なかなかユニットを出さないジャニーズが「中島健人&平野紫耀」を組ませたことには理由がある

2020年7月4日

文春オンライン

 ジャニーズが“グループの垣根を越えてくる”ときは本気の合図である――。

 Sexy Zone・中島健人とKing&Prince・平野紫耀のW主演で発表された、『未満警察 ミッドナイトランナー』が6月27日から放送をスタートした。

 撮影休止の影響で3ヵ月遅れとなったが、それまで同枠で再放送されたのは2005年の『野ブタ。をプロデュース 特別編』。こちらは同じジャニーズ事務所の先輩・亀梨和也と山下智久が出演していた。最終回では、“修二と彰”の2人から中島健人と平野紫耀にバトンタッチするようなやりとりもあり、2人が“後継ぎ”のようなイメージが形成されたのも印象的だった。脚本家・プロデューサーはじめドラマのテイストは全く異なるのだが、それでも“『野ブタ。をプロデュース』を継ぐ『未満警察』”のようなイメージが出来上がるのは、すごいところである。

ジャニーズがグループの垣根を超えるタイミングは2つある

 こうして盛り上がった“久々のグループの垣根を超えたバディ誕生”にジャニーズファン内外からの反響も高かった。しかし、ジャニーズにおいてこうした特別ユニットはなかなか生まれないものだ。それは、ジャニーズにおいてジャニー喜多川がそれぞれの個性や組み合わせの妙を計算して作り上げたグループという括りが絶対的なもので、デビューをさせた後に、なかなかその境界線を壊すことをしないから。EXILEを擁するLDHや、48グループ・ハロー!プロジェクトのようにシャッフルユニットもなければ兼任や移籍、グループの統合やメンバーの追加もない。

 では、そんなジャニーズがグループの括りを壊すのは一体どんなときだろうか? これには、2つだけタイミングがある。

 1つはチャリティーのとき。阪神大震災の復興支援として結成されたJ-FRIENDS(KinKi Kids、V6、TOKIOからなる)や、今年5月に医療機関支援のため、音楽活動をする所属タレントのうち75名を集め結成されたTwenty★Twentyがある。

 チャリティーユニットの結成が「他者のための本気」だとすると、もう1つが「自分たちのための本気を見せる」ときである。

 この“ジャニーズの本気”は、乱発はされないので数は少ないものの振り返るといくつか印象的な例が挙げられる。

『トラジ・ハイジ』『修二と彰』のヒット

 2005年1月、堂本剛と国分太一は出演した映画『ファンタスティポ』での役名のまま『トラジ・ハイジ』を結成。J-FRIENDS以来、8年ぶりのグループの垣根を越えたユニットとなり、映画と同名の主題歌『ファンタスティポ』は、その年のシングルCD年間オリコン売上ランキング9位となった。

 そして、冒頭でもふれたが、同年、亀梨和也と山下智久はドラマ『野ブタ。をプロデュース』出演を機に『修二と彰』を結成、11月に発売された『青春アミーゴ』は大ヒットし、年間売上ランキング1位を獲得している。ちなみに2005年のランキングでTOP10に入ったジャニーズのアーティストはこの2組のみで、14位にSMAPの『BANG!BANG!バカンス!』が入っている。それだけでも“乱発されない本気”が結果を出すことが読み取れるだろう。

 両者はこのユニットでの大ヒットを受けてさらに人気に火がついている。

 いまでこそ『タレント番組出演本数ランキング』で2014年から5年連続で1位と、テレビ的に見れば最も売れているジャニーズタレント、と言っても過言ではない国分太一は、2005年当時はまだ多くのレギュラー番組を持っているわけではなかった。だがこの『トラジ・ハイジ』以降、『オーラの泉』などに出演、活躍の場を増やしていく。2005年の亀梨和也は、まだKAT-TUNとしてデビュー前だったが、1月に出演した『ごくせん2』での人気も相まって知名度が一気に上昇。翌年、満を持してKAT-TUNとしてデビューする。同時発売されたデビューシングル・アルバム・DVD3作で同時に1位をとる記録を打ち立てた。

