2020年10月26日
週刊女性PRIME
子どもが同級生にいじめられ、学校には取り合ってもらえなかったどころか、PTAから「転校したら」と促されてしまったーー。PTAはなぜ学校側をかばい、いじめられた子どもを学校から排除するような働きかけをしてしまったのか? いま、学校で“本当に起きていること”。ノンフィクションライター・大塚玲子さんがお伝えします。
子どもが同級生にいじめられたが、学校には取り合ってもらえず、しまいにはPTAから「転校したら」と促された――。先日、こんなショックなツイートが話題になりました。
PTAというのはどちらかというと、「学校と保護者の間をとりもつ団体」というイメージの人が多いでしょう。それがなぜ、いじめられた子どもを学校から排除するような働きかけをしてしまったのか?
何が起きたのか、ツイートをした女性・Rさんに、経緯を聞かせてもらいました。
校長は「いじめではない」
保護者からは「迷惑」と言われ
Rさんの娘、A子さんがいじめられるようになったのは、いまから約4年前、小学校に入って間もないころでした。低学年のころは、持ち物をゴミ箱に捨てられたり、上履きを隠されたり。3年生になると、グループ内での無視や仲間外れも起き、靴の中に石や小枝を入れられたこともありました。
Rさんは学校へ相談に行きましたが、校長は取り合ってくれません。暴力があったわけではないし、お金を盗られたわけでもないから「いじめ」ではない、というのです。A子さんは発達障害があり、特別支援級と普通級を行き来していたのですが、「普通級でいじめが起きるのは、発達障害があるA子さんが悪い」と、この校長は考えていたようです。
7年前に公布された『いじめ防止対策推進法』では、「本人がいじめと感じたら、いじめである」と定義されているのですが、この校長には、法律も関係ありませんでした。
娘さんは4年生になったころから、学校に行けなくなってしまったそう。
RさんがPTA会長や役員さんたちから転校を促されたのは、A子さんが不登校になって半年ほど経ったときでした。
「最初はLINEで、クラス役員のお母さんとかから『学校にあれこれ言っているのが迷惑だから、ほかの生徒のことも考えてほしい。不登校なら、ほかの学校に行ったら』と言われたんです。
その後、そのお母さんやPTA本部役員さんたちから呼ばれて話を聞きにいったら、グルッと取り囲まれて、会長さんから『あの校長は変わらないから、この学校にいてもつらい思いをするだけ。転校したほうがいい』と言われて。親切な言い方ですが、私たちを追い出そうという話だったのでショックでした」
転校は、Rさん自身も考えてはいたことでした。ですが、転校した先の学校で同じことが起きないという保証はありません。万一また転校先でもいじめがあれば、A子さんはより深く傷ついてしまいますし、A子さん本人も「転校したくない」と言っていたので、とどまっていたのです。
悩んだ末、結局、今年の春、娘さんが5年生に進級するときに転校したところ、新しい学校はいじめもなく「結果オーライだった」ということですが、それにしても「なぜ、被害者側が転校しなければいけなかったのか」という理不尽な思いは今もある、とRさんは話します。
一般的に、いじめのように事実関係の証明が困難な事柄について、第三者が介入するのは非常に難しいものです。ですから本来ならPTAは、学校にも保護者にも中立の立場で、事実関係を明らかにするべく協力するか、もしくは何もしない方がマシだったと思います。
しかし実際には、Rさんのケースのように学校側についてしまうPTAが珍しくありません。学校の主張と、ある保護者の主張が対立するとき、PTAが学校の説明だけを聞き鵜呑みにし、保護者(PTA会員であっても)を糾弾、排斥してしまうケースは、ときどき聞きます。
子どもが「指導死」
待ち受けていたバッシング
たとえば「指導死」でも、同様のことが起きています。「指導死」というのは、学校の先生の過度な「生徒指導」を機に、生徒が命を絶ってしまうものですが、なかにはこんな事例もありました。
「指導死」親の会・代表世話人である大貫隆志さんの次男は、中学生のとき、先生の厳しい「生徒指導」を受けた直後に命を絶ちました。当然ながら大貫さんは、学校で何があったのか事実関係を知りたいと思い、学校に働きかけます。しかし学校は、これもよくあることですが事実を隠蔽し、事実を明らかにしようとはしませんでした。
その後、事件がマスコミに取り上げられることが増えていたのですが、それが学校にとってはプレシャーだったのでしょう。PTAはそんな学校の擁護にまわり、PTA合同委員会の場で大貫さんたちを激しくバッシングしたのでした(大貫隆志編著『追い詰められ、死を選んだ七人の子どもたち。「指導死」』より)。
これはあまりにも、学校にとって都合がよすぎる状況でしょう。PTA役員さんたちは無意識のうちに、権力をもつ学校側についてしまうことがあるのですが、これでは学校が間違った判断をくだしたとき何の歯止めにもならないどころか、間違いを後押ししてしまいます。
前出のRさんは、こんなふうに振り返ります。
「PTAって、何のためにあるのかな? と、このときすごく思いました。会費を勝手に集められて、お手伝いの協力もして、なのに困ったときには助けてくれない。PTAは学校を敵にしたくないので、学校の対応が正しかろうが間違っていようが関係なく、学校と意見を合わせてしまうんです」
なお、筆者の友人はPTA役員をやっているとき、Rさんとほぼ同じ状況の保護者から相談を受け、何度も話を聞き、転校しないで済むようにその保護者を支えていました。彼女は別に、PTA役員だからそれをしていたわけではないのですが、たまたまそんなことをできる保護者がPTA役員のなかにいたことは、とても幸いだったと思います。
PTA役員をする人は、学校がもつ権力というものに、意識的であってほしいものです。
大塚玲子(おおつか・れいこ)
「いろんな家族の形」や「PTA」などの保護者組織を多く取材・執筆。出版社、編集プロダクションを経て、現在はノンフィクションライターとして活動。そのほか、講演、TV・ラジオ等メディア出演も。多様な家族の形を見つめる著書『ルポ 定形外家族 わたしの家は「ふつう」じゃない』(SB新書)、『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』(ともに太郎次郎社エディタス)など多数出版。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。