2020年11月27日
週刊女性PRIME
「ジャニーズ事務所を退所したら、その後の成功は難しい」。そんな定説が覆りつつある。約3年前に退所した元SMAPの稲垣吾郎(46)、草なぎ剛(46)、香取慎吾(43)が目覚ましい活躍を見せている。
陰の立役者は元SMAPのマネージャーで現在は3人の所属事務所の代表であるI氏(61)にほかならない。「やっぱりIさんはデキる」。そんな声が芸能界では高まるばかりだ。
どうデキるのかというと、仕事の取り方や選び方、進め方が、SMAP時代も今も巧みなのである。
Iさんの才能を否定できる人はいない
まず、来年1月からは香取が主演するテレビ東京の連続ドラマ『アノニマス~警視庁“指殺人”対策室』(月曜午後10時)が始まる。ジャニーズ事務所を離れた後の3人が地上波のドラマに出演するのは初めて。テレ東のドラマ部門は同事務所との関係が在京民放キー局の中で最も薄いので、I氏は交渉しやすかったはすだ。
テレ東側にしても『あぶない少年III』(1988年)以来、33年ぶりに香取がドラマに出てくれるうえ、5年ぶりの地上波復帰作として話題になるから、大歓迎に違いない。
地上波ドラマに復帰できればいいというものではないものの、内容も斬新。香取が扮する主人公・万丞渉刑事の捜査対象はこれまでの刑事ドラマにありがちだった事件ではない。ネット上の誹謗中傷や炎上で命を落とす人を救うため、顔の見えない犯人(アノニマス)を追う。今日的だ。
視聴率の行方はオンエアを見るまで分からないが、手垢まみれの内容ではないので、話題になるだろう。香取にもテレ東にもプラスがもたらされるはずだ。
テレ東は局内でドラマの企画を募集し、300通を超える応募の中から、『アノニマス』を選んだという。その企画者は濱谷晃一プロデューサー。遠藤憲一(59)ら名助演陣にスポットライトを当てた『バイプレイヤーズ』(2017年)や『コタキ兄弟と四苦八苦』(2020年)など話題作の数々を手掛けてきた人で、他局からも一目置かれているヒットメーカーだ。
そんな敏腕プロデューサーとI氏がタッグを組めば、怖いものなしだというのは、I氏と仕事をしたことがあるフジテレビの制作スタッフ。
「Iさんは誰と一緒に仕事をすればいいかが分かる人。企画書も脚本もその良し悪しを即断できる。企画書を見た途端、共演者は誰がいいかまで、すらすらと口にする。その才能を否定できる人はエンターテインメント界にいないでしょう」(フジテレビ制作スタッフ)
一部で「3人が地上波に出られなくなったのはI氏が煙たがれていたから」と報じられたが、I氏を知る複数の人物がこれを一笑に付す。
「好き嫌いで仕事をする人間なんて、どんな業種であろうが、いないでしょう。Iさんは仕事熱心な人なので、確かに厳しい一面もありますが、それと仕事をする、しないは別問題」(同)
避けては通れない
前事務所と“局”の関係
3人が地上波に出られなかった背景には、やはり局側のジャニーズ事務所への気遣いなどがある。同事務所の協力がないと、番組づくりは難しいからだ。
ただし、それは同事務所に限った話ではない。局側は相手が大きな事務所なら、どこに対しても気遣う。その事務所が大きければ大きいほど、気遣いの度合いは大きくなる。相手側への配慮というより、自分たちが視聴率の取れる番組をつくるためと言っていい。
I氏もそんな事情は熟知しているから、同事務所との関係が薄いところから攻めてきた。例えば、3人の地上波復帰番組は2018年のRKB毎日放送(福岡)のバラエティー番組『略してブラリク』だった。ローカル番組だ。
同局はTBS系列の有力局であるものの、地方局なのでジャニーズ事務所との関係はないに等しい。半面、I氏は同局幹部と太いパイプがあったことから、番組がつくられた。
「なんだ、ローカル番組か」と言うなかれ。ここでもI氏は手腕を発揮した。メルカリのサイトを使い、全国どこでも見られるようにした。その際にはメルカリの会員登録が必要だったので、同社にとっても悪い話ではなかった。
草なぎも地上波ドラマへの復帰が決まっている。ヒット中の映画『ミッドナイトスワン』ではトランスジェンダーを熱演し、来年2月からはNHK新大河ドラマ『青天を衝け』に出演し、徳川慶喜に扮する。
NHKのドラマ部門もジャニーズ事務所との関わりが比較的薄い。また、民放の場合、音楽番組やバラエティー番組の制作部門とドラマ部門の関係が緊密だが、NHKは音楽番組などを扱うエンターテインメント番組部とドラマ番組部が一線を画している。やはりI氏としては交渉しやすかったはずだ。
I氏は『ミッドナイトスワン』を配給したキノフィルムズの木下直哉社長(55)の信頼も厚い。木下工務店など木下グループの総帥でもある木下社長は映画事業に熱心で、最近では黒木瞳(60)が監督を務めた『十二単衣を着た悪魔』を制作・配給した。映画界の一大勢力になりつつある。
稲垣が2019年に主演した映画『半世界』も同社の配給。3人の映画が、まるで定期的のように上映される背景にはI氏の人脈の力もあるのだ。
ほかにもI氏が笹川陽平・日本財団会長(81)に高く買われているのは有名な話だが、ソフトバンクグループの孫正義代表(63)からも高く評価されている。I氏の財界人からの信望が、3人のCMの多さにもつながっている。
稲垣は二階堂ふみ(26)とダブル主演した映画『ばるぼら』がヒット中。異常性欲に悩まされる小説家・美倉洋介(稲垣)の成功と破滅の物語だ。クールな面とナイーブな面を併せ持つ稲垣のよさが生かされている。
稲垣は今年9月からNHKのEテレで『クラシック音楽館』のアンバサダーも務めている。やはりジャニーズ事務所との関係が薄いことは書くまでもない。
おそらく今後も地上波の大半でジャニーズ事務所への気遣いは続くが、一方で3人の出演機会も増えていくだろう。I氏は今後もさまざまな展開を考えているはずだ。
「3人に仕事がなかったのはI氏が煙たがられたから」
そんなプロはいないし、3人の今日があるのはI氏の力にほかならない。
高堀冬彦(放送コラムニスト、ジャーナリスト)
1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立