熊本電鉄、初代「くまモン電車」引退 都営地下鉄時代の乗務員も「お疲れさま」

2020年11月28日

毎日新聞

 熊本県内を走る熊本電気鉄道(熊本電鉄、熊本市中央区)で初代「くまモン電車」として親しまれたラッピング電車が27日の運行を最後に引退した。東京都営地下鉄時代から東京と熊本を走り抜けて半世紀。ラストランを一目見ようと、全国から鉄道ファンが駆け付けた。その中には、かつての「相棒」をねぎらう都営地下鉄の運転士の姿もあった。

 車両は日立製作所製の6000形「6221ef・6228A」(2両編成)。1972年に製造され、都交通局が都営地下鉄三田線で運行した後、2000年に熊本電鉄が両端の先頭車2両を約7000万円で譲り受けた。

 14年3月から、車両の先頭や扉、車内に熊本県のPRキャラクター「くまモン」をあしらって運行をスタート。熊本電鉄では現在、「くまモン電車」を3編成運行しているが、このうち初代にあたる6000形が老朽化のため引退することになった。

 27日午後8時1分。御代志(みよし)(熊本県合志市)発の最終列車が北熊本駅(熊本市)の1番ホームに定刻通り到着すると、待ち構えていた親子連れらが一斉にカメラを向けた。最後の乗客を降ろし、近くの車庫に入った後、熊本電鉄の社員が「5分だけですよ」と、その場に居残ったファンが車両に近づくことを特別に許可するサプライズもあった。

 熱心なファンに交じって、ホームには都営地下鉄運転士の桜井康一朗さん(50)=東京都北区=も姿を見せた。「初めて乗務したのが『こいつ』だったんです」。この日は何度もくまモン電車に乗降したといい、名残惜しそうに車体を見つめた。

 桜井さんは民間企業から転職して都交通局入り。駆け出しの29歳から約3年間、車掌として初めて乗務したのがこの車両だった。「故障して途中駅で止まってしまったこともあった」と苦笑交じりに懐かしむ。

 現在は都営浅草線の運転士を務める桜井さん。「東京でつらい時、大変な時、いつも『あいつが熊本で走っている』と思うと励まされた」という。鉄道マンとしての原点がこの車両だ。年に数回、この車両に乗るために東京から熊本を訪ねた。

 新型コロナウイルス禍で盛大なセレモニーこそなかったが、熱心なファンらが静かに最後の雄姿を見届けた。桜井さんは「もう乗れなくなると思うと、本当にさみしい」と声を震わせ、走り終えた車両につぶやいた。「いいものを見せてもらった。長い間お疲れさまでした」

 車両は12月から解体される予定という。【山本泰久】