「二宮和也」「西畑大吾」「美少年」「キンプリ」…ジャニーズと平和の物語

2020年8月14日

デイリー新潮

 故・ジャニー喜多川は朝鮮戦争に米兵として参加した経験を持ち、それゆえに平和の尊さ・戦争の虚しさを物語に盛り込んできた。ジャニーズのメンバーも組織の中で戦争について考えてきたあとが垣間見えるという。「美 少年」の連ドラ初主演作のテレビドラマ『真夏の少年~19452020』を皮切りに、ジャニーズと平和について、『ジャニーズは努力が9割』(新潮新書)の著者・霜田明寛氏が綴る。

 ***

 ジャニーズと戦争は相性がいい――と書くといささか不謹慎だが、正確に言うと、ジャニーズと戦争を描いた作品の相性は抜群である。その理由や、それが故・ジャニー喜多川の表現しようとしてきたものと一致することについては後述するが、この相性の良さを改めて感じたのが、テレビドラマ『真夏の少年~19452020』(テレビ朝日系・金曜・23:15)である。

 テレビ朝日の7月期金曜ナイトドラマ『真夏の少年~19452020』は、10代後半のメンバーからなる、ジャニーズJr.内のユニット「美 少年」の連続ドラマ初主演作である。単なるアイドルドラマのように感じる人も多いかもしれないが、それで敬遠してしまうのはいささかもったいない作品である。

「自由を感じない若者と、自由を奪われた兵士が、時空を超えて出会った」というキャッチコピーのこのドラマは、博多華丸が演じる軍服を着た男が1945年からタイムスリップしてきて、高校生たちと日々を過ごすというストーリー。

 香港の若者のデモ運動をテレビで見ながら、自由な現代にあって思うように行動してない自分たちを省みるなど、“現代の若者”の描写も丁寧だ。“戦時中”の大人と出会った高校生たちは、現代とは異なる価値観を突きつけられ、成長していく。

“戦争について考える若者たち”という設定は、一歩間違えると、形式だけが先行し、軽薄になってしまう危険性もあるが、彼らがそう見えないのはなぜか。もちろん脚本の巧さもあるが、それだけではない。

 それは、演じる美 少年のメンバーたち自身が、ジャニーズ事務所という組織の中で、これまでに戦争について考えることをしてきているからではないだろうか。

ジャニー喜多川が直接、子どもたちに戦争経験を語ることもよくあった

 ジャニー喜多川が作・演出を手掛け、晩年に力を注いでいた帝国劇場での舞台『JOHNNYS’ World―ジャニーズ・ワールド―』シリーズ。Hey! Say! JUMP、Sexy Zone、King & Princeといった近年のジャニーズの王道グループたちが座長を担ってきた作品であり、もちろん美 少年も出演し続けてきた。

 この舞台で一貫して発されていたメッセージのひとつが、平和の尊さである。ジャニー喜多川は、自身も戦争を経験し、朝鮮戦争には米軍の一員として参加している。

 東京大空襲や特攻隊、少年兵の出兵、鼓笛隊にライフルを持った行進といったシーンが次々と盛り込まれる。セリフでも「新しい時代を生きる若者たちにこんな悲劇、体験して欲しくない!」と訴えられ、「今日だって世界のどこかで戦争は起きてる。戦争と無縁な人生、それが当たり前だと思っているのは、この国に住んでる人だけなんだよ! このありふれた毎日が幸せなんだよ……俺たちはこの幸せに気づかないといけいない」と、見た者が今の平和のありがたさに気づけるように作られていた。

 もちろん、タレントたち自身に戦争体験はないが、生前は、ジャニー喜多川が直接、子どもたちに戦争経験を語ることもよくあったといい、タレントたちがそれぞれにジャニー喜多川が思い描く平和をステージ上で体現していた。

 とはいえ、ジャニーズ事務所やジャニーズのタレントたちは、戦争反対といったメッセージを直接発することは少ない。ジャニー喜多川は「説教がましくは言いたくない。ショーで日本にもかつて戦争があったことを知ってもらえれば。昔を生きているからこそ、平和の尊さが分かっている」と生前語っており、あくまでエンターテインメントに託すのがジャニーズ流なのだ。(朝日新聞2017年1月23日夕刊)

国分太一の『広島 昭和20年8月6日』…“黒い雨”の中で

 美 少年のメンバーも、この舞台で戦争のシーンを演じてきた。そこでは当然、昭和の若者を演じるわけだが、鑑賞時に、その時代に生きている青年のように見えた記憶がある。

 美 少年はジャニー喜多川・肝入りのジャニーズ王道のグループ。グループ名の通り、美形が揃っているが、現代の美形であると同時に、これまでジャニー氏が率先して選んできた、昭和顔の趣もある系統の顔立ちである。

 近年、EXILEを擁するLDHが送り出すイケメン若手グループが、成熟した資本主義社会に育った現代的な顔立ちで、体育会系の香りがするのと比べると、ジャニーズは文化系で、どこかに陰を感じさせるタレントが多い。表情に悲しさが漂う瞬間もあり「戦争中に苦労してきた」という設定で登場しても、しっくりくる。