 つまり、ジャニーズがグループの垣根を越えるときは、そのユニットとしてのヒットはもちろんだが、組むこと自体が、選ばれたタレントのブレイクの起爆剤となると言ってもいいのである。

次のユニットとして白羽の矢が立った中島健人と平野紫耀

 そして2019年末、ジャニー喜多川が亡くなって初めてのジャニーズカウントダウンライブの放送終了後。突如Twitterアカウント(@kentosho2020)が開設、中島健人と平野紫耀の2ショットの写真や『#健人と紫耀2020』のハッシュタグで2人の新プロジェクトの始動が発表されたのだ。

 その後、新ドラマのW主演が発表されたが、それだけでなく、2人が日テレ系の音楽特別番組『Premium Music』の司会を任されていることからも、ジャニーズ事務所の本気度が伝わってくる。

 日テレ『THE MUSIC DAY』『ベストアーティスト』は櫻井翔、TBS『音楽の日』は中居正広、『テレ東音楽祭』は国分太一と、各局の大型音楽番組にジャニーズの主力が名を連ねてきたこれまでを見ると、この2人の抜擢は世代交代をも匂わせる。たしかにSMAPが解散し、嵐が活動休止を控えた今、ジャニーズ事務所の若手グループが、かつてのSMAPや嵐のような大ブレイクを期待されているのは明らかだ。その中で、白羽の矢が立ったのが中島健人と平野紫耀なのだろう。

 しかしこの期待は、ただ単に「事務所が推している2人」「若手ジャニーズの中で人気のある2人」というレベルではない。なによりもこの2人は、今は亡きジャニー喜多川から大きな期待を担っていた2人でもあるのだ。2人の所属するSexy ZoneとKing & Prince自体がジャニー渾身のグループであったことはもちろんだが、それだけではない。

中島健人と平野紫耀は“ジャニーズという文化を継承する2人”である

 晩年のジャニー喜多川が、自分の人生の集大成のように力を入れていた舞台『ジャニーズ・ワールド』シリーズ。そこで主演を担い、帝国劇場でフライングをさせるタレントにジャニー喜多川は絶大な信頼をおいていたように思う。山田涼介など、ジャニーズ事務所の中でも、限られたタレントにしかそれを課さなかった。中島健人と平野紫耀はそれを担ってきた2人である。『ウエストサイドストーリー』に感銘を受け初代ジャニーズを結成し、舞台に力を入れ続けてきたジャニー喜多川が自ら作・演出を手掛けた舞台であり、しかも歴史ある帝国劇場で主演を担い、フライングをすることは“ジャニーズの王道”と言ってもいい。ただ単に「人気が出そう」というレベルではなく、まさに“ジャニーズという文化を継承する2人”なのである。

 こうした背景を踏まえて見た『未満警察 ミッドナイトランナー』。初回放送を見て、中島健人が演じる本間快、平野紫耀が演じる一ノ瀬次郎はそれぞれ「素の2人の個性」を活かしたようなキャラクターだったと感じた。

 なぜジャニー喜多川が中島健人と平野紫耀に「ジャニーズという文化を継承するに値するタレント性」を見出したのか。この疑問への答えがドラマにおけるそれぞれの役柄と本人との共通点を振り返ることで見えてきた気がする。

中島健人に漂う“童貞性”が重なる「本間快」

 中島健人演じる本間快は、初登場する警察学校の面接シーンで、“意識高い系”である描写がなされ、自ら「彼女は今はいません」と申告をする。拙著『ジャニーズは努力が9割』では「極端な意識の高さが一流としての器を作る」として、引用した過去の発言だけでも「ジャニーズでトップに立つのが目標」「時代のアイコンになりたい」「周りには絶対負けたくない」と、意識高く上を目指すものが目立つ。

 実際、アイドルとしての意識が高く、中学校3年生での入所直後に、プライベートで女子と接することをやめ、デビューから9年が経とうとする今もスキャンダルがゼロ。その現状を鑑みると、「彼女は今はいません」と中島健人本人が発言してもおかしくない。

