2021年7月5日
スポニチアネックス
人気アイドルグループ「King&Prince」の永瀬廉(22)がNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」(月~土曜前8・00、土曜は1週間振り返り)で朝ドラ初出演。ヒロイン・永浦百音(清原果耶)の幼なじみで漁師の及川亮役を好演している。5日に放送された第36話のラストで、母・美波(坂井真紀)のことを思うと感情を抑え切れず、一人むせび泣き。台詞のない、たった1分のシーンだったが、視聴者の涙を誘った。演出を担当した桑野智宏監督に永瀬の魅力や撮影の舞台裏を聞いた。
<※以下、ネタバレ有>
SNS上には「りょーちんのすすり泣きで終わるなんて。月曜から既に涙腺崩壊」「胸が張り裂けそうになった」「泣き顔に全部持っていかれた」「人前ではあんな明るく優しくても、ずーっと抱えてきたんだよね…最後のワンシーンだけでもギュッてなる」「りょーちんの心があの時からずっと止まったままなのが苦しい。みんなには明るく振る舞ってたけど影ではずっとひとりで泣いてたのかな。つらい」「たった1分しか出てこないのに、一言も台詞がないのにすべてをかっさらっていくりょーちんの涙…ようやくお父さんが他人の手を借りて進み始めてるのに、ひとりぼっちで泣くりょーちん…お願いだからりょーちんにも救いの手を」「差し伸べられた手をつかんで、少し表情が明るくなった新次。差し伸べられそうになる手をスルリとかわして、暗い海の上で一人で泣いてるりょーちん。この対比がつらくて朝から泣いた」「りょーちんは対比で描かれることが多くて、今回も成人式の振袖や前撮りのことを楽しそうに話す永浦家や、和気あいあいと人生ゲームをしたり将来のことを語り合う幼馴染たちとの対比に胸を締め付けられる」などの声が相次いだ。
朝ドラ通算104作目。清原とタッグを組んだNHK「透明なゆりかご」やテレビ東京「きのう何食べた?」などで知られる安達奈緒子氏が手掛けるオリジナル作品。朝ドラ脚本初挑戦となった。タイトルにある「モネ」は主人公・永浦百音(ももね)の愛称。1995年に宮城県気仙沼市に生まれ、森の町・登米(とめ)で青春を送るヒロイン・百音が気象予報士の資格を取得し、上京。積み重ねた経験や身につけた技術を生かし、故郷の役に立ちたいと奮闘する姿を描く。
永瀬が演じるのは、百音の幼なじみ・及川亮役。愛称は“りょーちん”。高校卒業後、すぐに漁師見習いとして漁船に乗り始める。運動神経抜群かつ気配り上手なため、とにかくモテるが、本人は意に介せず飄々と振る舞っている。百音とは幼少時から不思議とウマが合い、気心が知れた仲。実は人知れず、カリスマ漁師だった父・新次(浅野忠信)との関係に悩んでいる。
東日本大震災以降、父・新次が船に乗らなくなり、酒に溺れてしまっていることが既に暗示されてきた。母・美波は第13話(6月2日)、永浦家の電話帳に名前があっただけで、その姿は登場していなかった。
普段は明るい亮だが、何かを抱え、陰も感じられる場面もあった。第21話(6月14日)、お盆休みを終えた百音は登米に帰る際、父に酒を売らないよう酒屋に頭を下げる亮を目撃。「何か困ってんなら、何もできないけど、メールとか電話とか聞くから」と心配したが、亮は「やめよう。ごめん。そういうの、オレ、やっぱいいわ。じゃあな」とバスに乗る百音を見送った。その背中は泣いていた。 第36話は、2015年の年の瀬、百音は3度目の気象予報士試験に意気込みつつ、故郷・気仙沼へ帰省。16年の年明け、百音が勉強に励む中、母・亜哉子(鈴木京香)について“ある噂”が島中に広がっていた。亜哉子が気仙沼本土で度々、ある男性と会っているというのだ。事の真相を確かめようと、百音と妹・未知(蒔田彩珠)は本土へ出掛ける母の後をつけるが…という展開。
