緊急事態宣言で再燃する「名古屋飛ばし」。ジャニーズのコンサートも…

2020年4月17日

日刊SPA!

 “名古屋飛ばし”という俗語がある。これは日本の三大都市圏といわれる東京・大阪・名古屋のうち、大規模なイベントなどが愛知県名古屋市およびその周辺で行われないことを指すものなのだが、この言葉が’20年4月7日にクローズアップされる出来事が。それはこのたびの新型コロナ感染拡大をめぐり、7都道府県を対象に緊急事態宣言が政府から発令されたが、そこには5番目に感染者数が多い愛知県が入っていなかったのだ(4月10日、県が独自に緊急事態宣言を出している)。

 これによって“名古屋飛ばし”というワードがツイッターでトレンド入りするなど、ちょっとした話題になっている。そこで今回はこれまでにあった“名古屋飛ばし”の例を検証、愛知県民の悲哀の歴史を紐解いていこうと思う。

◆その1 “名古屋飛ばし”の原点

 最初に“名古屋飛ばし”が話題となったのは1992年のこと。同年の3月から東海道新幹線の“のぞみ”の運転が開始されたのだが、その当初、一部の列車が新横浜駅には停車するものの、名古屋駅を通過したことから、JR東海の本社がある駅を通過させるとは何事かと愛知県、特に名古屋市を筆頭とする尾張地方の政財界から大ひんしゅくを買うハメに。

 その後、のぞみの全列車が名古屋に停車するようになり、鉄道における名古屋飛ばしは解消されることになるのだが、それが実現したのは’97年11月末のこと。運転開始から実に5年半もの月日が流れてしまっていたのである。

◆その2 来ない来ない、あの有名外タレが来ない……

 名古屋飛ばしの中でも典型的な例とも言えるのが、海外アーティスト、いわゆる“外タレ”のコンサートだろう。’87年にマイケル・ジャクソンとマドンナが初訪日コンサートを開催したのだが、横浜公演や福岡公演がありながら名古屋公演がなかった事実がある。マイケル・ジャクソンは’93年、’96年にもワールドツアーの日本公演を開催しているが、やはりこの2回とも名古屋は飛ばされるという悲劇に。

 またポール・マッカートニーも初めての単独来日公演が実現したのが’90年。その次の’93年時の公演では福岡ドーム、’02年公演では大阪ドームで初めての開催となっている。’13年には東京・大阪・福岡でドーム公演を行ったが、ここでも名古屋はスルーされてしまった。愛知県民の悲願が実現するまでには’18年11月のナゴヤドーム公演まで待たなければならなかったのだ。

◆その3 美術館展すらもスルー

 大型の企画展が分かりやすい例だが、関東のほかは関西でのみ開催というケースが実はほとんど。メジャーな企画でさえ、名古屋での開催は極めて少ないのが実情だ。

 例えば’17年に開催された“『怖い絵』展”は関東なら東京の上野の森美術館、関西なら兵庫県立美術館でののみの開催だった。また’18年に東京の国立新美術館で約42万人を集客し、年間3位の動員記録をマークした“ルーブル美術館展 肖像芸術ー人は人をどう表現してきたか”は東京で開催されたあと同年9月から’19年4月までは大阪市美術館で開催されているが、名古屋で開催されることがなかったのだった。

◆その4 日本古来の伝統芸能も名古屋には冷たい……

 日本古来の伝統芸能の分野でも名古屋飛ばしは行われている。東京なら歌舞伎座がお馴染みの場所だが、実は関西にも京都に南座、大阪には大阪松竹座があるが、名古屋には収容人数1000~2000人クラスの商業劇場は御園座しかない状態。

 そのため歌舞伎以外にも大衆演劇やミュージカルなどがすべてこの劇場に集中してしまうことから、公演したくても泣く泣く断念せざるを得ない演目が生まれてしまっているのが現状だったりする。

◆その5 人気アニメの第2シリーズが放送されない悲劇

 芸術&文化面といえば、今や日本が世界に誇る“ジャパニーズ・アニメ”でも名古屋飛ばしが行われていた。特に深夜アニメが顕著で『ご注文はうさぎですか?』や『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』のように第1シーズンが放送されたのに第2シーズンが放送されなかった……というようなこともしばしばだ。それどころか『ワンパンマン』や『グリザイアの果実』のように第1シリーズすら放送されていない作品があるのだ。

 実は東京の深夜アニメ放送が充実しているのは東京MXテレビの存在が大きいのだが、この東京MXで放送される作品を在名局でカバー出来ていないという現状がある。独立局がないからだ。これはアニメに限ったことではなく、関西ならサンテレビやKBS京都が東京MX発の番組をカバーしているが、そのような局が東海地方にはない。悲劇を生んでいる要因の一つといえる。

◆その6 あのジャニーズグループも名古屋飛ばしを

 ジャニーズ事務所在籍グループが’18年から’19年にかけてどの程度名古屋でコンサートを開催しているのか。すると嵐を筆頭にドームツアーを行う関ジャニ∞、Kis-My-Ft2、Hey! Say! JUMPは名古屋公演があったが、NEWSとSexy Zoneは名古屋公演がなかった。

 この2グループが東海地方で公演する際に使用するのは静岡県袋井市にある静岡エコパアリーナ。実はナゴヤドーム以外に名古屋周辺で最大級のアリーナ会場となっている日本ガイシホール(収容人数約1万人)が’19年1月から’20年7月まで改修中で使用出来ないことも関係している。

 日本ガイシホール以外で探すとなると収容人数約7500人のドルフィンズマリーナ(愛知県体育館)のみだ。これはジャニーズグループに限った話ではないが、日本ガイシホールの長期休館が明けるまで名古屋におけるアーティストのコンサートはほぼ絶望的かもしれない。

◆その7 歴史の教科書にも登場する!? 元祖・名古屋飛ばし

 これはもう江戸時代の出来事なので、“名古屋飛ばし”ならぬ“尾張飛ばし”のお話。日本史の教科書に出てくる“徳川御三家”という用語をご存知だろうか。これは江戸時代における徳川氏のうち徳川将軍家に次ぐ地位を持っていた尾張、紀州、水戸という三家のことで、将軍家の後継ぎが絶えた場合にこの三家の中から後継者が出されることになっていた。そしてこの御三家からは紀州から8代将軍吉宗と14代将軍家茂が、水戸からは15代将軍慶喜が輩出されているのだが、なんと石高が一番多いのにもかかわらず、尾張からは1人も将軍が出ていないのだ。

 4代藩主徳川吉通が6代将軍家宣の後継ぎになりかけたが、当時の幕政を取り仕切っていた新井白石らの反対にあい、頓挫。このチャンスを逃して以後、紀州家が将軍家の血筋の主流となったため、尾張家から将軍を出すことが出来なかったのだった。

 以上が“名古屋飛ばし”の7例、そして番外編を。名古屋とはかなりゆかりのある、あの有名人のお別れの会もこの地では開かれていなかった。その人物とは“闘将”“燃える男”としてお馴染みの星野仙一さん。お別れの会は東京と大阪の2カ所で行われたのだが、東京会場は東北楽天が、そして大阪会場は阪神が発起人となっていた。

 だが、星野さんといえばもともとは中日ドラゴンズのエースで、現役引退後は2度に渡ってチームを率いている功労者。なのになんで……と当時落胆した中日ファンは少なくない。<取材・文/上杉純也>

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