【マンション業界の秘密】猛烈に増え続けたワンルームマンション、購入者に待つ不都合な未来

2021年8月13日

ZAKZAK(夕刊フジ)

 先日、ワンルームマンション業界の関係者と話す機会があった。値上がりが続いているにもかかわらず、よく売れているという。彼が言うには「もうあり得ないところまで値段が上がってしまっている」らしい。

 新築のワンルームマンションを買っているのは、中堅以上の給与所得者がほとんどである。「自己資金0円であなたもマンションオーナーになれます」的な甘言に誘われて購入を決めるらしい。

 そして、翌年の春に確定申告を行うと給与から源泉徴収されてきた所得税が戻ってくる。年収が1000万円前後なら、その額が数十万円に達するはずだ。

 そんなタイミングを見計らって「もう1戸いかがですか? また来年も所得税が還付されますよ」とセールスが行われる。それに乗って何戸も買っている人は少なくない。何といっても自分のお金を払わずにマンションが買えてしまうのだ。

 しかし、世の中はそれほど甘くない。ノンバンクや審査の緩い地方銀行から借り入れる諸費用も含めたオーバーローン(物件価格を超えた借入額の融資)の返済は、購入したマンションの賃貸収入で行う。

 購入直後の2年程度は売主側が用意する「一括借り上げ」のような制度で家賃収入が保証される。しかし、その期間が切れると条件変更や家賃の減額を提案されることになる。このあたりは、数年前から盛んに報道で取り上げられている。欠陥住宅など世間を騒がせた某社のアパート経営の問題点と、ある程度共通している。

 家賃保証期間が過ぎた後に、その住戸が空室になった場合はどうなるのか。購入者は自腹を切ってローン返済を行うしかなくなる。

 既存ワンルームマンションの住戸数は年々積み上がっている。しかし、少子高齢化によって借り手である若年層の人口は減っている。この手の物件が集中する東京都の人口も流出超過に転じた。

 それでもワンルームマンションは増え続けている。買う人がいるからだが、売れる限り、儲かる限り、業者は造り続けるだろう。

 すでに東京23区の賃貸住宅は数万戸規模で供給過剰状態にある。今後、これは拡大すれども縮小することはない。つまり、業界の経営環境はますます厳しくなる。

 この10年ほど、金融緩和と景気の安定によって、ワンルームマンションは猛烈に増え続けた。今後、空室になった住戸のローンを払いきれずに任意売却や競売に追い込まれるケースが急増しそうだ。そのオーナーたちの中には、最終的に自己破産に追い込まれる者も少なくないだろう。

 そもそも投資商品としての設計に無理があるのが新築ワンルームマンションだ。しかも価格が上がり過ぎて、投資対象としてはリスクばかりが目立っている。その弱点が多くの人の目にさらされる日は遠くない。

 ■榊淳司(さかき・あつし) 住宅ジャーナリスト。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案・評論の現場に30年以上携わる(www.sakakiatsushi.com)。著書に「マンションは日本人を幸せにするか」(集英社新書)など多数。