痩せたい人あるある なぜ、ダイエットグッズは買うと満足してしまうのか

2020年7月6日

THE ANSWER

連載「30代からでも変われる! 中野式カラダ改造計画」

 忙しい大人向けの健康術を指南する「THE ANSWER」の連載「30代からでも変われる! 中野式カラダ改造計画」。多くのアスリートを手掛けるフィジカルトレーナー・中野ジェームズ修一氏がビジネスパーソン向けの健康増進や体作りのアドバイスを送る。

 今回のテーマは、中野氏のもとに届いた女性の質問から。痩せたいという人が、なぜダイエットグッズを買っただけで満足してしまうのか。そもそも、なぜ「物を買う」に走ってしまうのかを分析。その上で、そんな人に向けて優しくメッセージを届けた。

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「ダイエットを始めたい」という女性から、ちょっと面白い質問が届きました。

 外出自粛と自宅勤務期間の3か月間で、体重が4kgも増えてしまった、というこの女性。運動しながら痩せたい、と友人に話すと、「最近、流行っている」と“縄跳びダイエット”を勧められたそうです。「すぐに体重が落ちるらしいし、何よりマンションの裏の公園でいつでもできる」と考え、縄跳びを即購入。ところが、「やっぱりいい大人が公園で縄跳びをするのは、うまく跳べないかもしれないし恥ずかしい。それに『やろう!』と思った日に限って、忙しかったり雨が降ったりで、三日坊主どころか、結局1回も跳んでいない」という話でした。

 本題に入る前に一つ。この女性は縄跳びが始められない理由に「大人だから失敗すると恥ずかしい」と言っています。実はダイエットが続かない、始められない理由を伺うと、このような理由を言われる方は少なくありません。「ランに興味はあるけれど、少し走るだけで息切れするから恥ずかしい」「水泳は痩せそうだけど、うまく泳げないとみっともない」「太っているとウェアを着るのも恥ずかしいから、ちょっと痩せてから外で運動したい」などなど。

 でも、こんなことを言っていたら、どんな運動も一向に始められませんよね? どうしても「大人だから恥ずかしい」「ムリ」という気持ちが壁になる方は、是非、ウォーキングから始めてみてください。どんな運動初心者でも、歩く動作には特別な技術はいりません。それにウェアを着るのも恥ずかしい、という方でも普段着のまま、散歩のついで、通勤のついでにもできますよ!

 さて、「せっかく買った縄跳びだし、やる気になる方法を教えてほしい」というこの女性。聞けば、以前から「ダンベルは必須と言われて買ったけど、一度も使っていない」「モデルがバランスボールで体幹トレーニングをしていたから使ってみたけれど、結局、続かなくて友達に譲ってしまった」など、あれこれグッズは買うものの、トレーニングが続いたためしがないようです。この話を聞いて「面白いなあ」と感じたのは、いつも「物を買う」という行動に移す点です。例えば、家にスニーカーさえあれば、ウォーキングであれば思い立ったらすぐにでもできるのに、です。

 グッズを手に入れたけどやらない、というのは、本を買う行動と一緒です。「読もう」「勉強しよう」と思って購入したのに、一度も開かないまま本棚に収まっている本や参考書、ありませんか? トレーニンググッズもそれと同じ。「買った」という行動を起こしたことで安心し、使ってもいない、成果も出ていないのに「やったような感覚」になり、満足して終わってしまうのです。

どうして「物を買う」という方向に走ってしまう?

 そもそも、どうして「物を買う」という方向に走ってしまうのでしょう?

 確かに、縄跳びもダンベルもバランスボールもよいものです。しかし、人やメディアを通じて「効果がある」とオススメされたりすると、本来の価値以上に「すごくいいモノ」に見えてしまうことがあります。「巻くだけでお腹の脂肪がとれる」とか「2週間、食事に置き換えるだけで-5kg!」とか、特にダイエットに関係する情報や商品は過剰な謳い文句がつきものですが、ついつい乗せられて、手を出してしまう人は大勢います。「グッズの力を借りれば、自分の力だけでやるよりも早く、効果的に結果を出せそう」。そんな期待感から、思わず手を出してしまうのでしょう。

 先日、「自宅トレーニング特集」というテーマで取材を受けました。この企画では、トレーニング愛好家の一般人から体の専門家まで、さまざまな人に自宅でのトレーニング内容を特集。取材に訪れた記者の方が、「トレーニングの専門家の家にはグッズがほとんどなく、自体重でトレーニングをしている。一方で一般のトレーニングマニアの方の自宅にはダンベルやチューブ、人によっては本格的なトレーニングマシンまでと、いろいろなツールやイクイップメントが揃っている傾向があり、非常に面白かった」と話していました。

 記者の方が気づいた通り、トレーニングは知識があれば物を使わなくても一通りできます。グッズがないと効果的に鍛えられないと思われがちですが、私自身も使うのはイス、ソファ、ストレッチポールぐらい。体一つを重りにすれば、十分に鍛えられます(もちろん、ボディ系のコンテストに出られる方などは異なります)。体の専門家が、本や動画などで提案する自体重のトレーニングをみれば、道具いらずの種目の多さに驚くでしょう。

 いつも言いますが、世の中には誰もが楽に痩せられる、魔法のような方法はありません。縄跳びやダンベル、バランスボールなどを使ったとしても、5回、10回続けた程度では、期待しているほどの効果は得られない。痩せようと思うならば、やはり、ある程度の期間、回数やセット数をこなし、積み上げていかないと成果は出ません。ダイエットには苦しみや努力を伴うし、成果を出すにはそれなりの時間がかかることは大前提。だからこそ、楽しめる運動を見つけることがとても大切なのです。

 運動そのものが「面白い」と思うか、もしくは痩せる、うまくなるなど「運動の効果を実感」できるか。人はこの2つ、またはこの2つのいずれかを得ないと、自発的に運動を継続することができません。ですから、どんなによいグッズを手に入れても、そのグッズを使った運動に楽しみを見い出せなければ、ダイエットは成功しないのです。

「せっかく買ったのにもったいない」という気持ちもわかりますが、始められないものに固執しても、ダイエットは永遠にスタートできません。気持ちを切り替えて、自分が楽しめそうな運動やスポーツを見つけてください。もちろん、「楽しそう!」と思えるなら、グッズから入るのもアリですよ!(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビューや健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌などで編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(共に中野ジェームズ修一著、サンマーク出版)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、サンマーク出版)、『カチコチ体が10秒でみるみるやわらかくなるストレッチ』(永井峻著、高橋書店)など。

中野ジェームズ修一
1971年、長野県生まれ。フィジカルトレーナー。米国スポーツ医学会認定運動生理学士(ACSM/EP-C)。日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナー。「理論的かつ結果を出すトレーナー」として、卓球の福原愛選手やバドミントンの藤井瑞希選手など、多くのアスリートから絶大な支持を得る。クルム伊達公子選手の現役復帰にも貢献した。2014年からは、青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。主な著書に『下半身に筋肉をつけると「太らない」「疲れない」』(大和書房)、『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(サンマーク出版)、『青トレ 青学駅伝チームのコアトレーニング&ストレッチ』(徳間書店)などベストセラー多数。