2021年7月10日
日刊ゲンダイDIGITAL
【大高宏雄の新「日本映画界」最前線】
国内最大手の興行会社であるTOHOシネマズは、長年親しまれてきた映画館の割引サービス「レディースデイ」を、7月7日をもって終了した。レディースデイは女性のみの割引サービス(1200円)で、同社系列のシネコンは毎週水曜日が実施日であった。
終了に至った背景には多様性ある社会を認めるジェンダーレスの広がり、浸透があるとみられる。レディースデイは性別によって映画の入場料金が割引となるため見直した、ということらしい。
ただ割引自体がなくなるわけではない。これまで同社は毎月14日、年齢性別問わず誰でも1200円(高校生以下は1000円)で見られる「TOHOシネマズデイ」を実施してきた。この割引サービスを毎水曜日に移行し(「TOHOウェンズデイ」に名称変更)、同様に1200円で見られるようにする。つまり、水曜日は女性に加えて男性も割引となるのである。新サービスは7月14日から始まる。
■競合他社関係者の反応は…
この新割引サービスに対して、背景はともかくとして、映画業界ではさまざまな意見が飛び交っている。ある中堅配給会社の営業責任者は、「観客の掘り起こしになるのではないか」と好意的だ。映画を比較的多く見る人の立場からすると、「これまで見ようと思っても控えていた作品があったとすると、安い料金の日が多くなることで、より映画館に行く機会が増えるのではないか」と話す。月1回の鑑賞が、2回、3回になる可能性があるというのだ。
映画のヘビーユーザー、ミドルユーザーの動きが、多少なりとも活発化することで、「たとえ割引の機会が増えても動員で前日比120%、130%と増えていけば、収益面も大きなダメージにならないのでは」とも続けた。これを機会に、映画により関心を持つ人も増えてくるかもしれない。
これに対して、洋画の大手配給会社の幹部は反対ではないとしながらも、「毎月1日のファーストデイ含め、水曜日も入れると基本的には月5回の大きな割引となる。水曜日の前後、火曜日や木曜日といった日には動員が下がっていくことも考えられる。トータルとして見るとどうだろうか」と少し疑問をはさむ。「そもそも割引の在り方も、いろいろなやり方がある」とし、「日本では定着しなかったが、『午前中の割引設定』を今一度検討してもいいのではないか。曜日で設定するのではなく、毎日午前中の割引にすることで1日ごとの動員をバランス良くし、トータル動員数を上げていく」。これは曜日設定の縦軸ではなく、毎日の横軸的な割引設定の浸透のことである。
結果的に映画鑑賞の機会は増える?
映画を送り出す側は当然ながら収益を考えるが、観客側からしたら割引デイの増加はうれしいことだろう。TOHOシネマズのシネコンでは、水曜日に劇場を訪れる人が増えていくのは間違いない。とくに2人、3人連れの観客が行きやすくなると考えられる。
もともとレディースデイが楽しみでシネコンに行くという女性は非常に多い。そういった向きは観客が増えることに対して、どう反応するか。混み合うかもしれないから、ちょっと避けようとするのか。はたまたこれまでどおりなのか。現段階ではその見通しはつかないが、やはり安さが優先される気はする。
TOHOシネマズ以外の興行会社では、都内・池袋をはじめとして多くのシネコンを展開する佐々木興業も、TOHOシネマズより1週間早くレディースデイを終了させ、7月7日(毎水曜日)から誰もが割引となるサービスを始めた。数年前にレディースデイをやめているイオンエンターテイメントは、毎月曜日(水曜日の地域もある)が割引デイだ(同1100円)。ミニシアターの多くは以前からレディースデイは実施していないが、他のシネコンの対応はこれからだろう。では、夫婦50割引(TOHOシネマズは7月13日をもって終了)や男性のみ対象のメンズデイ(終了したシネコンもあるが)など他の割引はどうなるのか。
これからいろいろな動きが出てくるものと思われる。いずれにしろ、割引日をいかに活用するかは観客それぞれだ。多くの人にとって、少しでも映画を見る機会が増えていくことを望みたい。(映画ジャーナリスト)