この男性こそが亮の父・新次だった。どうやら、新次のアルコール依存症の治療のため、病院に付き添っているようだ。
探偵っぽい姉妹など比較的明るいタッチの第36話だったが、ラスト1分、雰囲気が一変。夜、狭い船室に横になり、波に揺られる亮。スマートフォン内の写真をスライドしていると、両親と自分の3ショットが出てきて、指が止まる。写真を拡大し、母のことを思うと、感情があふれ出した…。
現地の漁師を取材した桑野監督によると、亮が乗っているクラスの船の部屋は「実際に畳1畳分ぐらい。取材で拝見した時に『ああ、りょーちんはこういう場所で、ずっと夜を過ごしているんだな』とパッと見は華やかなりょーちんとのギャップを感じて、本打ち(脚本作り)で脚本の安達さんにお伝えしました」と見る側の心も締め付けられるシーンが誕生した経緯を明かした。
亮の髪の色も金髪から黒に変わったが「1つは時間経過を示すためです。第8週前の最後の登場だった第5週が2014年8月で、第8週は2016年1月。この世代の人たちは少し会わないと大きな変化を見せることがあるので、りょーちんも1年ちょっとの時間が経てば髪の色も変わっているのではないかと思いました。2つ目は、りょーちんの生活を想像して決めました。りょーちんも漁師になって2年目。基礎的なことを覚えて漁師の仕事がどんどん忙しくなり、同時に面白くなっている頃かな、と。そういう時は見た目を気にするよりも、少しでも仕事を覚えたいと思って日々を過ごしているのかな、と」という意図があった。
通常の撮影現場はドライ(カメラなしによるシーン全体の大まかなリハーサル)が終わると、演者はいったんスタジオを出て前室(スタジオ手前にある待ち合いスペース)に戻り、本番のセッティングを待つ。
しかし、今回は「この船室のシーンが、永瀬さんにとって第8週の最初の撮影。なおかつ、この作品の中で、りょーちんの抱えているものが如実に表に出る最初のシーンだったので、永瀬さんには前室に行かないでもらったんです。つまり、いったん前室で待ってしまうと、気持ちがリセットされてしまう可能性があるので、永瀬さんにはそのままスタジオの中にいてもらって、震災に関する資料を読んでもらいました。震災を経験したりょーちんの気持ちをキープしていてほしかったんです。そして『ずっと抑えていた感情を初めて解放してほしい』と伝えただけですが、永瀬さんは見事に演じてくれました」と絶賛。「OKを出した後、特に言葉は交わさなかったですが、りょーちんが背負っているものが少しつかめたのか、ちょっと安心しているような感じがしました」。台詞のないシーンだけに、研ぎ澄まされた集中力が必要だった。
永瀬はオーディションによる選考。決め手の1つは、モテ男という亮のキャラクターへの説得力。もう1つは、12歳の時にジャニーズ事務所に入った永瀬が「アイドルとして、ずっと人前に立ち続けてきて、プレッシャーも背負ってきたからなのか、永瀬さんは普段からどこか落ち着いているんです。一方で、りょーちんは震災を経て自分のことよりも周囲の期待に応えることを優先してしまうところがあり、その姿はどこか同級生たちよりも落ち着いている。自分には、その落ち着きがりょーちんと重なって見えました。だからこそ、その落ち着きの奥に潜んでいるものが何なのか、視聴者の皆さんも気になるのかなと思います。それが第8週は初めて吐き出されるわけですから、この週の永瀬さん、りょーちんは凄く魅力的なんだと思います」と共通項を見いだした。 今週の永瀬&りょーちんの一挙手一投足に神経を注ぎたい。