大ヒット「鬼滅の刃」アメリカの映画館も救えるか

2020年10月20日

日刊スポーツ

新型コロナウイルス感染拡大の影響でハリウッド映画のお膝元アメリカでは映画館が瀕死の状況にある中、対岸の日本ではアニメ映画「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」が空前の大ヒットになっていることが話題になっています。

3月中旬のロックダウン以降、閉鎖されていた映画館は徐々に営業を再開しており、現在は全米の7割程度の劇場が開いてはいますが、ロサンゼルスやニューヨークなど大都市では現在も閉鎖されたままで、当然ながら興行が期待できない状況下では話題の新作映画の公開もほとんどありません。この秋も「ブラック・ウィドウ」や「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」など期待された大作が来年以降に延期され、ピクサーのアニメ「ソウルフル・ワールド」もストリーミング配信に移行することが決まり、目玉となる作品がないままホリデーシーズンを迎えてしまいそうです。

映画館はオープンしているもののそこで上映できる新作映画がないのは劇場主にとっては死活問題で、全米最大手のAMCシアターズは、このままでは年内にも現金が枯渇して破産の危機に直面するといわれています。当然ながらそんな現状のハリウッドにおいて、コロナ禍に話題作が劇場で封切られるだけでも大ニュースなのに、大勢の観客が劇場に足を運び、公開初日だけで興行収入10億円を突破したことはもはや驚き以外の何ものでもありません。

アニメ化もされている「鬼滅の刃」は、「Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba」というタイトルで英語版も出版されてヒットしており、昨年10月からは英語吹き替え版がカートゥーン・ネットワークで全米放送されています。ニューズウィーク誌は、16日に全米公開されたリアム・ニーソン主演の最新作「オネスト・シーフ」の公開週末3日間の興行収入が370万ドルだったことを引き合いに、日本では「鬼滅の刃」が3日間で「アナと雪の女王2」(2019年)の興行を上回る4400万ドル超えの大ヒットとなっていることを紹介。9月3日に全米で封切られたクリストファー・ノーラン監督の話題作「TENET テネット」でさえ公開1か月半でようやく累計5060万ドルで、パンデミック以降初のヒット作となっている中、驚異的な数字であることを伝えています。また、ヴァラエティ誌も日本のアニメ「鬼滅の刃」が今週末に世界最高の興行収入を記録したと伝えています。

中国でもコロナ禍で上海事件を題材にした中国映画「八佰」が大ヒットしている他、「TENET テネット」も中国国内でヒットを飛ばしており、アジアで映画が次々とヒットする現状を多くのアメリカの劇場主たちは歯がゆい思いで眺めていることでしょう。ヴァラエティ誌によると、「鬼滅の刃」は来年初旬にもアメリカで公開することが決まったと伝えており、アメリカのファンの間では日本の大ヒットを受けて早くも公開を待ち望む声が上がっています。

ニューヨークでは23日から入場者数を25%に制限して映画館の営業を再開させることが発表され、あとはロサンゼルスの映画館がいつオープンするのかが注目されるところですが、劇場主にとっては良いニュースばかりではありません。

この夏に感染が拡大したカリフォルニアでは感染者数が減少傾向にあるものの、現在はアイダホやモンタナ、サウスダコタなど田舎の州で感染が拡大して第3波が押し寄せている中、来年には安全に人々が映画館に行くことができるという保証はどこにもありません。

しかしながら、順調にいけば今年公開予定だった多くの大作が来年は一気に公開されるはずなので、「鬼滅の刃」もアメリカで公開されれば映画館再開の目玉作品として危機的状況にあるアメリカの映画館にとっての救世主になることができるかもしれません。