「鬼滅の刃」の名シーン再現 奈良・柳生に熱視線

2020年2月24日

産経新聞

 「柳生新陰流」発祥の地として知られる奈良市の柳生地区が、アニメのコスプレイヤーたちの注目を集めている。

 縦に真っ二つに割れた直径約7メートルの巨石「一刀石(いっとうせき)」が、人気アニメ「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」の名シーンを再現できる撮影スポットとして会員制交流サイト(SNS)や口コミで広まったためだ。地元もコスプレの着替え場所を提供するなど受け入れ態勢を整え、観光振興に力を入れる。(桑島浩任)

 鬼滅の刃=吾峠呼世晴(ごとうげこよはる)著=は、大正時代を舞台に人と鬼の戦いを描いた作品で、「週刊少年ジャンプ」で平成28年に連載がスタート。昨年のテレビアニメ化を機に人気が急上昇し、シリーズ累計発行部数(電子版含む)が4千万部を超える大ヒットとなっている。

 物語は、主人公の竈門炭治郎(かまどたんじろう)が人食い鬼に家族を殺され、妹・禰豆子(ねずこ)が鬼となってしまうところから始まる。妹を人間に戻し、鬼に復讐(ふくしゅう)するため、鬼狩り集団「鬼殺隊(きさつたい)」への入隊を目指す修行中に、一刀石とよく似た岩が登場する。

 柳生観光協会によると、鬼滅の刃ブームの影響で昨年10月ごろから、一刀石の前で「コスプレ撮影をしたい」という問い合わせが増えたという。コスプレ姿でアニメの登場人物になり、刀で岩を一刀両断したような写真を撮って名シーンを再現しようというのだ。

 観光協会はこれまで個別にコスプレ撮影に対応していたが、より多くの人に訪れてもらえるよう、民泊「奈良柳生邸」の部屋を着替え場所として1日千円で提供。さらに、旧柳生藩家老屋敷や芳徳寺、もみじ橋など地区に11カ所ある他の撮影スポットも紹介し、撮影許可を協会経由で一括取得できるようにした。

 撮影目的の人たちの受け入れを始めてから約1カ月で、16件の申し込みがあったという。観光協会の黒田篤史事務局長は「これまでは『どこに許可をとればいいか分からない』という声が多かった。許可が簡単に取れるようになれば、訪れる人も増えるはず」と期待する。

 今年1月中旬、一刀石で写真撮影するコスプレイヤーに同行させてもらった。奈良柳生邸からは徒歩15分ほど。車でも近くまで行けるが、道が狭く運転には慣れが必要だ。天乃石立(あまのいわたて)神社のそばで車を降り、鬱蒼(うっそう)とした木々の間を抜けると、中央に一刀石が現れた。

 一刀石には、柳生新陰流の開祖とされる柳生宗厳(むねよし)が天狗(てんぐ)を相手に毎夜修行し、一刀のもとに切り伏せたと思ったら岩が割れていたという伝説がある。炭治郎のコスプレに身を包んだ藤野美郷(みさと)さん(28)=大阪市=は「本当に作品の世界に入り込んだような雰囲気があって、すごくいい」と興奮気味。カメラマンの折戸八重さん(31)=同市=も「風景がいいので良い写真が撮れそう」と、さっそく撮影の準備を始めた。

 記者も撮影に挑戦してみた。前日に降った雨の影響で一刀石の周りはぬかるんでおり苦労したが、何とか作品のシーンを再現した写真を撮ることができた。ぬれた地面と苔(こけ)むした岩が相まって雰囲気が出るので、雨上がりはおすすめかもしれない。

 観光協会は、他のスポットも含め撮影した写真をツイッターなどのSNSで発信する場合は、ハッシュタグ「#やぎゅこす」を付けてもらうよう呼びかけている。コスプレイヤーを通じ、柳生の魅力を発信するのが狙いだ。

 折戸さんは「気軽にコスプレ撮影ができるようになれば、観光にも行ってみようと思える。コスプレファンも増えるし、もっと広まってほしい」と話している。

 柳生地区は奈良市東部の山間に位置し、柳生新陰流ゆかりのスポットに加え、社寺や古民家、豊かな自然など、古き良き日本を感じられる場所だ。市中心部から車で約30分とアクセスも悪くないが、観光客の少なさが課題となっている。

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