2021年6月13日
週刊女性PRIME
「昨年の緊急事態宣言明けあたりから、片づけの依頼が引きも切らず。休む暇がありません」と話すのは、整理収納アドバイザーの西原三葉さん。
西原さんは発達障害のひとつADHD(注意欠陥・多動性障害)の当事者。長年、片づけられずに悩んできたが、認知行動療法を受けて改善、現在は片づけのプロとしてさまざまな家庭を訪問している。クライアントはADHDか、その傾向がある(ADHDタイプ)主婦からの依頼がほとんどだという。
家事の呪縛に苦しむ女性
「私自身もそうですが、特性として整理整頓や、段取り作業を苦手とする人が多い。特に家事はマルチタスク(同時作業)なので、要領よくこなせないと苦しんでいる主婦の方が多いんです。でもそれは自身の女性としてのある意味“恥部”だから、友人にもなかなか相談できません。同居する家族の冷たい視線や心ない言葉に長年耐え続けている人もいます」
特にコロナ禍となって家族が家にいる時間が増え、主婦の家事、育児にまつわる作業量は格段に増えた。「妻、主婦、母なんだからやって当たり前、できて当然」。昭和に育った女性たちには、まわりからのそんな呪縛も多い。ADHDやADHDタイプの人は、常識、思い込み、当たり前といったことにとらわれやすく、自分をしんどくさせてしまっているという。
「片づけが苦手」と悩む人の多くは、自分の性格なのだと考えているが、ADHDは「脳のクセ」。本人の性格や育った家庭環境も一般的には関係なく、脳機能の発達の凹凸(偏り)が原因だと考えられている。
「不注意」「多動性」「衝動性」がその特性で、得意と不得意の差が大きく、生活に支障が出やすい。鬱病や依存症などの精神疾患を併発する人も多い。
巣ごもりが苦しい状況を加速
「片づけたいのに、片づけられない」。やる気はあっても、できない、苦しい。ADHDの女性たちのストレスは、コロナで加速。心身の不調となって表れることもあるという。
「例えば最近の相談だと、テレワーク中の夫に片づけや掃除をサボっていると責められて鬱になってしまったという人が。家族間の関係もうまくいかなくなり、子どもを強く叱るなど心配なケースもみられます」
こういったタイプの人は、気がそれやすい、ちょっとしたことが気になって集中力が続かないケースが多い。コロナ前だったら、家族が出かけている日中に、ひとり、家事を進められたことも、在宅で家族が常にいるという状況では注意を持続することが難しいという声も多くある。
自身もADHDタイプで臨床心理士の南和行さんは、
「物事を短時間で計画的に行うことには不向きで、さらには、苦手なことを先延ばしにしたりするクセも。片づけは誰にとっても、気がのらないことですが、それがADHDやADHDタイプの人にとっては、特につらい作業。嫌いなことにはいくら頑張ろうと思ってもやる気が出ず、とりかかれないのです。わがまま、怠け者と言われ続けても、本人の意志だけで解決することは困難です」という。
現在100人に3~7人はADHDであるといわれており、「グレーゾーン」(診断を受けていなかったり、診断を受けても確定されない層)を含めると、世の中にはかなりの「ADHD傾向」の人が存在する。その人たちの中には、同時に深刻な病を抱えているケースもみられる。
買いすぎ、ためすぎという病
「食料のストックだけではなく、マスクやアルコール消毒液、ハンドソープ、トイレットペーパーなどを不安から大量に買い込んでしまって、置き場がない。あれこれ買ったものの管理できなくなって途方に暮れてしまうのです」(西原さん)
また南さんは、
「買い物依存症、物を捨てないで収集することにこだわる“ため込み症候群”といった精神疾患も考えられます。もし自身や家族に心当たりがある場合は、医療機関や発達障害者支援センターにサポートを求めましょう」とアドバイスする。
片づけられない自分に落ち込んでいる女性が増えている一因には、SNSもあるのではと西原さんは推測。
ブログやインスタにはたくさんの収納カリスマや、インテリア達人の投稿がアップされており、たくさんの「いいね!」やフォロワーたちの称賛のコメントであふれかえっている。そういったSNSは、ADHDやADHDタイプの女性たちにとっては目に毒でしかない。
「人と自分を比べて傷つきやすい特性があるのが私たち。人に自慢できる部屋ではなくても、生活に困らない、衛生的に暮らせる部屋ならそれで十分。ネットで見る見栄えのいい部屋に、心をザワつかせないのも自分を救う策です」
西原さんに自分をラクにする実践的な片づけテクを教えてもらった。
ラクにできる、「だけ」でいい片づけ
■紙袋にまとめておくだけ!
片づけ下手な人ほど、収納グッズを買って物を増やしがち。家にある紙袋の縁を内側に折り込めば、即席の収納ボックスに早変わり! この袋を使って分類していくと便利。
■最初は“狭い場所”だけ!
苦手な人が、いきなり全部のものを出して片づけるのは失敗のもと。冷蔵庫の1段、バッグの中など、狭い場所から始めると達成感が自己肯定感を高め、次の片づけにも意欲が継続。
■一列に並べるだけ!
物が多くて“無”にできない場所は、物を奥に寄せて一列に並べるだけでも、片づいて見える。ガス台上の調味料や玄関の靴、本棚の本など小さいところから始めてみよう。
■5分間片づけしてみるだけ!
まずは1日1か所、5分間の片づけでキレイを実感してみて。タイマーを使うのもおすすめ。少しずつ時間や片づけ範囲を増やし、毎日15分の片づけを習慣化すると◎。
■買わない勇気を持つだけ!
買い物は楽しいけれど、物が増えれば片づけがより苦しくなるもの。余計な物を増やさないため、買う理由について考えることも片づけの重要なステップ。衝動買いをよくしてしまう人は、購入前にクールダウンの時間を設けて。ストレスなどが原因の場合は、“ストレス自体を減らす”習慣を。
■部屋は床を広く出すだけ!
床が広々としているだけでも部屋がスッキリ見え、掃除も面倒でなくなる。バッグなどは床に散乱させず定位置を作り、何か置かなければいけないときは壁の一面に寄せる。
■服はつるすか放り込むだけ!
洗濯物をたたむのが苦手なら、洗濯物をできるだけハンガーでつるし、乾いたあと、そのままクローゼットへ。下着や部屋着はカゴに放り込むだけにするとグンとラクに。
片づけはどうしても面倒だと思いがち。苦痛にならないよう、できる範囲からコツコツ始めていこう。
教えてくれたのは……西原三葉さん●整理収納アドバイザー1級、ライフオーガナイザー1級、産業カウンセラー。ADHDに特化した認知行動療法を受けたり、さまざまな片づけ資格を取得する中で、長年の「片づけられない問題」を解決できるように。著書に『「ADHD」の整理収納アドバイザーが自分の体験をふまえて教える!「片づけられない……」をあきらめない!』(主婦と生活社)
片づけコンサルティングAUBE代表 https://aube.jp/
(取材・文/山田 恵●写真提供/西原 三葉)