 そして、本間快には、初回から真木よう子演じる、湯上がりの美人の部屋を、自分の部屋から2時間以上、双眼鏡で覗き続けるなど、ちょっとした童貞性がある。

 中島健人本人にも、あの洗練された美しいルックスにも関わらず、「事務所に入る前はそんなにモテるほうではなかったのでは」と感じさせる、どこか漂う童貞性がある。そこが中島健人のどんなにキザな台詞を言っても嫌味にならない人間味であり、『銀の匙 Silver Spoon』のような、イケてない役をやらせてもハマるなど、演技に幅の広さを与えているのかもしれない。実際、本人も「僕はどっちかというと太陽族ではない」(週刊朝日 2020年4月17日号)と発言している。

 また、余談だが、本間快の大卒だが「そこそこ優秀なとこ」を出たという設定は、中島本人の明治学院大学を卒業したという経歴とも重なるものだ。

「死ぬなよ!」と叫ぶ平野紫耀と「一ノ瀬次郎」

 一方、平野紫耀演じる一ノ瀬次郎はどうか。本間快に比べて、テンションも高く明るい次郎。快と授業中に私語をしていても怒られるのは快のほう、というのはジャニーズJr.の中でもエリート街道を歩みつつも、受けた嫉妬が少なそうな平野本人に通じる。快ほど思慮深くはないが、正義感は強く、危険にも自ら飛び込んでいく役どころだ。

 平野本人はと言えばバラエティでの数々の珍回答や発言で、すっかり「天然キャラ」とされているが、バラエティ番組でいじられているとき以外の発言は、それなりにしっかりとしている。その筆頭がドキュメンタリー『RIDE ON TIME』での「コンサートで僕と目が合わなくても、僕を見てくれてる人とか、僕と関わってくれてる人にはなるべく死なないでもらいたい」という発言だ。

 コンサートの最後にファンに向かって「死ぬなよ」と叫ぶ平野。なぜ、ハッピーなコンサートの最後を締めくくる言葉が「死」なのか。「僕の身内とか友達とかでも死んじゃった人が多いので」と語り「すっごい死んじゃうんだもんな……」とうつむきがちに語る以外、そこでは多くは語られない。だが、『未満警察』の中で、次郎が、自分の兄の死を負ったからこそ、誰かを守ろうとする人物になった……という描写がされたときに、そんな平野の発言がよぎった。

ジャニー喜多川が作りたかった“ジャニーズアイドルとしての王道”

 2人とも王道のアイドルのようだが、「童貞性」や「死」の陰があり、どことなく“負をおった上で光の当たる場所に立っている”人に見える。ちなみに中島はデビュー当時、「YOUは笑っちゃいけないよ」とジャニー喜多川から「笑顔禁止」を言い渡されていたという(※日本テレビ『スッキリ』7月2日)。アイドルで「笑顔禁止」とは王道のアイドルのイメージとはかけ離れたアドバイスである。

 底抜けに明るいわけではなく、負をおった上で、それでも光のあたる場所に立つアイドル。それはもしかしたら、ジャニー喜多川の本当に作りたかったもので、“ジャニーズアイドルとしての王道”なのかもしれない。

 そう考えると、堂本剛も亀梨和也もどこかに負がある。堂本剛は「自分が自分で生きられない日々に負けそうな日々が続いた時期があった」などと発言しパニック障害になったことを公表している。『野ブタ。』の脚本家・木皿泉は、「描いているうちに、人の寂しさがテーマになっていったのは、修二役の亀梨さんが引き出してくれたから」と、亀梨和也に漂う寂しさが作品を引っ張ったと証言している。だが、そんな負をおった2人が、従来のジャニーズの枠を越えて、アイドルとしての大ブレイクを果たしたことは言うまでもない。

 中島健人と平野紫耀。“ジャニーズの王道の負”が掛け合わさったとき、きっと新たなプラスの奇跡が起きていくはずだ。

(霜田 明寛)