2020年11月1日
オリコン
アニメ『秘密結社 鷹の爪』シリーズのグッズとして、2011年から販売されている恒例の「鷹の爪島根自虐カレンダー」。2021年版が9月14日に発売されたが、カレンダー1000部(総額120万円※税抜)を購入すると、購入者を主人公にしたオリジナルアニメ(3分程度)がついてくるという前代未聞の企画を実施していた。そこでORICON NEWSは企画担当者に「1000部購入した人がいたのでしょうか?」と聞くと、30代の夫婦1組だけいたことが判明し、担当者と購入者にインタビューを実施。企画の狙いや購入理由などを聞いてみた。
■カレンダー企画は自治体“盛り上げ”が発端「自虐PRの元祖」
同カレンダーは、「こんなにいじっちゃっていいの?」と心配になるほど島根の「ご当地自虐」ネタでデザインされているアイテム。第1弾が発売された2011年には、直後から日本テレビ系『月曜から夜ふかし』や『スッキリ!!』、フジテレビ系『とくダネ!』に取り上げられ、3000部売れたら大ヒットと言われているカレンダー業界の中で、2014年は3万6000部を完売。その後も毎年新作が発売され、累計約10万部以上の人気シリーズへと成長している。
そもそも、11年から続く『鷹の爪』カレンダーシリーズの企画は、どのような狙いで始まったのだろうか。担当者は「カレンダーに目を付けたというよりは、島根×自虐に目を付けたことが始まりでした。そもそも鷹の爪団が島根県公認で自虐PRを始めたのは、2007年の『ワースト脱出大作戦』というNHKの番組が発端となります。『日本一どこにあるかわからない県』である島根県の汚名返上をするために、原作・FROGMANさんが島根ゆかりのクリエイターとして出演。島根の場所を指すものとして『島根は鳥取の左側です』というキャッチフレーズを生み出しました」と経緯を説明した。
「この自虐的なキャッチフレーズが非常にウケまして、そのキャッチフレーズをTシャツ化したところ、そのTシャツを当時の島根県知事が番組内で着てくださって…そこから島根県内で自虐PRがどんどん受け入れられていくようになりました。保守的なイメージのある自治体が自虐PRを取り入れたのは衝撃で、メディアでも広く取り上げられました」と反響は大きかったという。
これを受けて、カレンダー企画が始まったそうで「話題となり、県内外で愛されるようになった島根自虐をより多く長く楽しんでいただくにはどうしたら良いかを考えた結果、1年365日使用できるカレンダーに行き着きました。今年で販売から10年が経ちますが、『鷹の爪 島根自虐カレンダー』は、自治体自虐PRの元祖として、今なおご好評いただいているシリーズです」と明かした。
■1000部購入企画は“ネタ”「軽いノリで始まった」 購入者がいて驚き そして、気になる21年版のカレンダーは、スタイリッシュなデザインで実用的、かつ自虐の質は時事ネタを取り入れている。今回、発売を記念して「1000部購入者だけのオリジナルアニメを制作する」前代未聞な企画を実施したが、発売前に担当者は「ノリで決めた企画なので実際に買われたら困る」と苦笑いしていた。それもそのはず。実際に注文すると、100部入りの大きなダンボールが10箱届くことになり、購入者の懐と部屋の広さが試される企画だからだ。
この企画の誕生については「1000部セットは、元々企画していた50部セットよりインパクトのある企画を検討していた時に、社内の立ち話から誕生しました」と笑いながら、「去年、『鷹の爪 島根自虐カレンダー』を結婚式の引き出物にと、まとめてご購入いただいた方が何名かいらっしゃいました。せっかくの大事な節目のプレゼントに『鷹の爪 島根自虐カレンダー』を選んでいただいているので、今年はカレンダー以上の何かも添えてプレゼントしたい、という思いから、50部のまとめ買いセットの販売は企画していました」と話す。