 そう、ジャニー喜多川が選んだジャニーズタレントたちは、現代的な人気を得ることもできながら、どこかにジャニー喜多川が生きた昭和の時代を感じさせる雰囲気があり、戦争を生き抜く若者を演じてもハマるのである。

 そこで本稿の最後に、“昭和の若者を演じてもハマる”ジャニーズタレントが出演する戦争を描いた作品を3作紹介したい。

 まず、2005年の夏にTBSの戦争を題材とした特別ドラマ「涙そうそうプロジェクト」の1本として放送されたのが『広島 昭和20年8月6日』。

 広島に原爆が落ちる“まで”の日常の日々を描くことで、原爆が落ちるとこと、彼らの命が絶たれてしまうことの悲惨さが際立つようになっている構成は、長崎に原爆が落ちる前日の市井の人々を描いた黒木和雄監督の映画『TOMORROW 明日』にも近い。

 松たか子・長澤まさみ・加藤あいが演じる広島に生きる3姉妹を演じた本作に、国分太一が出演。当時の国分太一はまだ役者業もさかんにやっていた頃で、昭和に生きる青年を演じたNHKドラマ『トキオ 父への伝言』(2004年)や、本作と同じく坊主姿で落語家を演じた映画『しゃべれども しゃべれども』(2007年)など、どこか古風な役を演じるとハマっていた。

 このドラマでの国分は、出演シーンこそそう多くはない。だが、“黒い雨”を浴び叫喚する場面など、原爆が落とされた街の悲惨さや残された人の悲しみを表現する、非常に重要な役を担っている。

この子を死なせたくない…なにわ男子・西畑大吾の『ごちそうさん』

 次に、まだCDデビュー前の関西ジャニーズJr.でありながら山田太一ドラマにも出演するなど、役者としての評価を確立しつつあるのが、なにわ男子・西畑大吾である。

 2度の朝ドラ出演歴があるが、今回注目するのはそのうちの1本、2014年に放送され西畑にとって初めてのドラマ出演となった『ごちそうさん』(NHK)である。洋食屋に育った主人公を中心に、タイトル通り、料理にまつわる人々を描いたこの作品。杏が演じる主人公の長男が菅田将暉、次男が西畑大吾という設定だ。

 第20週の後半では、西畑大吾演じる活男が「兵隊さんの『ごちそうさん』になりたい」と、海軍でコックになる道に希望を見出し、志願。息子を危険にさらすことに、当然ながら反対する家族に「同じ死ぬ運命なら、好きなことをやって死にたい」と訴え出征していく。

 視聴者に、この子を死なせたくないと思わせるあどけなさと、若いながらも自分の人生への確固たる意志の強さを同時に表現していた。それは、とても西畑が平成生まれとは思えない、戦争に人生を揺さぶられる若者の姿だった。

 そして、そんな西畑大吾が憧れの先輩として名前をあげるのが嵐の二宮和也である。

 そもそも二宮和也は、まだ嵐としてデビューする前、初めて出演したドラマが『天城越え』(NHK・1998年)。昭和どころか、大正の少年を演じてもハマっていた。

二宮和也のために新たな役が作られた『硫黄島からの手紙』

 そんな二宮の“古き時代の日本男児”っぷりが世界的に認められたと言っても過言ではないのがクリント・イーストウッド監督の映画『硫黄島からの手紙』(2006年)だ。硫黄島の戦いを、米国視点の『父親たちの星条旗』、日本人視点の『硫黄島からの手紙』と2本を使って描いたうちの1本だ。

 二宮和也はオーディションで選ばれたが、クリント・イーストウッド監督はオーディションで二宮を見て、新たに役を作ったほど感銘を受けたという。そのためか、正直、出来上がった作品は、他にも渡辺謙などのベテランの役者がいるものの、二宮和也の主演作品だろうか、というほど存在感が際立っていた。特に二宮が演じる西郷のラストシーンは、強さと哀しさ、戦争の理不尽さ……言葉にしきれないすべてのものを表現した秀逸なものだった。

 先述のように、直接的な反戦メッセージを強くは発信しないジャニーズ事務所。だが、ジャニー喜多川の人生の根底には、辛い戦争体験が存在している。半世紀以上の時を経て、こうして所属タレントの作品が世界にも羽ばたいていくことが、ジャニー喜多川の最大の“反戦運動”なのかもしれない。

霜田明寛(しもだ・あきひろ)
1985年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。9歳でSMAPに憧れ、18歳でジャニーズJr.オーディションを受けた「元祖ジャニヲタ男子」。就活・キャリア関連の著書を執筆後、4作目の著書となった『ジャニーズは努力が9割』(新潮新書)は3刷を突破。 また『永遠のオトナ童貞のための文化系WEBマガジン・チェリー』の編集長として、映画監督・俳優などにインタビューを行い、エンターテインメントを紹介。SBSラジオ『IPPO』凖レギュラー。

週刊新潮WEB取材班編集