滝沢歌舞伎「ZERO」が大ヒット コロナ禍を逆手に取った演出の妙

2021年1月5日

日刊ゲンダイDIGITAL

 2020年12月4日より公開されている『滝沢歌舞伎 ZERO 2020 The Movie』が、公開3週間で観客動員50万人、興行収入15億円を突破した(12月24日時点)。監督は、ジャニーズ事務所の滝沢秀明副社長(38)。主演を務めるのは、昨年1月にデビューし、1stシングル、2ndシングルともに、ミリオン突破で話題となったSnow Manである。10月、11月に、新橋演舞場、南座、御園座で特別上映され、全62回の鑑賞チケットは即日全館全回満席の完売となっていた。

「滝沢歌舞伎」はその名の通り、元は滝沢秀明氏が主演を務めた時代劇LIVEミュージカルで、作・構成・総合演出はジャニー喜多川氏。18年の滝沢氏の芸能界引退に伴い、8年連続でシリーズに出演してきたSnow Manのメンバーがメーンキャストを継いだ。

 今作は、新型コロナウイルスの影響のため中止になってしまった舞台を届けるために急遽、映画化が決定。舞台と映像を融合させた「新時代の舞台・映画のエンターテイメント」として、企画から5カ月弱で上映にこぎつけた。

■映像化で腹筋太鼓の動きがより鮮明に

 限られた時間の中で、殺陣、歌舞伎、変面、日本舞踊、バレエ、アーティスティックスイミングやバトンなど、さまざまな技法と表現方法を融合させたステージングが怒涛のごとく繰り広げられていた。

 現代の日本でできる限りのエンターテイメントの追求が詰まっており、舞台でもあり、映画でもあり、ライブでもあり、でもそのどれでもない「新時代エンターテインメント」だと強く感じさせる。

 また、滝沢歌舞伎の名物ともいえる「腹筋太鼓」。腰から上半身だけを起こす“腹筋運動状態”で延々と太鼓を打ち鳴らす演目だが、肉体と精神を追い込みながら鬼気迫るパフォーマンスには「男の生き様」のようなものを感じて、息をするのを忘れるほどだった。

 映像によって、細やかな息遣いや、筋肉の動きなどがよりダイレクトに目や耳に飛び込んでくる。それにより、アトラクションを体感しているような気分も味わうことができた。

 またライブのようなシーンや、笑い溢れる時代劇のシーンもあり、139分の上映時間の中でいろんな「娯楽」を楽しむことができた。

■逆境を演出に変えたエンタメ力

 先日、コロナ禍の影響で初の紅白出場を断念したSnow Man。1stライブもコロナで中止となるなど、記念すべきデビュー年は、コロナの影がついて回る1年となってしまった。

 しかし、そんな逆境すら演出にできる「底力」を持ったグループなのだろうと、今作を見ているうちに思えてきた。

 プロフェッショナルな技術を求められる古典芸能や殺陣などを、どのメンバーも「表現する」というところまで落とし込み、魅せる。これらをここまで完成させ上げること自体、彼らが常に逆境と向き合ってきた証拠だろう。 今作は、コロナがなければ実現されなかったコンテンツだ。逆境や困難は、ストーリーを引き立てる良きスパイスとなる。彼らは決して気の毒ではない。この逆境を演出に昇華させ、より素晴らしいエンターテイメントを提供してくれるに違いないと思わせてくれたと同時に、日本のエンターテイメントの持つ力を実感させる、まさに「新時代のエンターテイメントの幕開け」であった。