「ただコロナの影響で書店への集客が難しい中で、カレンダーを多くの方に楽しんでいただくために、どうにかWEBで話題化させることが課題にありまして、50部セット以上に大きな企画が必要になってきました。そこで、数字の大きさでインパクトを…DLEから出せる最大限の付加価値は…ととにかくインパクトを求めて出てきたアイデアをそのまま勢いで実行に移した企画が、1000部セットです」と説明。まとめ買いする人が過去にいたこと、さらに話題性を出すためとして“1000部”企画が誕生した。
しかし、この企画は“ネタ”として捉えてほしかったという。「ネットがざわつけばいいな、くらいの軽いノリで始まった企画のため、応募者はいないと思っていました。正直、アニメーションの制作のことを考えると、実際に応募者が現れたら困るな、とも思っていました」と苦笑い。「ただ、120万円あれば車や高級腕時計も買える中で、今回の企画にその価値を見出していただけたのは、非常にうれしい限りです。始まりは“ネタ”でしたが、もちろんファンへの感謝の気持ちを込めて“本気”で作らせていただきます」と支持されたことを喜んだ。
そして今回、1000部購入した人が現れたわけだが「最初は驚きが強く、購入者の方を心配しました(笑)。『本当に1000部ですよ?大丈夫ですか?』と。ただ、今は私も完成を楽しみにしています。一度お打ち合わせさせていただきましたが、鷹の爪に限らずFROGMAN作品を昔からチェックいただいていて、今回のコラボについても非常に楽しみにしていただいていることが伝わってきました。普段ファンの方の声を直接聞ける機会というのは少ないので、『我々が作るものを楽しみにしていただいている方がいる』という事実が純粋にうれしかったです。アニメーションでは、鷹の爪と購入者様の掛け合いを描いて、購入者様には本人役として声優にもチャレンジしていただく予定です。今回どのようなアニメーションにしたいか、購入者様からもご要望をいただいたので、一緒に思い出に残るようなアニメーションを作り上げていくことができればと考えています。制作側として得る物は非常に大きかったので、企画を展開して今はよかったと思います」と心境を伝えた。
■1000部の購入者、120万円の大金も“お買い得”「ネタとして最高だな!」 ネタで始まった今回の企画だが、1000部購入した人は30代の夫婦。今回の企画に興味を持った理由を購入した方に聞くと、旦那さんは「作品が大好きなんです。今回、妻が1000部販売の情報をツイッターで見かけて、アニメも制作してもらえるというのはお買い得だなと…。というのは、後付け感もあるんですが(笑)、正直ネタとして本当に面白いなと思って購入しています」と告白。
1000部購入するために120万円の大金を出すことになる。それについて抵抗感はなかったのだろうか。「大金といえば大金なのですが、個人でアニメ―ションを作ったりとか、それこそ自分の大好きなアニメとコラボするのは、お値段以上だなと魅力に感じて、全然抵抗はありませんでした。むしろ決済画面をスクショとって『こんな買い物したんだよ(笑)』って周囲に伝えてました。ネタとして最高だな!という気持ちに行きついているので、決して安い金額ではありませんが、高いなぁと思って購入はしておりません」と作品のファンとしてはお買い得な企画だったと話してくれた。
また、個人的に気になった、カレンダー1000部はどのように“処理”するのだろうか。「自宅に1000部飾るのでしょうか?」と聞くと、「まずは並べます(笑)。どれほど敷き詰められるのか、山積みにしてみたり。カレンダーを年末年始で友人に配ってみようかなと。あとはアニメ―ションもQRコードなどをシール張り付けて、いろいろな人に配れたらうれしいかなと思っております」と親戚や友人に配ると説明。残ってしまっても、それはそれで“ネタ”として「面白い!」と余裕の笑みを見せると、奥さんは「自分の人生で面白い、『こういうのやったよ!』といえるのはいいネタにはなるなと、すごい楽しみにしています」とにっこり。ネタアニメ、ネタ企画に対して“ネタ”で受け止めるファンの鑑(かがみ)を見た瞬間だった。