしょうか。お考えをお聞かせください。

関口さん「不毛だと思います。なぜなら、テーブルマナーは一つの目安に過ぎません。料理自体が国の壁を越え、さまざまな融合が進んでいます。フレンチでも和の技法や食材を用い、箸で供されることもあります。お酒をワイングラスで出したり、スープを日本の茶わんや塗り物で出したりすることもあり、その場合はスプーンを使いません。

料理や食事には『楽しむ』という目的があり、新しい食べ方や使い方、調理法を生み出して進化していくものです。伝統的な食べ方にばかりこだわるのは無意味ではないでしょうか。スプーンやフォークなどの道具は食べやすくするためであり、イタリアでは、昔はパスタを手づかみで食べていたそうです。少なくとも日本にいるときは、日本人の感覚の中で、周囲に不快感を与えない食べ方を心掛けたらよいのではないでしょうか」

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